『MIU404』第8話|『アンナチュラル』とのリンクに興奮、小日向文世の表現力に震撼
綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。8話は、同じ野木亜紀子脚本作品『アンナチュラル』の登場人物との競演もあり、ドラマファンは色めき立った。ストーリーは、伊吹(綾野剛)の恩師にあたる刑事(小日向文世)を巡ってなんとも切ない展開に。最終盤にさしかかったドラマの本質を大山くまおさんが考察する。
今夜放送第9話の前にじっくりおさらいを。
『MIU404』と『アンナチュラル』のリンク
「伊吹に伝えてくれ。お前にできることは、何もなかった。何もだ」
綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』第8話「君の笑顔」は悲痛な物語だった。愛する者が不条理な死を遂げたとき、人は犯罪者を許すことができるのか? 辛く重いテーマに『MIU404』が挑む。
まず、第8話は同じく野木亜紀子が脚本を務めたドラマ『アンナチュラル』とのリンクが話題になっていた。もともと両者の世界はつながっており、第3話には『アンナチュラル』に登場した西武蔵野署の刑事コンビ、毛利(大倉孝二)と向島(吉田ウーロン太)が登場。また、第6話では亡くなった志摩一未(星野)の元相棒・香坂(村上虹郎)の司法解剖報告に『アンナチュラル』の主人公・三澄ミコトの署名が入っていた。
これらは話題作り、ファンサービスの一環、スタッフのお遊びのようでもあったが、緻密に物語を作り上げていくことに定評のある『アンナチュラル』と『MIU404』のスタッフなら、けっしてそれだけではあるまいという見方が大勢を占めていた。
『MIU404』と『アンナチュラル』のリンクは想像以上に深かった。第8話では、発見された男性の変死体が不自然死救命研究所、通称「UDIラボ」に運び込まれる。伊吹藍(綾野)と志摩は臨床検査技師の坂本(飯尾和樹)と出会うが、これはツカミのようなもの。事件の真相に迫る頃には、UDIラボの神倉所長(松重豊)が登場して核心に迫っていく。当初、未解決の連続猟奇殺人事件だと見られていた変死体だったが、これまでの遺体とは指の切断の向きが違っていたことが発覚したのだ。
重大な発見をしたのは、UDIラボの法医解剖医、中堂系(井浦新)だった。
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名優・小日向文世の表現力
変死体は堀内(大重わたる)という前科2犯の男だった。彼は以前、伊吹の恩師である「ガマさん」こと刑事の蒲郡(小日向文世)が担当していた。出所した堀内はトラブルを重ねて蒲郡に泣きつくが、定年を迎えて妻・麗子(丸山瑠真)と穏やかな日々を過ごしていた蒲郡は別の担当刑事を紹介する。しかし、蒲郡に見放されたと逆恨みした堀内は、蒲郡夫妻が歩いているところへ車で突っ込み、麗子をひき殺してしまったのだ。
つまり――堀内を殺害したのは、蒲郡だった。ベテランの刑事で、人格者で、犯人を逮捕しては罪を償わせていたガマさんが、殺された妻の報復で残忍な殺人に手を染めていたのだ。直感で恩人の犯罪を理解していた伊吹は、感情に蓋をして素知らぬふりをしていたが、淡々と事実を積み重ねて真実にたどりついた志摩によって見破られる。
志摩の語りに合わせてクリスチャンだった妻の祭壇に手を合わせている蒲郡の姿が映し出される。目を開いたときの表情が尋常ではなかった。良心などをすべて捨て去った人の顔、人であることを捨て去った男の顔とでも言えばいいのだろうか。堀内を殺害するシーンの表情もそう。名優・小日向文世の表現力にあらためて震撼させられた。
伊吹の目の前で、捜査一課の刑事たちに蒲郡は逮捕される。凶器はすべて家の中に隠してあった。隠蔽するつもりなどもともとない、覚悟の犯行だったのだろう。妻の遺影に「同じ場所に行けなくて、ごめんな」と語りかける姿が切ない。妻は天国に行ったが、夫は地獄に堕ちるのだ。
不条理なことをしてしまったら「負け」
「ガマさん、何があってもあなたは人を殺しちゃいけなかった。全警察官と、伊吹のためにも」
連行される蒲郡に向かって志摩はこう語りかける。それに対して蒲郡は「伊吹に伝えてくれ」と言う。「お前にできることは何もなかった」。伊吹は蒲郡を止める「スイッチ」にはなり得なかった。それだけに伊吹の絶望は深い。
愛する者が不条理な死を遂げたとき、人は犯罪者を許すことができるのか? という問いに戻ろう。蒲郡は許せなかった。では、遺体の指の切断具合について重大な発見した中堂系はどうだっただろうか? 彼は恋人を連続殺人犯に殺されていた過去がある。単なるファンサービスじゃない、『MIU404』と『アンナチュラル』とのリンクはここに深い意味がある。
中堂は犯人に個人的な復讐を果たそうとしていた。また、恋人を殺された男(泉澤祐希)の復讐に関与したこともある。『アンナチュラル』は「感情」が「倫理」や「法」を上回ることがあると示しつつ、主人公のミコトにこう叫ばせている。
「不条理な事件に巻き込まれた人間が、自分の人生を手放して、同じような不条理なことをしてしまったら、負けなんじゃないですか!」
ミコトの言葉は、志摩の「何があってもあなたは人を殺しちゃいけなかった」に通じるものだ。ミコトも志摩も法の秩序の中で真相究明や事件解決に心血を注いでいる。ミコトの言葉は中堂に届き、彼は復讐を思いとどまった。彼女は中堂の「スイッチ」になることができた。しかし、伊吹はなれなかった。彼には「語彙力がない」からなのかもしれない。そういうことも現実にはある。しかし、不条理な事件に巻き込まれた人間が、同じように不条理なことをしてしまったら「負け」だということは、『アンナチュラル』全体ならびに『MIU404』のこのエピソードを通した訴えであることは間違いない。
絶望の中で涙を流し続ける伊吹をすくい上げることができるのは、相棒の志摩がさしのべたあたたかな手。人には誰か信じてくれる人が必要だ。かつての伊吹にはガマさんしかいなかったが、今は志摩がいる。それがせめてもの救いである。
気になる『MIU404』ラストスパート!
ところで、忘れちゃいけないのは、『MIU404』と『アンナチュラル』はつながっているけど別のドラマだということだ。「法医学ミステリー」だった『アンナチュラル』に対して、『MIU404』は「機捜エンターテイメント」。8話は重要なテーマを取り扱っていたが、だからといって『MIU404』の9話と10話が重苦しいものになるとは限らない。むしろ、痛快で爽快なストーリーを見せてくれるのではないだろうか。
4機捜の面々はエトリの正体を暴き、謎の男・久住(菅田将暉)から成川岳(鈴鹿央士)から救い出さなければいけない。指を切り落とされていた残忍な連続殺人事件も未解決のまま放置されるとは思えない。最終盤、思いっきり楽しみたい。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
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文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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