「集音器」と「補聴器」は何が違う?目的・機能・選び方を専門家が解説
「最近、テレビの音量が大きいと言われる」「会話を聞き返すことが増えた」――そんな“聞こえにくさ”を感じたとき、候補に挙がるのが「集音器」や「補聴器」だろう。しかし、この2つは見た目が似ていても、目的や機能、役割はまったく異なる。違いを知らずに選ぶと、聞こえの改善につながらないばかりか、かえって負担になることもある。そこで今回は、専門家に「集音器」と「補聴器」の違いや、それぞれが向いている人、選び方のポイントを教えてもらった。
教えてくれた人
市村恵一さん/日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、医学博士。自治医科大学名誉教授。東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長。補聴器相談医として同クリニックで高齢者の補聴診療に携わる。
田中智子さん/認定補聴器技能者、補聴器専門店「うぐいす補聴器」代表。ドイツの大手補聴器メーカー勤務、訪問診療クリニックの事務長を経て、現職。MBA保持。本人の生活に合った補聴器の提案や補聴器を使いこなす周辺グッズの開発も行う。https://uguisu.co.jp
健康寿命を延ばす補聴器の正しい選び方
加齢とともに耳の機能は衰えていく。聴力は40代から徐々に低下し、75才以上では約半数が難聴とされているという。では、補聴器はどのような段階を踏んで使い始めればよいのだろうか。
「50代で一度、耳鼻咽喉科(できれば補聴器相談医)で聴力検査を受けましょう。60才からは年1回検査を受け、進行度を見ていきます。軽度なら様子を見るケースもありますが、中等度以上なら認定補聴器技能者を紹介してもらいます。重度だと人工内耳の手術をすることもあります」(耳鼻咽喉科医の市村恵一さん)
補聴器は技能者と相談しつつ試し、調整完了後に購入するが、脳が新しい音に慣れるまで約3か月かかる。
「現在の補聴器は自動で雑音を抑制し、必要な音だけを増幅するデジタル式が主流。形は主に耳の穴に入れる『耳穴型』と、耳に引っかけて使う『耳かけ型(BTEとRIC)』があり、眼鏡をかけているかなど、ライフスタイルに合わせて選びます」(認定補聴器技能者の田中智子さん・以下同)
聞こえにくさを解消するものとして「集音器」もある。これは音を大きくさせるだけなので、軽度難聴でテレビ音が聞こえにくい程度の悩みなら解消できるが、補聴器代わりにはならないので使い分けが必要だ。
「欧米諸国の補聴器利用率が約30~55%なのに比べ、日本は約15%。そのため、海外製補聴器の技術力が比較的高く、いまは各メーカーが最新機能の開発に力を入れています。病院に行くのに抵抗があるなら、まずは気軽に補聴器店を訪れて試用してください。試すだけでも価値があります」
聞こえる快適さを知れば、手に取りやすくなるはずだ。
最新の「集音器」「補聴器」の違いを徹底比較!
集音器(一般家電)
周囲の音をすべて大きくして耳に届ける集音器。医療機器ではなく一般家電(音響機器)のため、一般的な家電量販店などでも購入が可能だ。
<価格>(片耳)数千~10万円
<メリット>
●補聴器に比べて安価。
●通販などで手軽に購入できる。
●操作が簡単。
●調整不要ですぐ使える。
●聴力に合わせて調整された音が出る機種も。
<デメリット>
●難聴の進行度が軽い人しか使えない。
●騒がしい場所では音が大きすぎる場合も。
●聴力に合わせられない機種は難聴進行リスクを上げる可能性がある。
●控除や補助金適用外。
補聴器(医療機器)【耳穴型】
耳の穴に入れる『耳穴型』。
<価格>(片耳)10万~65万円
<メリット>
●小さく目立たない。
●帽子や眼鏡、マスクをつけても邪魔にならない。
●オーダーメードできる。
●医療費控除と補助金が活用できる。
<デメリット>
●自声の響きが気になる場合も。
●耳あかが湿っているタイプの人だと故障のリスクが高い。
●素材が硬く、装着時に気になる人も。
補聴器(医療機器)【耳かけ型/BTEタイプ】
耳に引っかけて使う『耳かけ型(BTE対応)』。
<価格>(片耳)10万~65万円
<メリット>
●音を出すレシーバーが本体に内蔵されている。
●多機能。
●素材が柔らかく耳にやさしい。
●掃除がしやすい。
●医療費控除と補助金が活用できる。
<デメリット>
●帽子や眼鏡、マスクをつけていると邪魔になることも。
●耳穴型、耳かけ型RICに比べると目立つ。
補聴器(医療機器)【耳かけ型/RICタイプ】
耳に引っかけて使う『耳かけ型(RICタイプ)』
<価格>(片耳)10万~65万円
<メリット>
●耳に入れる部分にレシーバーがついていて音がクリア。
●最先端で多機能。
●耳栓の種類が豊富で装用感がいい。
●目立ちにくい。
●医療費控除と補助金が活用できる。
<デメリット>
●帽子や眼鏡、マスクをつけていると邪魔なことも。
●耳かけ型BTEに比べると、こまめなお手入れが必要。
●小さいので手先が不自由な人には不向き。
最新技術が光る!代表的な補聴器ブランド一覧(50音順)
※一覧は編集部で作成。
<リオネット>(日本製)
1948年日本初の量産型補聴器を発売した老舗で、国内シェアナンバーワン。快適なフィッティングを重視しており、オーダーメードが充実。
<オーティコン>(海外製)
創業120年のデンマークのブランド。脳の働きを研究したうえで開発されたAI(人工知能)を搭載した補聴器を開発。
<シグニア>(海外製)
複数の相手の声を捕捉するロックオン機能を搭載した補聴器などを開発。独自の音声処理技術で人の耳に近い自然な聞こえを実現。
<スターキー>(海外製)
1967年創業のアメリカのブランド。聞きたい音声を予測するAIを搭載した補聴器を開発。転倒検知機能も搭載。
<フォナック>(海外製)
1947年創業のスイスのブランドで、世界シェアナンバーワン。100か国以上で事業を展開。25年間の機械学習で開発したAIを搭載。
<リサウンド>(海外製)
1943年創業のデンマークのブランド。補聴器をしていることを忘れるほどの装着感を目指し、世界最小のAI補聴器などを開発。
<ワイデックス>(海外製)
デンマークのブランド。世界中のユーザーから集められたビッグデータ分析に基づく最適な調整で、自然な聞こえを実現。
写真/Getty Images
※女性セブン2025年12月4日号
https://josei7.com
●耳の不調は“内臓”から整える。聞こえを改善する「腎×腸」エクササイズ4選
