視界のかすみやまぶしさは要注意!白内障の原因、保険適用と自由診療、眼内レンズ選びの注意点を専門医が解説
50代から発症し、80代ではほぼすべての人が発症するという白内障。症状が進むと物が見えづらくなってけがや事故のきっかけとなったり、認知症を誘引することも。手術を受ければ高い確率で症状は改善されるが、その方法や新たに目に入れる人工の眼内レンズにはさまざまな種類があるという。自分に合った病院や手術方法、レンズはどう選べばいいのかーー眼科専門医に話を伺った。
教えてくれた人
平松類さん/二本松眼科病院副院長、眼科専門医。テレビやラジオ、YouTubeチャンネル「眼科医平松類」等でわかりやすい医療情報を提供。『名医が教える! 目のトラブル解決大全』(KADOKAWA)など著書多数。
白内障は放置すると失明する深刻な病気
視界がかすむ、ぼやける、視力が低下する、物が二重に見える、まぶしいーー こうした症状が出る白内障。発症の主な原因は「加齢」だ。だからといって、“老化現象なら仕方ない”と放置するのは危険だという。
「白内障は進行しますから、放っておくと失明する可能性があります。世界では失明原因の第1位にあがるほどです」(眼科専門医の平松類さん・以下同)
一体どんな疾患なのか。
「目の中にある水晶体がにごることで起こります。水晶体はカメラのレンズのような役割をしていて、厚みを変えてピントを調節しています。にごった水晶体は光を通しにくくなったり散乱させたりするため、網膜にきれいな像を映せなくなるわけです」
白内障の原因は加齢のほか、不規則な生活やストレス、喫煙、肥満、紫外線の浴びすぎなどもあり、糖尿病や痛風の人は、そうでない人に比べて約2倍、白内障になりやすいという研究データもある。
放置するのは危険!「白内障チェックリスト」
□ なんとなく物が見えにくいように思う
□ テレビや映画の字幕が見えにくい
□ 離れた人の顔がはっきりしない
□ 長時間の読書が疲れる
□ 太陽の光をまぶしく感じることが多い
□ 月が2~3個にタブって見えることがある
□ 物の色合いが以前と違って見える
□ 右目と左目で見え方が違う
□ 階段の上り下りに不安を感じることがある
□ 目がうっとうしく重く感じることがある
<判定方法>
<1~2個該当>……白内障のリスクあり
<3~4個該当>……白内障の可能性が高い
<5個以上該当>……眼科を受診すること
白内障の治療は点眼薬より手術が効果的
白内障はどう治療したらいいのだろうか。
「点眼薬などの薬物療法の研究も進められていますが、いまのところ手術がもっとも効果的。にごった水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを入れます」
標準的に行われている保険適用の手術は「超音波水晶体乳化吸引術」だ。麻酔後、眼球のふちを2mmほどメスで切開し、にごった水晶体を細かく砕く。それを吸引して取り出した後、眼内レンズを挿入する。手術にかかる時間は片目で約15~20分なので、入院の必要はない。
「白内障の主な手術としてはこのほか、レーザーを用いる『フェムトセカンドレーザー白内障手術』もあります。手術の流れは超音波水晶体乳化吸引術とほぼ同じですが、メスによる切開や水晶体を砕く工程をコンピューター制御のレーザーで行うため、医師の熟練度にかかわらず、精度の高い手術ができるとされています。
現状の研究報告では、2つの手術の治療効果に差はありません。ただし、レーザー手術は自由診療で保険適用外なので、片目あたり約20万〜30万円かかります」
白内障手術で重要なのは「眼内レンズ選び」大切なのは自分に合うかどうか
手術方法のほかに選ぶべきは、どんな眼内レンズを入れるかだ。眼内レンズには、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2種類がある。単焦点眼内レンズは、焦点距離が1つに固定されたレンズのこと。一方、多焦点眼内レンズは、複数の箇所にピントを合わせられ、遠方、中間、近方を見やすくできる。
「単焦点眼内レンズの場合、ピントを近くに合わせれば、遠くを見るための眼鏡が必要になり、遠くに合わせれば近くを見るための眼鏡が必要になります。近くから遠くまで眼鏡なしで見たいという人は、多焦点眼内レンズがおすすめです」
保険適用なのは単焦点眼内レンズと、一部の多焦点眼内レンズ。保険適用のレンズを選べば、手術代とレンズ代(両目)を合わせて約10万~12万円(3割負担の場合)だが、選定療養の多焦点眼内レンズを選んだ場合は、レンズだけで片目につき約10万~30万円がかかる。さらにフェムトセカンドレーザー白内障手術を組み合わせると、治療費は100万円を超えることも。
「95%以上の人が、保険適用される単焦点眼内レンズを入れます。また、緑内障の人や網膜に病気のある人は多焦点眼内レンズを入れられないことがあるので、選択肢は単焦点眼内レンズに限られます。
いずれにせよ、知っておいてほしいのは、『高額レンズだからといって、よく見えるようになるわけではない』ということ。過剰な期待は禁物です。経済状態を考慮したうえで、自分はどんな見え方を希望するのか、事前に医師と相談しつつ考える必要があります。
たとえば、読書を楽しみたいので手元がはっきり見えればよいのであれば、単焦点眼内レンズで充分。ニーズに合ったレンズを主治医と相談して選ぶことが大切です」
また、レンズ代が同じ製品でも医療機関によって価格が異なるので、レンズ代の比較はもちろん、手術実績が多いかどうかもチェックしよう。特にメスを使って切開する超音波水晶体乳化吸引術の場合、300以上の手術実績がある医師を選んだ方がいいという。
多焦点眼内レンズの選定療養費の例
種類/片眼の料金/両眼の料金
※すべて選定療養(手術代は保険適用でレンズ代のみ保険適用外)のレンズ
●クラレオン パンオプティックス トリフォーカル/22万2555円/44万5110円
●クラレオン パンオプティックス トーリック トリフォーカル/24万4555円/48万9110円
●クラレオン Vivity Extended Vision/23万3555円/46万7110円
●クラレオン Vivity TORIC Extended Vision/25万5555円/51万1110円
●テクニスオデッセイ VB Simlicity/20万3855円/40万7710円
●テクニスオデッセイ TVB Simlicity/22万5855円/45万1710円
手術のデメリットも知っておく
白内障の手術後1~6か月は、うまく焦点を合わせられない、目の違和感が気になる、まぶしさやぎらつきを感じる、という人もいるが、ほかにもいくつかデメリットはあるという。
「白内障手術をしても、乱視は完璧に矯正できないことがあります。その場合は乱視用の眼鏡が必要になります。また、多焦点眼内レンズを入れて近くと遠くは見えるようになっても、中間が見えにくいケースも。そのほか、糖尿病の人は黄斑浮腫(おうはんふしゅ/目の奥がむくんで視力が低下する)になりやすく、強度の近視の人は網膜剥離のリスクが高まります」
こうしたことを想定しつつ手術に臨み、術後は定期的な眼科検診が必要だ。
たとえ手術に成功しても、その後の生活習慣が悪いと目にダメージを与えるので、「一生見える目」のためには、不規則な生活を整えたり、禁煙したりといった目の健康にいい生活を心がけるのも大切だ。
取材・文/上村久留美 イラスト/飛鳥幸子 写真/Getty Images
※女性セブン2025年12月18日号
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