「スマホで支払い、注文・・・ガソリンスタンドでも必要な世の中についていけません」と嘆くシニア男性に「テレビが最先端だった時代もある。移り変わる世を楽しむことが大事」と毒蝮三太夫さん|「マムちゃんの毒入り相談室」第71回
「現金が使えない店が増えたり、スマホを使わないと注文できない飲食店が珍しくなくなったりなど、日常生活はどんどんデジタル化している。「スマホを使いこなせない私たち夫婦は置いてきぼり……」だと嘆く67歳の男性。世の移り変わりを長く見続けてきたマムシさんは、「いくつになっても変化を楽しもう!」と檄を飛ばす。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「世の中のデジタル化についていけずに困っています」
いやいや、いい季節だね。暑くもなければ寒くもない。もうちょっとしたら梅雨がやってくるから、ジジイもババアも今のうちにどんどん外に出かけよう! 無理して遠くに行かなくてもいいし、誰かの助けを借りたっていい。今できることをできる範囲で楽しむのが、人生を謳歌する第一歩だ。ただし、日差しは強いから、熱中症には気を付けてくれよ。
今回は67歳の男性からの相談だ。なるほど、同じ悩みを抱えている中高年は多そうだな。
「63歳の妻と二人暮らしです。夫婦ともども世の中のデジタル化についていけずに困っています。先日、しばらく行っていなかった近所の店に外食に行ったら、支払いはカードかスマホ決済になっていました。現金しか持っていなかったので、あわてて家にカードを取りに戻って支払いを済ませましたが、釈然としませんでした。妻も私も怖くてスマホで決済する気はありません。
また別の日に、二人で入った飲食店では、席でQRコードを読み取って注文するシステムになっていました。やり方がわからず、結局お店の人に手伝ってもらって、なんとか注文できたのですが、こんなことなら、直接注文させてほしいと心から思いました。
ガソリンスタンドでは、アプリを入れたら割引できると言われてしまいました。アプリの入れ方もよくわからないし、そもそもスマホを持っていない人は割引の対象外のようです。
万事がこんな感じで、きっとますますスマホを使いこなせない私たち夫婦は置いてきぼりになるのでしょう。嘆く前に、若い人に教えてもらってでも、できるようになった方がいいのでしょうが、納得がいきません。こんな考えは古いのでしょうか」
回答:「気持ちはわかる。でも新たな挑戦をする喜びもあるよね」
たしかに、ここんところ世の中は変わったよな。キャッシュレスやスマホでの注文に戸惑う気持ちは、よくわかるよ。ただ、世の中っていうのはいつの時代も変わり続けるものなんだ。そして、いつの時代でも「新しいやり方に納得できない」と言っている人はいた。
そういう意味で言うと、あなたの考えはけっして「古い」わけじゃない。でも「硬い」かもしれないな。もっと柔軟に変化を受け止めよう。時代ってヤツは、けっして迎合する必要はないけど、意地を張ってあらがうもんじゃない。今はこう変わったんだ、今はこういうやり方なんだということを知って、できるだけ対応していかないと。
まだ60代なんだから、「時代に付いていけない」なんて言っている場合じゃない。まだまだ先は長いんだ。スマホでの注文にしても、いきなりうまくできないかもしれないけど、挑戦することに喜びを感じたほうがいいね。「新しいことを知る、できるようになる」っていうのは、老後の大きな楽しみだ。そういう気持ちは死ぬまで忘れちゃいけない。デジタルなんてもんはあくまで道具だからね。振り回されるんじゃなくて、人間がそれを上手く使いこなすことが大切なんだ。
ウチの90歳のカミさんが、少し前に洗濯機を買い替えたんだよ。最近の洗濯機はすごいね。コンピューターで上手に洗って、ふっくら乾かしてくれる。ドラム式っていうのかな、横が開くタイプだから、洗濯物を入れたり出したりするのも楽なんだよ。
カミさんも最初は「私、こんな難しそうなの使えないわ」なんて渋い顔をしてた。でも、いつの間にかすっかり使いこなせるようになって、今は「洗濯が楽しい」って言ってる。機械に強いわけでもないんだけど、拒絶反応を起こさずにあれこれいじってるうちに仲良くなったのは、我が妻ながらアッパレだと思う。
今はAIだのスマホだのが最先端だけど、昔はテレビがそうだった。家に置いた小さな箱が映画館みたいになるなんて、当時の人にしてみたら驚きだし何となく不気味だよ。日本でテレビ放送が始まったのは1953(昭和28)年なんだけど、本放送が始まる前のNHKの実験放送にも出たことがある。録画なんてないから、自分が出た映像は見てないけどね。
オレはテレビという新しいメディアが面白くて仕方なかった。だけど、ベテランの俳優の中には「テレビカメラは放射能が出るから、あんまり映らないほうがいい」なんて言ってる人もいたなあ。共演してても、カメラを向けられるとスッと逃げちゃう。それじゃあ仕事にならないよね。新しい時代に対応できなかったわけだ。
キャッシュレス決済やスマホでの注文が嫌だって遠ざけるのは、なんだかんだ言ってテレビを受け入れようとしなかったベテラン俳優と同じなんじゃないかな。世の中は常に移り変わっていくもんなんだから、どうせなら変化を楽しもう。
だからといって、仮に誰もが簡単に宇宙船で月や火星に行ける世の中になったとしても、オレは行きたくないな。月や星は一杯やりながら愛でてるほうがいよ。あ、でも、もしM78星雲が見つかったら、真っ先に駆け付けたいけどね。桜井浩子や古谷敏や黒部進やひし美ゆり子や森次晃嗣も誘って。これだけいれば、怪獣が出てきても大丈夫だ。ハハハ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。