「脊柱管狭窄症」“3つの段階”で対策が違う。名医が教える正しい見分け方とケア方法
脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)の改善策をいろいろと試したが、効果が出ない…。そんな患者に対し、まず自分のステージを知ることが大事だと説くその道50年の専門医がいる。脊柱管狭窄症には3つの段階があり、それぞれ正しいアプローチをしなければ痛みが消えないのだという。自覚しづらい3つのステージの見分け方と、適切な対策を学ぼう。
教えてくれた人
黒澤尚さん/整形外科医
順天堂大学医学部整形外科学名誉教授。社会医療法人社団順江会江東病院理事長。専門は、腰・ひざなどの関節痛、スポーツ外傷、関節鏡手術、変形性ひざ関節症、運動療法など。1980年代後半から、ひざ痛が改善できる「黒澤式ひざ体操」を提唱。著書は『これで改善!女性の変形性ひざ関節症』(PHP研究所)、『ひざ痛-変形性膝関節症-自力でよくなる! ひざの名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。
国民病と言われている「脊柱管狭窄症」には「初期・中期・末期」という3つのステージがある
脊柱管狭窄症は推定患者数580万人以上とされ、70代では10人に1人が患うとも言われる国民病。だが、認知度の高まりに反して適切な治療法を知らない人が多いという。
整形外科医として50年以上のキャリアを持ち、脊柱管狭窄症に向き合い続けてきた順天堂大学医学部名誉教授の黒澤尚医師(江東病院理事長)が指摘する。
「脊柱管狭窄症は症状に応じて『初期・中期・末期』という3つのステージがあります。症状を改善するには、各ステージに応じた適切な治療が欠かせません。しかし、それを知らずに漫然と自己流でストレッチをやったり、湿布を貼ったりしている人がいる。かえって症状が悪化してしまうケースもあります」(以下「 」内は黒澤医師)
背骨は椎骨が積み木のように重なってできている。その真ん中に「脊柱管」と呼ばれる神経が通る孔がある。椎骨をつなぐ椎間板が潰れて脊柱管側にはみ出てくるなど、周囲に押されることで狭くなり、脊柱管内部の神経が圧迫されて痛みや痺れの症状が出るのが脊柱管狭窄症である。
「発症の原因は大きく分けて2つあります。1つは背骨の横の孔から出る神経の根元が圧迫される『神経根型』。もう1つは、脊柱管を通る神経の束(馬尾(ばび))が圧迫される『馬尾型』です。
神経根型はお尻から片側の足にかけて、馬尾型は両足や会陰部など下半身の様々な部位に症状が出るので神経根型よりも厄介です」
症状は神経根型、馬尾型で異なる
「神経根型は“痛み”、馬尾型は“痺れ”が現われます。神経根型はお尻から左右どちらかの足にかけて痛みを感じる一方、馬尾型は両足裏やお尻、股に痺れを感じるのが特徴です。
両者ともにしばらく歩くと痛みや痺れが現われ、休むと楽になる『間欠性跛行(かんけつせいはこう)』も見られます」
前述した3つのステージは痛みや痺れの度合いで分けられる。
「初期は神経根型の場合、お尻から太もも、ふくらはぎにかけてピリピリした痛みが出る。馬尾型は両足裏にジンジンとした痺れを感じます」
中期は歩行時間や股間周りの違和感がひとつの目安になるという。
「中期では神経根型は10分ほどで間欠性跛行が生じて歩けなくなったり、神経の圧迫が強まり足に力が入らない『脱力状態』が生じたりします。
馬尾型は両足の裏側の感覚が鈍くなる。肛門と性器の間にある会陰部に異変を感じるのも特徴です。ここに冷感を強く感じる患者が多い一方、灼熱感や火照りを感じる患者もいます」
末期になると神経根型は痛みが激しく、足に力が入らず歩行困難に。
「やっかいなのが馬尾型の末期です。会陰部の感覚がなくなり、排尿・排便障害でお漏らししてしまうことも。ただ馬尾型は痛みの感覚が出にくいので、ここまできても症状の重さに気付かない人がいます」
自分がどのステージなのか、見分け方をまとめたので参考にして欲しい。
「脊柱管狭窄症」ステージの見分け方
軽度
<症状とポイント>
■お尻から足までピリピリと痛む
お尻から太もも、ふくらはぎにかけてピリピリとした痛みを感じるが前屈みになるとラクになる
■足裏がジンジンと痺れる
両足裏にジンジンと痺れが出る。20分ほど歩くと辛くなり、休むと楽になる
中等度
<症状とポイント>
■10分程度も歩けない
間欠性跛行が強くなる。足首や足の甲にも痛みを感じるようになる
■股間が冷たく感じる
会陰部の違和感や冷感を強く感じ、トイレが近くなる。両足の感覚も鈍くなる
重度
<症状とポイント>
■5分程度も歩けない
足の痛みが限界で5分程度も歩けず歩行困難。脚力が衰え、足の感覚も鈍くなる
■よくお漏らしをする
排尿・排便に障害が現われ、失禁をしてしまう。会陰部と両脚の感覚がほぼなくなる
※週刊ポスト2025年12月12日号
