兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第84回 深夜の悪夢】
若年性認知症の兄の症状は、このところ進行してきた模様。そして、ついに…というか、まさか!の出来事が。兄と同居するライターのツガエマナミコさんが衝撃の一部始終を明かします。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
* * *
「ウンチはトイレでしておくれよ~」
恐れていたことが起こりました!
「コップにオシッコ」だの「ベランダに小便小僧さま」ごときで、やいのやいの言っている場合ではございません。
いや~、くると思っていましたが、ついにその日がやって来ました。
「ウンチのお話」でございます。
それは、つい先日の深夜でございました。わたくしが自室でのYouTube鑑賞を終え、そろそろ歯を磨いて寝ようと、洗面所の扉を開けたとき、異質な匂いと床に異変を発見いたしました。
こぼれたカレーを雑に拭きとったような黄色い痕跡が広がっておりまして、見落としたであろうカレー状の本体がポタリ、ポタリと落ちていました。
こんなことにカレーを例えるのは、みんな大好きのカレーに対して本当に申し訳ないのですが、ハヤシライスや柔らかいチョコレートと言い換えてみても同じことなので、このまま突き進ませていただきます。
こういう光景は、初めてではございません。亡き母も寝たきりになるまではだいぶ散らかしてくれましたから、ある意味久しぶりのざわめき。「おかえり」というか「ああ、やっぱりくるか」という心境でございました。
とはいえ、これから寝ようとしていた深夜の惨劇に大きくため息したことは否めません。
とりあえず、状況を正確に把握するため、周囲をつぶさに観察いたしました。こんなときこそ冷静さを失ってはいけません。思わぬところに思わぬブツが落ちていたり、壁面に付いていたりするので、うっかり踏んだり、うっかり洋服に付けてしまったりしないようにすることが大切です。
洗面所は脱衣所なので、すぐ横は浴室です。その浴室を見ると、あ”~~~~あ。排水溝のザルの中にこんもりとカレー状のブツがキレイに収まっておりました。排水溝を目指し、排水溝の上に正確にしゃがんだとしか思えない収まりようでございました。
そこまで把握した段階で、兄が自室から申し訳なさそうに、とりあえずの笑顔をしながらヌルっとやってきました。わたくしの開口一番は「ウンチはトイレでしておくれよ~」でした。
「トイレの場所が分からなかったのかな?」「ここがトイレだと思っちゃった?」とも訊いてみましたが、適当な言い訳も出てこない様子でした。
きっと何かわけがあったのでしょうが、今となっては覚えておらず、それらを言葉にすることもできないのでしょう。
そうこうしながら、兄の足元を見ると、スリッパの踵辺りが汚れていることを発見しました。靴下が黒かったので見落とすところでしたが、たぶん靴下にもベットリ付いていると推測できました。
すぐにスリッパと靴下を脱がして足だけシャワーをさせようと思いましたが、即座にこんもりブツが排水溝を塞いでいることを思い出しました。まずはアレを取らないとエライことになると思い、「そこで動かないでね」と兄を足止めし、ビニール手袋を装着し、大急ぎで処理をいたしました。
大量のトイレットペーペーでブツをすくい、トイレに流して、やっと足のシャワータイム。ただ上からお湯をかけるだけで終わらせようとする兄に、足の洗い方もレクチャーする深夜1時半。兄は「今何時?昼?夜なの?」とのたまっておりましたっけ。
履いているスエットに、なぜか汚れらしいものがなかったのは、おそらくしっかり脱ぎさってからしゃがみに入ったと思われます。兄のトイレ内での様子を拝見したことはございませんが、そうとしか考えられず、しっかり脱いで、浴室で狙いすましてお出しになったあと、トイレットペーパーがないことに気づき、脱衣所の洗面台にあるティッシュペーパーを探しているうちに、さらにポタポタと床に落ちて、それをティッシュで必死に拭きとって自室に戻ったのです…。
そして、わたくしの深夜の悪夢は、次回にもう少し続きます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ