80才を過ぎてもチャーミング!「姫おばあちゃん」に学ぶ幸せな生き方セブンルール
人魚姫、白雪姫、眠り姫──女の子は誰しも一度は「お姫さま」に憧れるもの。でもいつの間にか大人になって、家事や仕事に追われて、気づけばお姫さまどころか召使いのような暮らしに…。だけど年を重ねた女性ほど、プリンセスの資格がある。さあ、心に魔法をかけましょう!
人生を謳歌する「姫おばあちゃん」に学ぶ人生のヒント
男性よりも平均寿命が長い女性は、80才を過ぎても体力も気力も旺盛で、自由に、そしてチャーミングに人生を謳歌している人が多い。
彼女たちの姿は、その魅力で周囲を動かし、時に振り回しながらも、誰からも愛されてハッピーに生きる“プリンセス”のよう。そんな「姫おばあちゃん」たちの頑固で優雅な日々をのぞいてみると、人生の“後半戦”を生き抜くヒントが見えてきた。
医師・小説家の椹野道流さんの「祖母姫」
医師で小説家の椹野道流(ふしのみちる)さんの『祖母姫、ロンドンへ行く!』(小学館)は、80才を超えた祖母の<一生に一度でいいからイギリスに行きたい。お姫様のような旅がしてみたいわ>のひと言で、通訳から各種手配、車椅子を押しての観光案内、スケジュール管理、時には祖母のメイク落としまで担う“秘書”として、かつて祖母とロンドンふたり旅をした思い出を綴ったエッセイだ。
「すでに鬼籍に入りましたが、戦前生まれの祖母は、当時は珍しかった女学校を出ていたことを誇りに思っていたんだと思います。結婚後は5人の子をなしますが、伴侶である私の祖父が早くに亡くなったので、子育てが終わってからは自分ひとりで趣味や自分磨きなど、やりたいことに邁進していました。
祖母の趣味は華道に茶道、小鼓やお能の謡(うたい)、人形づくり、寺社仏閣巡りに骨董品の収集…美しいもの、豪華なもの、優雅なもの、伝統的なものに目がなくて。まさに姫ですね(笑い)」(椹野さん・以下同)
ロンドン旅行では自分に忠実に
旅の間、「祖母姫」はいつでも、「自分のやりたいこと」=欲求に忠実だったという。
「祖母にとってはきっと最初で最後のロンドン旅行になると思い、大英博物館に連れて行きました。ところが、見どころであるはずのロゼッタ・ストーンやミイラの部屋も、祖母はスルー。言い放ったひと言が“干物や石ばっかり見せられてもね”…。教科書に載るほどの歴史的価値のある品でも、姫は興味ナシだったんです(苦笑)」
周囲の評価や評判などには惑わされず、自分の好きなものだけを好きでいる──ゴッホの『ひまわり』にも「これは花ね」のひと言。かと思えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』には感動して見入っていたのだそう。
「自分なりの価値観がとてもはっきりしていて、それに合わないものは“私には合わないわ”とキッパリ。でも、“くだらない”“価値がない”などではなく、あくまでも“私の心には響かない”と言うのです。自分のことはもちろん、ほかの人やもののことも、悪く言うのは聞いたことがありません」
精神科医が分析するシニア女性の生き方
椹野さんの「祖母姫」のように、年を重ねるほど自由に、好きなことに正直に生きるようになる女性が近年、増えているようだ。精神科医の片田珠美さんが言う。
「昭和の頃の高齢女性のイメージは、年を取っても家族のために自分を犠牲にして、献身的に家事や孫育てをしている、というものでした。ですが時代の変化とともに“自分を犠牲にしても報われない”と気づく人が増えてきた。“それなら、老い先短い人生、後悔のないように好きなことをしよう”と考え、行動に移す女性が増えているのではないでしょうか。実際に、いまのシニア女性は昭和の頃と比べて見た目も若く、はつらつとしたかたが多いですよね」
椹野さんの「祖母姫」も、80才を過ぎ、車椅子でのロンドン旅行でも、毎日欠かさずフルメイク。グレイヘアをボリュームたっぷりにブローし、いつでも華やかな洋服を着て楽しんでいたという。
それはいつ、どんなときでも「人に見せたい自分」でいるため。ほかの誰でもない、自分自身のためだけの身だしなみを楽しむのが姫なのだ。
「飛行機に乗るときも、どの下着をつけようか悩んでいたほど。“もし飛行機が落ちて死んだら、解剖のときに『このおばあさん、素敵な下着をつけているな』と思われた方がいいから”と言うんです(笑い)。もしコロナ禍の最中に存命だったら、マスクの下でも欠かさず口紅を塗っていたでしょうね」(椹野さん)
実際、身だしなみを整えることは、心や体の健康にも大きく影響する。
「いつも“誰かに会うかもしれない”ときちんと身なりを整え、適度な緊張感を持って過ごす時間を持つのも、おめかしして出掛けるのも、心身の健康寿命を延ばすことにつながります」(片田さん)
反対に「もう年だから」「どこにも行かないから」と身なりを気にするのをやめたり、一日中寝巻きのまま過ごしたりしていると、自分自身を大切に扱う気持ちを忘れてしまう。「姫」になりたいというたゆまぬ美意識は気持ちも体も若返らせてくれるのだ。
102才の現役ピアニスト・室井摩耶子さん
自分を貫き通して、100才を過ぎたいまも現役で過ごす、パワフルでチャーミングな「おひとりさま姫」もいる。昨年『マヤコ一〇一歳』(小学館)を上梓した、102才の現役ピアニスト、室井摩耶子さんだ。
あえて結婚を選ばずひとり暮らしを貫く室井さん。その理由は「ひとりだと、大好きなピアノに好きなだけ、好きなときに没頭できるから」だ。
自分の価値観をぶれさせることなく生きてきた室井さんは、人から何を言われても、嫌なことは「聞かない」。
「この年になると耳が遠くなりますが、これは便利ね。“聞こえないということは、聞かなくてもいいってことね”と思って、勝手に受け流しています」(室井さん・以下同)
だから、やりたいことがあったら躊躇なく実行することができる。室井さんは、90才を目前に控え、周囲の反対を“聞き流して”自宅を建て替えた。
「周りはみんな“やめた方がいい”と言いましたが“2階建ての2階の寝室で寝たい!”という願望だけで突き進み、無事完成しましたよ。日本では、年齢が大きな意味を持ちますね。老いてから新しいことを始めようとすると“そんな年齢じゃ無理”と、みんな否定する。でも、老い先短いんだから、好きなことをしなくちゃ。年だから贅沢しちゃだめ、がまんしなくちゃいけないなんて、そんなおかしなことはありません。嫌なことや、違うと思うことには、忖度は一切なしで、必ず『ノー』と言います。ノーと言えなければ、マヤコはマヤコでなくなってしまいますから」
自分の欲求に忠実に
室井さんは日常生活でも、自分の欲求に忠実だ。寝たいときに寝て、起きたいときに起きる。ピアノが弾きたいと思えば、夜中の2時や3時まででも、平気で夜更かしをして、弾き続けるという。
「年を取ったらあれを食べろ、これは食べるな…と言われることもありますが、私は自分の食べたいものを食べています。不思議なもので、食べたいものを選ぶと、旬のものが多くなるの。きっと身体がわかっているのね。時にはがま口が抵抗することもありますが(苦笑)、なだめすかしています。健康のいちばんの敵はがまんですから」
体の声に従う。室井さんはこれを「体調リベラリズム」だと語る。リベラリズムとは「自由主義」のこと。体調の自由な意志に任せるのが、マヤコ流なのだ。
そんな室井さんでも「腹の立つこともある」というが、実際に会うと、いつでもニコニコしている。姫たるもの、怒りをあらわにすることなどないということか。
「私はね、心の中に『頭陀袋(ずたぶくろ)』を持っているんです。楽しいことやうれしいことだけでなく、腹の立つことや悲しいことも、何でも心の頭陀袋に入れて、忘れてしまう。すると、感情はこの中で混ざり合って、お酒のように発酵します。そうして熟した感情が、ピアノを弾くときの表現を手助けしてくれるんですよ」
とはいえ、腹が立ったことを忘れるのは、誰にでも簡単にできることではない。
「実際には、夜中に怒りを思い出して眠れなくなってしまうような人も少なくありません。ため込み続けて爆発してしまったら、相手を傷つけることになるだけでなく、攻撃的な言葉を口にした自分自身も傷を負うことになる。聞き流したり忘れたりするのが難しければ、怒りやストレスは、できるだけ小出しにするのがいいでしょう」(片田さん)
潔く“あきらめる”ことが気高い姫の証
ふたりの「姫おばあちゃん」に共通するのは、判断基準が「周囲」ではなく、「私」にあること。
「祖母はロンドン旅行中“あなたは何がしたいの?”とは、一度も聞いてきませんでした(笑い)。孫である私はこの先いくらでもロンドンに行けますから、祖母は“これは私のための旅行”と割り切って、自分の楽しみを追求したのでしょうね。ロンドン最後の夕食で自分の分の牡蠣を食べ終えてから、私の食べていたあんこうを横取りした始末(笑い)。欲しいものがあれば自分で杖や車椅子を使って、いつの間にか買っていて。『オペラ座の怪人』を鑑賞後にひとりで売店に突入して怪人の原寸大マスクを買っていたのには驚かされました」(椹野さん)
室井さんも“自分ファースト”の心で理想的な終の棲家を手に入れている。
周囲に愛される『姫』であること
彼女たちのように自由に、気高く人生を楽しめたら、どんなにいいか…だが、「姫」として愛されることと、ただわがままに生きることは違う。
「ただ欲望に忠実なだけで周りに迷惑をかける『自己愛過剰』と、好きなことをしても周囲に愛される『姫』であることは紙一重です。理想的な『姫おばあちゃん』になるには、頼り切りになっていないか、自分自身を常に振り返ること。自立心を持って、自分でできることは自分で行う姿勢を周囲に受け入れてもらい、信頼関係を築くことです」(片田さん・以下同)
自分ひとりでは何もできない「お姫様」ではなく、意志と誇りを持った「姫君」でいることが重要なのだ。そうして、本当に困ったときは、意固地にも卑屈にもならず、ためらわずにSOSを出すこともまた、「姫らしさ」なのだろう。
「姫おばあちゃん」になるための7つのたしなみ
●「私なりの価値観」を大切に。
●いつでも「自分のための」身だしなみを楽しむ。
●周りの言うことより、自分の気持ちを優先。
●腹の立つことは忘れるか、小出しにしてため込まない。
●自分でできることは自分でする。
●「できないこと」で卑屈になる必要はない。
●困ったら素直にSOSを出す。
自信を持って「いま」を生きる
「年を取るほど、できないことが増えます。日本を引っ張ってきた団塊の世代でもあるいまの70代は、多くを成し遂げてきたからこそ、なにかと“あきらめ切れない”人も多い。ですが、あきらめるとは、投げ出すことではなく、目の前の現実を“明らかに見る”ということ。年を取ってできなくなったことや老いていく自分自身を明らかに見て、受け入れることは、後ろ向きな“あきらめ”とは違います」
これなら、頑張りすぎて自信を失うことも、ストレスをためることもない。
姫おばあちゃんたちは、目の前の現実と自分の心の声を「明らかに見る」ことができたからこそ、自信を持って「いま」を生きている。だからどんなときでも萎縮も躊躇もせず、望みを叶えることができているのだ。
「祖母には、“自信がない”という感情がありませんでした。できないことは“お茶が飲みたいわ”“通訳して”と、はっきりと具体的にお願いする。萎縮せず、お高くとまるのでもなく、ただ率直に頼む姿勢は、ロンドンのホテルスタッフの目にもチャーミングに映ったのかもしれません」(椹野さん)
「何才だろうが、“いま”は一度きり」と、室井さんは語る。年を重ねた自分自身を大切にして、楽しむことで、あなたの中の「姫」の素質を花開かせよう。
※女性セブン2023年7月6日号
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