「臨死体験」にまつわる医学的研究が進んでいる「最期のとき、体に何が起こるのか」専門家が解説|「走馬灯」や「体外離脱体験」のメカニズム
徐々に明らかになる臨終のメカニズム。日本でも画期的な発見があった。
「聖隷三方原病院(静岡県)の研究者らが全国のがん患者を調査したところ、亡くなる間際に意識が明瞭になるなど臨死体験に近い現象が見られたケースが、5人に1人と高い割合で報告されました」(室井さん)
『死ぬということ』の著書がある医師で医学研究者の黒木登志夫・東京大学名誉教授はこう言う。
「事故や心筋梗塞などで突然亡くなる場合を除き、多くの死は、徐々に衰弱して亡くなるプロセスを辿ります」
黒木さんは、ホスピスや緩和ケアなど現場の専門家の知見から「死のプロセスで現われる兆候」をまとめた(下の表参照)。
「死のプロセスで現われる兆候」。自覚できる「死の予兆」とは?
<死亡する2〜4週間前>
・食欲減退
・のどの渇き
・睡眠時間増加
・軽い幸福感がある
・せん妄
<死亡する1〜2週間前>
・眠る時間が長くなる
・意識が朦朧とする
<死亡する当日〜数時間前>
・体温、血圧の低下
・尿量の減少
・呼吸の乱れ
・脈が不規則に
・皮膚、唇、手足の色が青くなる
臨死体験で経験する心地よさや幻覚は脳に備えられた「仕組み」
「体重減少など目に見える衰弱のほか、死の2〜4週前には食欲の減退やのどの渇きがあるほか、軽い『幸福感』を覚えることもあります」
死の数週間前から直前まで起こり得る症状の一つが「せん妄」だ。「誰かが迎えにきた」「亡くなった母親が現われた」など、幻視を訴えることもある。しかし、「それも死にゆく過程の自然な症状」だと黒木さんは言う。
前出・駒ヶ嶺医師は臨死体験で「穏やかな気持ち」や「幸福感」が生じる理由をこう考察する。
「臨死体験で経験する心地よさや幻覚は、麻酔薬ケタミンの作用と酷似しています。ケタミンは脳内の『NMDA受容体』という物質の働きを抑えることで作用しますが、臨死体験でも同様の働きがあるとの仮説があります。死の淵に立った脳は、パニックに陥るのを防ぎ、苦痛を和らげ、万に一つの生存の可能性を高めるために、自ら『麻酔』をかけているような状態なのかもしれません」
臨死体験は、死の恐怖を和らげるために脳に備えられた「仕組み」と言えるかもしれない。
写真/PIXTA
※週刊ポスト2025年8月1日号
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