祖母の家に突然やってきた謎の訪問業者「不要な靴はありませんか?」不安を感じた孫が取った対策
高次脳機能障害の母のケアをしてきたヤングケアラーの高橋唯さん。母は施設で暮らし始めたが家に帰りたがっているため「これで良かったのか」と気が休まらない。そんな中、幼い頃から可愛がってくれた祖母の家に謎の訪問業者が現れて…。高齢者や障害のある人が悪質な訪問販売に騙されないためにはどうしたらいいのだろうか?
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
祖母の家に現れた謎の男
障害のある母が施設で暮らし始めて3か月が経過した。相変わらず家に帰りたいと電話をかけてくるが、頻度は減ってきたように思う。母のケアから一時的に離れたとはいえ、筆者は相変わらず生粋のケアラーなようで、最近では近くで暮らしている祖母のことを心配している。
祖母は父方の祖母だが、私が幼いころから自転車でよく我が家に来てくれて、私や母を気にかけてくれていた。最近では、逆に私が祖母の家に足を運び、行政手続きや通院を手伝うことも増えている。
先日、祖母と出かけた際、祖母が何気なく「そういえばね、この間、男の人が来て、いらない靴ないですかって言ってきたんだよ」と話し始めた。
祖母の話をまとめると、以下のようになる。
家の玄関の前に座っていたところ、近所を男の人が歩いているのが見えた。すると、その男が「いらない靴はないか」と話しかけてきた。「売るような良い靴はない」と答えたが「どんな靴でもいい」と言うので、祖母はずっと履いていなかった靴を出してきた。すると男は「買い取りたいが、今はお金を持っていない。取ってくるので待っていてほしい」と言って、一度去って行った。
30分後くらいに、今度は別の男を連れて2人で戻ってきた。男たちはさらに、なにかアクセサリーはないかと聞いてきた。祖母はまた「売れるようなアクセサリーはない」と答えたが、結局、筆者が幼い頃にままごとで遊んでいたようなおもちゃのアクセサリーを見せたところ、男たちはそれも一緒に買い取って帰って行った。
売買契約書を見てみると…
祖母は「あんなものでも1200円になった」と嬉しそうだったが、筆者としてはなんとなく怪しさを感じた。後日、祖母の家に行って、売買契約書を確認させてもらった。
売買契約書には、祖母の生年月日、住所、電話番号が印刷されていた。祖母に「生年月日とかは、買取に来た人たちに聞かれて答えたの?」と聞いたが、祖母は「答えていない」と言う。また、チェック項目の中で「法律上、身分証の提示が必要であることの説明を受け、身分証をご提示いただきましたか」の欄にチェックが入っていたので、「保険証かなにかを見せた?」と祖母に聞いたが、それも「見せていない」とのことだった。
高齢の祖母がどんなところに住んでいるのか、日中は家に誰がいるのかなども含めて、この一件から、個人情報が流出して振り込め詐欺や強盗につながってしまうのではないか…。心配になった筆者は、近所の消費生活センターに相談してみた。
個人情報は大丈夫?消費生活センターに聞いてみた
祖母とともに消費生活センターを訪れ、これまでのいきさつを話すと、職員さんは開口一番に次のことを教えてくれた。
「そもそもね、こちらから依頼していないのにもかかわらず、飛び込みで訪問買取をすることは、特定商取引法違反なんです」
筆者は、訪問販売があるくらいだから、逆の訪問買取もありえることだと思っていたので、違法行為と知って驚いた。
それから筆者としては、祖母本人が身分証を提示していないと言っているのに「身分証を提示した」の項目にチェックが入っていることも気になっていた。
ひょっとして、祖母がアクセサリーを探しに行っていた隙に、了承を得ずに身分証を盗み見られたのかも?と職員さんに聞いてみたところ、「1万円未満の取引の場合、身分証確認が免除されることもあるので、実際に確認はしていなくても、確認をした、ということで処理することはありえます」とのことで、ひとまず安心した。
それならばなぜ、祖母の生年月日が知られているのだろう、とも思ったが、おそらく本人も気がつかないうちに、話している中で自然に聞き取られてしまったのかもしれない。
今後も要注意?消費生活センターからもらった対策アイテム
職員さんは親身になって不安に寄り添ってくれたが、結局は「もう個人情報は戻ってこないので、知らない番号からの電話には絶対に出ないとか、家の周りの様子をよく確認するとか、より気をつけるようにするしかありません」とのことだった。
次に訪問買取に出くわしたら、毅然と「違法です」と言えたらよいのだが、今回のような成人男性2人が相手だったら、祖母には無理だろう。
すると職員さんが「一応、訪問販売お断りのステッカーを持ち帰ってください。消費生活センターのことを調べていて防犯意識が高い家なのだとアピールする効果は多少ありますから」とすすめてくれた。
母のように障害のために適切な判断が難しい人や、最新の手口に疎い高齢者は、どんなケースが詐欺で、どう対応すればいいか、本人だけではわからないということも多いだろう。
不用品買取の詐欺で被害にあっているのは、8割が高齢女性※という報告もある※。今回はなぜか1200円が支払われたが、次の訪問で何か企んでいるのではないか…。
詐欺や強盗に加え、昨今ではクマ出没もあり、そろそろ祖母と離れて暮らすのも心配になってきた。しかしながら、せっかく母のケアが一段落したのに…という気持ちもあり、揺れる思いで帰路についた。
※国民生活センター「不用品を買い取ると言ったのに貴金属を買い取られた!!-終活の一環!?高齢者を中心に訪問購入のトラブルが発生しています-」
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20170907_1.html
■全国の消費者センターを紹介してくれる窓口「消費者ホットライン」/188(局番なし)
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年末年始が近づいている。読者のみなさまもぜひ、帰省した際には高齢の家族の身の回りのことを気にかけてほしい。帰省を受け入れる側のかたも、なにか変わったことがあったら家族や身近な話せる人に雑談程度でも話してみて、情報共有してほしい。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz
