介護保険料が4月から値上げ…高くなる人・安くなる人の違いは?
2020年4月から介護保険料の値上げが話題に。人によっては、介護保険料がこれまでより年間1万円を超える負担となることも。介護保険の仕組みから、値上げの背景まで、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。
4月に値上げ!? そもそも介護保険料とは
介護保険は40歳で加入する国の公的な保険制度。65歳以上の人が要介護・要支援状態になったときに介護保険を使って介護サービスを受けられる(40~64歳までは特定の疾病によって介護状態になった場合に限られる)。
介護保険に加入すると同時に保険料を支払うことになるが、加入する保険や条件により保険料の負担割合や保険料率などが異なる。
40~64歳までは会社員や公務員など健康保険の加入者は、保険料の1/2を事業者(会社等)が負担している。
一方、自営業者等の国民健康保険の加入者は、自身で全額保険料を支払う。
また、65歳以降は年金から介護保険料が天引きされる仕組みだ。以下で詳しく解説していこう。
介護保険料の負担|会社員、年金暮らし、主婦は?
●会社員・公務員など健康保険加入者の介護保険料
会社が介護保険料の1/2を負担。1/2を自分で支払う。
●主婦など扶養されている健康保険加入者の介護保険料
扶養者の会社の保険組合が全体で負担するため、別途支払ったり扶養者の保険料が上がったりすることはない。
扶養者が40歳未満かつ被扶養者が40歳~64歳の場合は、
加入する保険組合の「特定被保険者制度」により、扶養者自身は介護保険に加入していなくても、被扶養者分の介護保険料を支払うケースもある。
また、扶養者が65歳以上で被扶養者が40歳~64歳の場合は、
扶養者は介護保険料が年金から天引きとなり、被扶養者分の介護保険料は扶養者の給料から徴収される。
なお、加入している保険組合が「特定被保険者制度」を導入していなければ、被扶養者分を支払う必要はない。
●65歳以上の年金受給者の介護保険料
65歳以上の年金受給者(被扶養者、国民健康保険含む)は、介護保険料が年金から天引きされる。健康保険の被扶養者となり健康保険料を支払っていなくても、介護保険料については支払いが免除されることはない。
また、介護保険料は扶養者の世帯年収で計算される。
なお、年度の途中で65歳となった場合、年度途中で転居した場合、年金受給権を担保に入れている場合等は年金天引きではなく、送付される納付書で自分で支払う。
●自営業者等の国民健康保険加入者の介護保険料
扶養制度はなく、40~64歳までのすべての国民健康保険加入者は介護保険料を支払う。
ただし、世帯主が自営業者の場合、妻(または夫、会社員ではない)の介護保険料をまとめて支払うケースもある。
介護保険料が値上げされた理由
介護保険料の制度は、2000年に創設され、もともとあった健康保険制度に上乗せする形で導入された。制度の導入時には、加入者が平等に負担するものとして保険料を決める「加入者割」が採用された。
介護保険制度「加入者割」とは
「加入者割」とは、保険組合が国に納付する介護納付金を加入者数に応じて支払う仕組みで、1人1人の保険料は高所得・低所得に関係なく平等に支払う制度。
介護保険制度「総報酬割」とは
介護保険料は、保険料率によって決定される。これまでの「加入者割」では、保険組合の加入者が多いほど保険料率は下がり、少なければ保険料率が上がり、保険料も割高となっていた。
たとえば、大企業が中心の健康保険組合の保険料率は、1.4%。これに対し、中小企業が中心の協会健保は1.72%(※1)となり、保険料の格差が生じていた。
そこで、会社員・公務員等が加入する健康保険組合や共済組合、協会けんぽ等を対象に、報酬に応じて負担を重くする「総報酬割」が導入されることになった。
介護保険料の「総報酬割」は、すでに平成29年から段階的に導入されていた制度で、令和2年4月に全面導入となった。
これまでの「加入者割」では、所得が少ない人にとっては負担が重く、所得が高い人には負担が軽かった。
高齢化が進み介護給付金の金額が膨らんでいく中で、「総報酬割」に切り替えることで所得が高い人には収入に応じた費用負担を求めていくことになったわけだ。
これにより、保険料がどのくらい上がるのか、対象となる人はどんな人なのか、以下で解説する。
※1:参考/平成28年11月25日 社会保障審議会 介護保険部会(第69回)費用負担(総報酬割)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000143993.pdf
介護保険料の値上げ…いくらアップ?
大企業などが加入する健康保険組合における介護保険料率は、2019年に1.57%だったが、2020年4月(2020年3月分、4月納付期限分)からは1.7~2%まで上がることが考えられる。
例えば、年収1,000万円の人では、これまでの保険料率は1.57%(0.785%は会社負担)だと、年間負担78,186円だった。
今回の導入で保険料率が1.8%(0.9%は会社負担)まで上がると、年間負担89,640円となり、年間約1万1454円も値上がりすることになる。
介護保険料の値上げ対象はどんな人?
大企業が加入する健康保険組合と公務員が加入する共済組合は、総報酬割が導入されることにより1人あたりの保険料率が大きく上がる。
一方、中小企業などが加入する協会けんぽでは1人あたりの保険料率は微増となり、2019年1.73%から2020年1.79%に上がる。
なお、自営業者等が加入する国民健康保険の加入者、65歳以上の介護保険加入者は大きな値上がりはない。
→介護保険の申請から施設入居まで 知っておきたい介護の手続き
介護保険料が安くなる人もいる?
厚生労働省によると、全面総報酬割導入の際に影響を受ける被保険者数(※2)は、
「負担増」となる被保険者は約1300万人
「負担減」となる被保険者は約1700万人
となっており、実際には介護保険料が安くなる人のほうが多いという試算も。
高齢化が進む中で、介護保険制度を持続可能とするためにも、介護保険料の値上がりはどの加入者も避けられない。
大企業が中心の健康保険組合に加入し、年収が高い人は介護保険料の負担がこれまでより増える。自分の介護保険料は高くなるのか、安くなるのかしっかりチェックしておこう。
※2:参考/厚生労働省「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律のポイント」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/k2017.pdf
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。
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