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連載

兄がボケました~認知症と介護と老後と「第60回 緊急事態」

 ライターのツガエマナミコさんの兄が特別養護老人ホームに入所してから約一年半が経ちます。一緒に暮らしていた頃は、認知症の症状が進んだ兄の排泄のトラブルなどに日々頭を悩ませていたマナミコさんでしたが、施設入所後は、兄に面会するたびに、ただ一人の身内としてかけがいのない存在であることを思うこの頃。そんなとき、兄の体調に大きな変化があったというのです。

 * * *

兄が救急搬送されました

 久々に介護家族らしい緊急事態がございました。

 お昼頃、施設から電話があり「お兄さんが今、痙攣をおこして、呼吸が2~3回止まりまして救急車を呼んだところです」とのことでした。

 兄は施設入所の検討中にも一度、痙攣で救急搬送されたことがございます。そのときは検査で異常はなく、「てんかん発作」と診断され、その後一度も発作はありませんでした。もちろん、てんかんのことは入所時に施設の看護師さまに報告してございます。

「ああ、また倒れたか」と思いつつ、当時、救急で運ばれた病院を伝えると、数分後に再び電話があり「付き添いの看護師の○○です。今、〇〇病院に向かっています。もう痙攣は治まって呼吸はしています。入院になる可能性もあります。妹さんも病院に来ていただけますか?」と冷静なお声が聞こえました。

 2度目とはいえ、多少ドキドキしながら病院に到着すると、救急の待合室に、施設でお見掛けしたことのある看護師さまのお顔が見えました。「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」というわたくしに、事の経緯をお話してくださいました。

 お昼ごはんを食べさせている最中に突然グーッと体が傾いて全身が硬直して痙攣し始めたのだそうです。介護スタッフからその報せを聞いて看護師さまが兄のもとに到着したときには硬直は終わっていて、ピクンピクンと痙攣して、ふわ~と意識がない感じで目はうつろだったとのこと。

「以前てんかんの発作があったことは聞いていましたが、入所されてから何もなかったので急なことでスタッフもびっくりしていました」と看護師さま。

 その後は看護師さまとひたすら待つ時間になりました。一度だけ、お医者さまらしき方が、倒れた時の様子を訊きにいらっしゃいましたが、それ以外はなにもすることがないので、看護師さまと二人、沈黙と会話の繰り返しでございました。

「基本、ぼうっとしていることが多いけれど、ときどきぱっと笑顔になったり、急に拍手をしたりして笑わせてくれます。一週間に1回ぐらい不機嫌そうだったりしますね」という兄の日頃の様子から始まり「看護師さんというお仕事はたいへんですよね~」「あのコロナ禍は何がいちばん大変でしたか?」など、わたくしの取材癖が炸裂いたしました。

 そんな中、看護師さまに核心を突かれる瞬間もありました。

「延命治療のことですが、入所時の書類では“不要”と書いてありますが、今後、同じようなことがあった場合、どうしたらいいでしょうか?」と訊かれて、何を答えればいいのかわからなくなりました。救急車を呼ぶことも施設にとっては延命行為になるのかしらん…と。

 正直、入所時には、延命なんて本当に一切しなくていいと思っていました。でもいざ自分が介護から手が離れて楽になってみると兄には長生きしてほしいと思うようになってしまいました。身勝手な思いでございます。

 そう正直にそう申し上げると「誰でもそうです。正解はありません。一度決めたとしても気が変わることだってあります。今すぐにというわけではありません。今後のために心構えだけはしておいて」とやさしく背中を撫でてくださいました。
 
 2時間後、「お帰りいただいて大丈夫です」という話になり、面会をすると本人は夢うつつをさまよっているようでした。

 先生のお話によると、脳のCTとMRIに異常はなく、血液検査でも必要な薬は適量の範囲で使われているので問題ないとのこと。

 寝ている腕がピクピク動いて止まらないので、本当に帰って大丈夫なのだろうかと思いつつも、入院するまでもないようなので施設の車で帰ることになりました。

 病院のベッドから施設の車イスに移乗された兄は、夢うつつから覚醒してケロッとした顔をしており、ひと安心。看護師さまがずっと一緒にいてくださったことも心強く、前回の救急搬送とは雲泥の差でございました。

 ただ、二度あることは三度あると申します。今後もてんかん発作は起こることが予想できます。今回わたくしはたまたま在宅していましたが、旅行中や取材中だとすぐにかけつけることができません。やはり遠出はしないほうが良さそうでございます。

 そして延命治療については、どこでラインをひいたらいいのでしょうか……。病院での延命治療(人工呼吸器や胃ろうなどの医療)は不要としても、施設での延命(たとえば心臓マッサージやAEDなど)は必要なのか? 重度の認知症のまま生きていく兄の未来を考えると非情に悩ましい問題でございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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