暮らし

“ツイッターおばあちゃん”溝井喜久子さんの日常「夫の死は想定内。恋しい夜もある」

“ツイッターおばあちゃん”としてSNSで人気の主婦・溝井喜久子さん(87)。76才のときにツイッターを始めて9万人超のフォロワーを抱える。7年前に夫を失ってから、どんな風に過ごしているのか。幸せに暮らす秘訣を聞いた。

夫との死別は想定内。混乱もなく日常が続く

 溝井喜久子さんの夫が亡くなったのは約7年前。

「私が台所仕事をしているとき、突然トイレからドサッという音が聞こえてきました。急いで駆けつけると、夫が倒れていました。15分前までは、友人と囲碁を打っていたのに…。息子に電話をし、救急車を待つ間、心臓マッサージをしていました」(溝井さん・以下同)

 その後、心疾患による死亡が確認されたという。こういったときに備えて加入していた葬儀社の互助会に電話をすると、葬儀社がすぐに病院から自宅に遺体を運び、死に装束を着せて布団に寝かせてくれた。

 関係者への告知、通夜、葬儀、火葬までの手配も、事前の打ち合わせ通り、葬儀社が滞りなく行ってくれたという。

「突然前ぶれもなく倒れて亡くなったことを除いて、“夫と死別する”ということは想定内でした。私の方が体が丈夫なので、夫を見送ることになるだろうと覚悟していたんです。

 だから、慌てることもありませんでした。寂しいとか悲しいという感情もない。もう充分、夫とは幸せな時間を過ごしてきたから、悔いがないんです。それに、毎日やることがいっぱいあって、忙しいですから」

 そう言って朗らかに笑う溝井さんは、9万人超のフォロワーを抱えるツイッタラー(ツイッターに投稿している人のこと)。息子たちが安否確認できるようにと、3度の食事の写真を毎日欠かさずツイッターに投稿していたところ、レシピを質問してくる人や、投稿を楽しみにしてくれる人が増え、やめられなくなったという。1日のリプライ(来た投稿に返信すること)の数も多い日で数十件というから、かなりの忙しさだ。

 しかし、こういった“外とのつながり”こそが、夫との死別後も変わらず元気を保っていられる秘訣のようだ。

SNSで人とつながることが張り合いに

「朝起きてツイッターを見て、食事の準備をして、朝食を済ませ、片付けてNHKの連続テレビ小説と、その後に続く『あさイチ』を見るのは、夫がいたときからの私の日課。その後はツイッターのチェックと庭掃除などの家事をしながら、月に2回、習い事にも行きます」
 
 来客も多いという。隣町に住む息子が3日に1回は食材を届けてくれたり、孫が塾帰りに寄ってくれたり…。また、2か月に1回は「女子会」も開催。この女子会は、高齢者ボランティアから、ヘアメイクやマッサージのサービスを受けた際、

「今度は私がお昼をごちそうしましょう」

 という溝井さんの提案で始まったものだという。

「50代の美容師やマッサージ師など、メンバーは7~8人。やっぱり、おしゃべりは大切ね(笑い)。ツイッターで人とつながるのも、大きな励みになっています」

 人の目があると料理もするし、部屋も整えざるを得ないと、溝井さんは言う。

 取材で訪れた日も、リビングの掃除は行き届き、テーブルには庭から摘み取った菊の花が飾られていた。それでも夜、ひとりで布団に入ると、かつて隣にいた夫を恋しく思うことがあるという。そんなときは、幸せな記憶に包まれて眠りにつくのだとか。

「夫は私の作る3度の食事を欠かさず完食し、私を称え、守ってくれた男らしい人でした。

 後から知ったことなんですが、こんなこともありました。

 夫の両親は私たちとの同居を望んでいたんです。特に舅は、“嫁は舅の世話をして当然だ”と主張していたようで…。夫はそんな舅の意見を突っぱねて、私を守ってくれていたんです。しかも、私が嫌な思いをしないよう、舅の主張や不満は一切私に伝えず、ひとりでのみ込んでくれていて。本当にいい人でした」

 溝井さんのいまを支えるのは、人とのつながり、死別前後も変わらぬ多忙な日々、そして夫とのかけがえのない思い出にあるようだ。

溝井喜久子さんに2つの質問

■1.遺品の片付けは?

「夫が着ていたスーツなどの衣類10着程度と靴はそのまま玄関に残してあります。処分すると夫の痕跡がすべてなくなる気がするから…。夫の囲碁盤も、数十万円する高級品ですし、もったいなくて捨てずじまい。私の死後、子供たちがまとめて処分してくれるでしょう」

■2.ルーティンが変わった?

「夫の生前も、3度の食事と、介添えが必要な入浴時は一緒でしたが、それ以外の時間は基本的に別行動。夫は終日、趣味の囲碁に興じ、私は習い事やツイッター投稿などで、それぞれ忙しく過ごしていました。ですから、日々やることや忙しさは変わっていませんね」

教えてくれた人

主婦 溝井喜久子さん

1934年生まれ。お茶の水女子大学理学部を卒業後、教職に就き、26才から専業主婦に。76才のときにツイッターを始め、“ツイッターおばあちゃん”として話題に。2015年7月に夫が他界(享年81)し、現在はひとり暮らし。

取材・文/桜田容子

※女性セブン女性セブン2022年2月10日号
https://josei7.com/

●83才フォロワー9万人超え!ツイッターで大反響の日々の献立

●夫が亡くなったら起こる6つのこと ひとりで幸せに生きるための対策を専門家が指南

●7年のがん闘病を看取った妻、夫の息が止まった時に シリーズ「大切な家族との日々」

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