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健康

「臨死体験」にまつわる医学的研究が進んでいる「最期のとき、体に何が起こるのか」専門家が解説|「走馬灯」や「体外離脱体験」のメカニズム

 この世に生を授かった以上、避けて通れないのが「死」だ。近年、世界各国で「死の瞬間」について研究が進んでいる。私たちは最期に何を見て、何を感じるのかーー。その一端が明らかになってきた。

教えてくれた人

古閑比斗志さん/いすみ医療センター診療局長・内科医、室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、駒ヶ嶺朋子さん/獨協医科大学助教・脳神経内科、松本信圭さん/東京大学大学院薬学系研究科特任助教、黒木登志夫さん/東京大学名誉教授・医師・医学研究者

「心地よい感覚だった」。臨死体験をした医師が語る死の瞬間

「2012年6月の土曜の朝のことです。部屋の雑巾がけをしようと屈み込んだ瞬間に倒れ、『あ、これはただ事ではないぞ』と死を直感しました」

 そう語るのは52歳で脳幹梗塞を発症した内科医の古閑比斗志さん(いすみ医療センター診療局長)。当時は単身赴任中で、自宅で一人倒れた際にこんな体験をしたという。

「意識が薄れて目を閉じると、なぜか眩い光が見えました。光の中に溶け込んで分解されるような心地よい感覚で、このまま目を閉じていたらどんなに楽だろうか、と。しかし、子供が学生だったこともあり『まだ死ぬわけにはいかない』と思い留まりました」

 1〜2時間後に意識が戻ると、古閑医師は手元の携帯電話で救急車を呼び、一命を取り留めた。

「左半身麻痺の自覚症状などから脳幹出血を疑いましたが、搬送後の精密検査では出血がなく、脳幹梗塞との診断でした。意識が薄れている間に私が体験した『光』は、臨死体験で言われる三途の川やお花畑と同じ現象のバリエーションなのだと思います」(同前)

 近年、古閑医師が語ったような「臨死体験」にまつわる医学的な研究が各国で盛んになっている。

 医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。

「この10年ほど『Nature』や『Cell』系列の一流学術誌に関連研究が次々と掲載され、臨死体験は研究分野として確立しつつあります」

 背景には「終末期医療」のニーズがある。

「人が亡くなる間際には、肉体的にも精神的にも非常に特殊な状態に置かれます。終末期の患者さんに起こり得る様々な現象を科学的に解明し、ノウハウを蓄積することで、尊厳死を含む終末期医療、緩和ケアに繋げたいという実務的ニーズがあるのです」(室井さん)

 誰もが必ず迎える最期の瞬間、死の苦痛や恐怖はあるのか。

『死の医学』の著者で獨協医科大学助教の駒ヶ嶺朋子医師(脳神経内科)が言う。

「医学的な『死』の定義は、呼吸、心拍動、脳幹機能の活動停止です。しかし、近年の研究から、脳は『穏やかに死を迎えようとする精巧なメカニズム』を備えているらしいことがわかってきました。脳神経内科医にとって臨死体験は決してオカルト話ではないのです」

「走馬灯」や「体外離脱体験」は脳波の活発化が起因していた

 臨死体験研究が注目を集めたきっかけは、1983年に米国の精神科医が開発した「グレイソン臨死体験尺度(グレイソン・スケール)」だった。

 数百例に及ぶ臨死体験の証言から抽出された共通項を基に、「時間の感覚の変化」や「思考スピードの変化」など16項目の体験の有無や程度を点数化し、32点満点のうち7点以上で「臨死体験」と判定される。

「グレイソン・スケールの開発により、主観的な体験を数値化し、統計的に比較・分析することが可能になりました。これにより、臨死体験研究が科学の領域に前進し、細かなバリエーションの違いはあるものの、臨死体験が地域や文化を問わず共通する現象であるとわかりました」(同前)

 過去の光景が再生され一瞬のうちに膨大な記憶が蘇る「走馬灯」や、意識が肉体から離れる「体外離脱体験」(幽体離脱)などは、21世紀以降の脳神経科学の飛躍的進歩により、仕組みが解明されつつある。

 特に幽体離脱は臨死体験者の約8割が経験すると言われるが、体の位置や空間を認識するのに重要な役割を担う「側頭頭頂接合部」に起因することが判明。

 2002年、スイスの脳神経外科医オラフ・ブランケ氏が『Nature』に発表した内容によると、あるてんかん患者の検査が発見のきっかけだった。

「手術前の検査で側頭頭頂接合部に電気刺激を与えたところ、『高い場所からベッドに横たわる自分の姿が見える』と患者が証言したと報告されました。その後、他の研究グループによっても同様の現象が確認されたことで、体外離脱体験は『特定の脳部位の活動により引き起こされる再現性のある現象』と判明しています」(駒ヶ嶺さん)

 動物実験でも「臨死体験」が研究されている。2013年に米ミシガン大の研究者らが発表した論文では、ラットの心停止後、脳活動が止まる約30秒の間に脳波が活発化することがわかった。なかでも知覚や意識に関連する高周波の「ガンマ波」が覚醒時を上回るレベルで急増したという。神経機能学が専門の松本信圭・東京大学大学院薬学系研究科特任助教が言う。

「この研究での脳波は前頭葉から後頭葉に流れ、情報を呼び起こす脳内活動が示されていました。いわゆる“走馬灯”のような活動とも捉えられます」

 ミシガン大の研究グループは2023年にも注目すべき研究結果を発表している。前出・室井さんが言う。

「心肺蘇生中止後に亡くなった4人の患者の脳波を解析し、『心停止後に側頭頭頂接合部にガンマ波が急増する現象』が2人の患者で確認されました。ヒトの脳が活動を停止する過程でも、意識が活性化することを捉えた世界初の研究です」

 ガンマ波の増幅が起こる脳の部位によっては、認識される「臨死体験」が変わる可能性がある。前出・松本さんが語る。

「脳の後頭葉にある『視覚野』を電気で刺激すると『光が見える』現象が起きると言われています。ガンマ波のような高周波の神経活動が視覚野で発生した場合、臨死体験の『包まれるような光』が生み出される可能性があります」

臨終のメカニズムが明らかに。5人に1人が臨死体験に近い現象を経験

コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • gaku

    臨死体験談には、心肺が停止する前の現象と、心肺停止後の現象が混同して語られているようですが、厳密には心肺停止後に起きる現象ではないかと思います。特に幽体離脱は心肺が停止する前に体験する現象ではないかと思います。以前、NHKで人間の脳死に関する番組が放送されており、心肺が停止しても脳波により脳だけは数十分単位で活動を継続している事が推察されるようだとのことでした。その間に過去の人々との邂逅、トンネル、光、お花畑、幸福感など臨死体験で語られている現象が起きているのではないかと解説されていました。 私は、随分前に立花隆著の「臨死体験を」読んだことがあり、それ以後、臨死体験には関心を持っていましたが、NHKの番組を切っ掛けに専門分野ではありませんが自分なりに思索してみました。人間は心肺停止後、脳の機能が失われていく段階で、近々の新しい記憶から随時過去の古い記憶に向かって失われていき、生まれた時の記憶に至り、生まれた時の光と産道のトンネル、そして母親の胎内における幸せ感あるいは安堵感など、併せて三途の川、お花畑などの受精してから10カ月間にの記憶を辿り、生命が尽きるのではないかと思います。生まれる前の胎児は既に目を開いているそうですから、母親の胎内で、羊水の中から母親の薄くなった皮膚を通して外の光を感じ、その光が羊水の濃淡などで三途の川やお花畑に見えているのではないかと想像します、またお腹の外から入ってくる人の音声も感じ取っていたかも知れません。この説に対して、心肺停止から息を吹き返した人の臨死体験で語られる記憶は既に破壊し失われれていて整合性が取れないのではないかという考えもあるようですが、脳内の記憶を司る海馬の作用で過去の記憶に遡ると解釈すると、記憶自体は失わていない段階で生き返れば整合性が取れるのではないかと想像します。もし臨死体験がこのようであると、人の一生は、母親の中で過ごした10カ月の記憶を辿り、受精の時点まで遡って終わるのではないかと思われ、そうと仮定しますと、これまでの宗教観は変化を求めれれ、また臓器移植で心肺停止後に体内から臓器を取り出すタイミングにも変更を求められるのではないかと思います。臨死体験という現象は、オカルトとして放置されるべきでなく、早急に解明する必要があるのではないでしょうか。

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