小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
連載

兄がボケました~認知症と介護と老後と「第54回 激しい腹痛に見舞われました」

 十数年前、兄、両親との同居を再開したライターのツガエマナミコさん。その後、父が交通事故で急死、十年ほど前に母も他界し、自ずと兄との二人暮らしが始まりました。兄が若年性認知症を発症したのもその頃です。それから兄のサポートに明け暮れたマナミコさん。それは想像を絶する大変な日々ではあったものの、マナミコさんにとって、たった一人の家族となった兄へは、特別な想いがあるのです。

 * * *

油・調味料の劣化問題

 兄が家を出ていく夢をみました。

 夢の中の家は、見覚えのない間取りでしたが、たしかに兄は荷造りをして出ていこうとしており、わたくしは「もっとあったかい服着た方がいいんじゃない?」と気遣いながらも止める様子はございませんでした。

 目覚めたとき、妙に悲しい気持ちが沸き起こりました。滅多に夢を見ないわたくしの稀に見た夢が「別離」だなんて……縁起でもない。現実のわたくしは「一人にしないでおくれよ」とすがる思いでございます。

 そんな気持ちで兄の面会に行くと、兄はいつもの車イスではなく、ベッドに寝ておりました。スタッフの方によると「歯茎から出血があり、さきほど歯科衛生士さんにみていただきました。今は出血もなく、お食事も召し上がっています」とのこと。穏やかな様子でございましたが、よくみると胸元に拭き取ったようなピンクの汚れがうっすら付いておりました。

 ほっそりした様子や、わたくしの手をぎゅっぎゅと握る感覚や、あまりに優しい微笑みがわたくしを不安にさせております。今になって思うと抵抗して暴言を吐くくらいのほうが、元気があってよかったと思ってしまうほど。ないものねだりとはよく言ったものでございます。妙な夢を見たせいで、やや感傷的になっている妹でございますが、兄はそこそこ元気でございますので、ご安心くださいませ。

 兄が施設に入居して1年以上が経ちまして、家での調味料や油などの使用量がガクンと減りました。一人だと食事を買って来てしまったり、作っても少量なので、これまで当たり前に賞味期限前後に使い終わっていたものが、使い切れていないことに最近気づいた次第でございます。

 先日、サラダ油で魚を焼いたときに、古い油の匂いがして驚きました。最近はごま油とオリーブオイルを多用していて、久しくサラダ油を使っていなかったのでございます。

 兄がいた頃には、1か月に1回ぐらいは揚げ物をしたのですが、そんな面倒なことは滅多にしなくなって、サラダ油の半分以上が見事に劣化しておりました。

 油もお醤油もお味噌も「開封後はなるべく早めにご使用ください」と書かれております。おそらく2~3か月が目安でございましょう。多少味が落ちるのを覚悟しても半年以内には使いきらなければならないと考えると、これまでのサイズ感を一新しなければなりません。

 先日、それを強く感じた出来事がもう一つございました。

 夜にひどい腹痛に襲われたのでございます。

 トイレに何十分もこもって、脂汗を掻きました。なにか悪いものに当たったに違いないのですが、いつにも増して排出に手間取っておりますと、吐き気までもがやってくる気配。バケツに代わる何かがそばにないかと考えて、背後の棚に無造作に置かれた袋入りのトイレットペーパーをむんずと掴みました。中身のペーパーをすべて取り出し、嘔吐用ビニール袋にしたのでございます。「これでいつリバースしても大丈夫」と安堵したと同時に、つっかえていた排出がスムーズに進み一件落着。背後のトイレットペーパーを取るために思い切り体をひねったのが効いたのかもしれません。吐き気も治まり、事なきを得ました。

 その後、数回トイレに通いましたが、1時間もすると嘘のようにスッキリ。「今回は何に当たったのかな」と食べたものを反芻したところ、お昼に肉まんを食べた際、使った黒酢が犯人濃厚説となりました。1~2回使った切りの黒酢は賞味期限から1年半経過しており、開封してからは何年経ったか不明の代物でした。それでも「お酢だから大丈夫だろう」と思ったのがあまりにも浅はかでございました。もしかしたら冤罪かもしれませんが、今のところ古い黒酢しか思い当たるものがございません。さすがのお酢でも開封したら数年後にはアウトになると学習いたしました。これからは滅多に使わないものには手を出さないということと、割高でも少量パックであれこれ購入しなければ……。

 過去に一人暮しをしていたときには、なぜか気づかなかった油・調味料劣化問題。いかに今は自炊をせず、怠惰なのかが証明されてしまいました。

◀︎前の話を読む

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

新設情報!老人ホーム、介護施設、デイサービス
新設情報!老人ホーム、介護施設、デイサービス
老人ホーム、介護施設、デイサービスの新設情報をご紹介!
【脳活】でうっかり物忘れを楽しく防ぐ!
【脳活】でうっかり物忘れを楽しく防ぐ!
うっかり物忘れが増えてきた…。脳の衰えが気になるときは、川島隆太教授監修の【脳活】に挑戦しましょう。介護のなかま会員になると問題がダウンロードできます。
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します