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阿川佐和子さん、約9年半の両親介護を語る 東日本大震災のことも忘れたアルツハイマー型認知症の母親がメモに残していたこと「1人で闘ってたと思うと胸がつまりました」

2012年から父で作家の阿川弘之さんの介護が始まり、2020年に認知症の母親が亡くなるまで約9年半介護を行った、エッセイストの阿川佐和子さん(71歳)。母親の認知症が進んでいく過程で、どのような介護を行ったのか話を聞いた。

認知症になった母は、その年に起こった東日本大震災を覚えていなかった

――足腰が弱り始めていた80代後半の弘之さんを母親のみよさんがサポートしていたそうですが、その母親の異変に気付いたのは、いつ頃ですか?

阿川さん:母は82、3歳の頃から物忘れが頻繁になったので、私たちきょうだい4人は両親の家に顔を出す頻度を上げました。とはいえ、たとえ母が認知症になったとしても、初期なら治せると思っていたんです。病院に行くという発想はなかったので、漢字ドリルなどを渡して脳のトレーニングをさせました。けれど効果はなく。

ある日、家族みんなで外食に行った時に、母がお手洗いに立ったのを見計らって父が「お前たち、気づいているかどうか知らないが、母さんはボケたぞ。ボケた、ボケた!」と3回も言うから、そんな大きな声で言わなくたってわかってますよって(苦笑)。父にとってはショックだったんでしょうね。覚悟の大発表だったようです。

その後、2011年の秋に母は狭心症で入院してステントを入れる手術をしたのですが、そのとき東日本大震災のことをすっかり忘れていたんです。あれほどの大災害を覚えていないことに衝撃を受けました。

1人暮らしになった認知症の母親を、知人ときょうだいで介護

――その頃には、足が弱っていた父親は室内で転倒することが多くなっていたんですよね。

阿川さん:何度目かのときに書斎で机の角に頭をぶつけて血だらけになったらしいんです。声をあげても母は耳が遠くて聞こえない。たまたま弟がその場にいて、気づいて救急車を呼んで父は緊急入院することになったのですが、誤嚥性肺炎を起こしていまして。高齢者が誤嚥性肺炎を起こしたら、これは最期だろうと家族一同を集めたんですけど、ゾンビのように蘇りました(笑い)。

1か月で退院することになったのですが、いよいよ両親だけで生活させるのは無理だろうときょうだいで話し合って、父はよみうりランド慶友病院に入院することになりました。父は家に帰るつもりだったから、「なんでまた別の病院に入るんだ!」って怒っていたんだけど、食事をしたら「うまい」と言って溜飲を下げていました(笑い)。結局、父はその病院に3年半お世話になって、94歳で息を引き取りました。

――父親の入院中、認知症の母親は1人暮らし?

阿川さん:母を1人にはしておけないので、信頼できる知人に介護を手伝ってもらうことにしました。彼女がいなかったら、両親の介護はどうにもならなかったと思います。きょうだい4人でシフトも組んで、途中から弟2人は外国住まいになっちゃったから人手が足りなくなったりもしたけれど、なんとかやりくりできました。

当初、認知症は病院に行く必要がないと思っていたんだけど、物忘れ外来とか心療内科とかがあって、お薬を処方されるの。認知症を治す薬はまだないから、進行を遅らせる薬をもらっていました。それが効いたのかわからないけど、母は9年半、最期まで完全にわからなくなることはありませんでした。

母親の部屋で「忘れないこと」と書かれたメモを見つけた

――母親の介護をするなかで、つらかったことはなんですか?

阿川さん:あれだけしっかりしていた母が、さっき言ったことも覚えていないとか、子供返りしていくのを見るのはつらかったですね。母は心臓の薬をのんでいたのですが、母は「のんだ」と断言するけれど、ゴミ箱を確認しても形跡がなくて。薬は命に関わることだから言い争いになったりしたのですが、母は「なんで家族に叱られなきゃいけないの」って泣いてしまったりとか。

こちらだって「なんで元に戻らないの?」っていう思いもあるから、最初の頃は思い出させようと家族は必死だったんです。けれども、アルツハイマー型認知症は今の医学では治らないっていうことを受け入れた時、「母の発言が事実じゃなくてもいいんじゃないか」っていう気持ちになってきたんです。

例えば、「さっきの赤ん坊どうしたの?」って母に聞かれると、うちに赤ん坊がいるわけないでしょって思うんだけど、「2階で寝かしつけてます」って答えたりね。母の世界にこっちが乗ったほうが、お互いに平和になることがわかりました。

母もつらかったと思います。母の部屋の片づけをしていたら、メモが出てきたんです。「忘れないこと」「真珠のネックレスが見つからない」とかメモに書いてあって、母も1人で闘ってたのかなと思うと、泣けました。昔はこんなじゃなかったって、本人が一番、悔しく思っていたんでしょうね。

◆作家、エッセイスト・阿川佐和子

あがわ・さわこ/1953年11月1日、東京都生まれ。報道番組のキャスターなどを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、作家、インタビュアーなど幅広く活躍。1999年に檀ふみ氏との往復エッセイ『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、2000年『ウメ子』で坪田譲治文学賞、2008年『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。近著に『だいたいしあわせ』がある。2012年から父で作家の阿川弘之さんの介護が始まり、2020年に認知症の母親が亡くなるまで9年間介護を行った。

撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香

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