まるでコロナ予言のドラマ『アンナチュラル』街はマスク姿だらけ、テレビは「手洗い、うがい」と連呼
新型コロナ感染拡大の影響で、今シーズンのドラマが放送延期中だ。綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』のレビューをお届けする予定だったこのシリーズでは、放送開始を待ちながら、脚本担当の野木亜紀子の過去作品を振り返り、あらためて見直したいドラマをご紹介する。
数々のドラマレビューを執筆する大山くまおさんが今回取り上げるのは、新型コロナウイルスを予言していたドラマとして今大注目されている『アンナチュラル』。
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全話神回の超絶エンターテインメントドラマ
全話神回、超絶技巧、エンターテインメントドラマの最高峰。それが、筆者が考えるドラマ『アンナチュラル』への賛辞である。
複雑な謎、張りめぐらされた伏線、スピード感、どんでん返し、爽快感、愛らしさ、せつなさ、社会性、時事性、フェアな視点、生と死、過去への絶望、未来への希望。これらがギュッと詰まっているのだから面白いに決まってる。野木亜紀子による脚本はもちろん、出演者、演出、すべてが噛み合って見事な作品となった。
ドラマの舞台は、架空の組織「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。石原さとみ演じる法医解剖医・三澄ミコトをはじめとするUDIラボのプロフェッショナルたちが、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」を遂げた遺体の謎を究明していくという1話完結型の法医学ミステリーだ。
新型コロナウイルスを予言? 第1話の衝撃
『アンナチュラル』は第1話からすごかった。このエピソードで描かれていたのが、MERSコロナウイルス。新型コロナウイルスの感染が拡大していくにつれて、2020年の日本の状況を予見しているようだと話題になった。
原因不明の死を遂げた男性の遺体がUDIラボに持ち込まれるところから物語は始まる。彼と一緒に仕事をしていた女性も謎の死を遂げていた。どのような毒が使われたのか? 連続殺人なのか? 犯人は誰か? ミコトたちは薬毒物死を疑って詳細な検査を行う。ここまでは普通のミステリードラマと一緒。だが、途中ですべてがひっくり返る。死因は日本では発症したことのないMERSコロナウイルスだった。前半はミスリードだったのだ。
街の人々はこぞってマスク姿になり、テレビからは専門家が「手洗い、うがいを欠かさないように」と呼びかける。国内で感染が広がると、テレビのワイドショーでは亡くなった男性を「犯人」のように扱い、SNSでは罵詈雑言があふれかえる。ウイルスには男性の名前を冠した「高野島ショック」という名前までつけられた。陽性反応があった人をバッシングしたり、「武漢肺炎」と特定の名前をつけたりする現在とまったく同じである。
しかし、ミコトたちの調査によって、MERSコロナウイルスは亡くなった男性が持ち込んだものではないことが判明する。また大逆転だ。ミコトたちはより多くの人たちの人命を救うために奔走し、原因を隠蔽しようとしていた人物に客観的な事実を突きつけて「事件」は収束に向かう。
これでもかとアイデアを投入し、ストーリーを何度もひっくり返しながらすさまじいスピード感で一つのエピソードを作り上げた脚本の手腕にうなるしかない。全体を貫く大きなテーマも語っていて、さらに中盤以降の本筋——UDIラボの法医解剖医、中堂系(井浦新)の復讐——への種まきも行っている。
ものすごい情報量だが、ダブルトーク(相手のセリフが言い終わるのを待たずに次のセリフを被せる)や短いカットの積み重ねなどの演出技法を駆使して、過圧縮エンターテインメントを完成させた(監督は『グランメゾン東京』の塚原あゆ子)。
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