《2000人以上を看取る》在宅緩和ケア医・萬田緑平さん、病院での延命治療に「点滴や水分を入れられて…酸素チューブをつけて…果たしてそれは幸せな最期でしょうか?」
2000人以上の患者を自宅で看取ってきた在宅緩和ケア医の萬田緑平さん。対談を含めて60ページに渡って在宅医療についての解説を担当した倉田真由美さんの著書『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題を集めている。萬田さんが考える「病院ではなく、家で迎える幸せな最期」とは──。同書から一部抜粋して紹介する。
「家で死ぬ」を叶えるための準備
「最期まで住み慣れた家で過ごしたい」「病院で死ぬのは嫌だ、家に帰りたい」
たいていの人が本心ではそう思っているのではないでしょうか。誰だって病院で点滴やら何やらの管につながれたまま最期を迎えたくないですよね。
「最期まで自宅で過ごしたい」と本人が望むなら、それを叶えてあげたい。そんな思いもあって、私は地元の群馬県で「緩和ケア 萬田診療所」を開業し、在宅緩和ケア医として活動しています。
緩和ケアとは、病気に伴う心や身体の痛みを和らげること。私は自宅で暮らしたいと願う患者さんの希望を尊重し、本人やご家族とも相談しながら、緩和ケアで痛みや苦しみをコントロールして最期まで自宅で過ごせるようにサポートをしています。
診療所の患者さんには、がんに罹患し、手術や抗がん剤などの標準治療を経て在宅緩和ケアを選択した方もいらっしゃいますし、末期がんなどで余命宣告を受けた方、がんになってしまった段階でお見えになる方もいます。ご本人が「最期まで自宅で過ごしたい」と決めたなら、それが在宅緩和ケアの始まり。住み慣れた場所で、穏やかに幸せな最期を迎えることは可能なのです。
穏やかな死とは「枯れるように死ぬ」こと
人間は本来、植物が徐々に枯れるように少しずつ元気がなくなって死んでいくものです。食べものが喉を通らなくなり、歩けなくなって寝ている時間が長くなる。徐々に意識が薄らいでいき、呼吸が弱くなり、やがて心臓が止まります。自然に命が尽きていく時、そこにもだえ苦しむような苦痛はありません。
人が死に向かうことを飛行機にたとえるなら、徐々に燃料を減らしながら低空飛行になってゆっくりと着陸していくイメージ。無事に降りるために少しずつ燃料を減らしていくのです。
「食べられないから死ぬ」のではなく、「死に向かっているから食べられなくなる」。それなのに、病院で亡くなる多くの人には、ゆっくり着陸することを阻むように延命治療がなされます。いや、延命治療とは思っていない。家族も病院も生きさせるための必要な治療と思っているのです。
「もっと頑張って生きて、死なないで」と、点滴で栄養や水分を入れられてしまう。すると身体はむくみ、肺もむくんで呼吸が苦しくなるから、酸素チューブをつけて、と延命治療が重ねられていく。
着陸体勢の飛行機をヘリコプターで吊り上げ、無理やり給油をして着陸を阻止するようなもの。そして管につながれたまま最期は苦しみながら死へと墜落していく。果たしてそれは幸せな最期でしょうか?
プロフィール/萬田緑平
1964年生まれ。群馬大学医学部卒業。大学病院の外科医として多くののがん患者の手術や抗がん剤治療を行う中で医療や看取りについて疑問を感じ、2008年から緩和ケア診療所に勤務。2017年「緩和ケア萬田診療所」を設立し、患者と家族のケアを続ける。『家で死のう!』(フォレスト出版)など著書多数。出会った患者と家族の日常と看取りまでを追ったドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』も話題に。
撮影/五十嵐美弥
