新『半沢直樹』9話|「あなたのしたことは、懸命に働く全銀行員への裏切りにほかならない」今夜最終回、千倍返しだぁっ!!
堺雅人主演『半沢直樹』新シリーズ。いよいよ今夜最終回。先週放送の9話では、最後の最後でまさかの裏切り者が明らかに! 未だ興奮さめやらない。そこで、日曜劇場研究ライター近藤正高さんが、最終回を万全の状態で観るために、これまでに判明したポイントを整理して、解説します。
中野渡頭取は何を考えているのか
前回のレビューで、柄本明演じる政権与党の箕部幹事長はずっと怒りをあらわにしてこなかったのが、初めて半沢と面会した途端に感情をぶつけ、同じ土俵に上がったと書いた。しかし、『半沢直樹』には箕部以上に感情を表さない人物がいることを、先週9月20日放送の第9話を見ていて思い出した。それは、北大路欣也演じる東京中央銀行の中野渡頭取だ。
東京中央銀行は、12年前、東京第一銀行(旧T)と産業中央銀行(旧S)の合併により発足したが、行内では両行の出身者同士が対立し、頭取になった中野渡はその融和のため腐心してきた。彼が感情をあらわにしないのも、対立を煽らないための心がけだろう。しかし、そのためにほかの人間には、いまひとつ彼が何を考えているのかよくわからなかった。
第9話のラストでは、その中野渡が半沢の前に裏切り者として立ちふさがった。半沢がそれまでずっと探してきた旧Tによる箕部への不正融資の証拠資料を、中野渡が当の箕部に渡していたのだ。ただ、その事実があかるみになってもなお、頭取である彼がなぜそんな行為におよんだのかわからない部分が残る。……と、思わず先走ってしまったが、最終回を前にした第9話ではさまざまな新事実が判明した。以下、それらを整理して振り返ってみたい。
【判明その1】空港建設で利する箕部の錬金術
半沢(堺雅人)は、金融庁から国税庁に急遽異動を命じられた黒崎(片岡愛之助)から、箕部の地元にある伊勢志摩ステートという会社の存在を教えられていた。さっそく現地に飛んだ半沢は、伊勢志摩空港で待っていた元部下の森山(賀来賢人)をともない、東京中央銀行伊勢志摩支店の副支店長となっていた同期の深尾(小松和重)を介して、伊勢志摩ステートの財務資料を見せてもらう。ここから、箕部が旧Tから20億円の融資を受けた15年前、伊勢志摩ステートを隠れ蓑に地元の土地を購入し、そこに空港を誘致して巨額の利益を得ていたことがあきらかになる。しかし財務資料には、伊勢志摩ステートから箕部にカネを送った痕跡はなかった。箕部への送金記録はどこにあるのか? 半沢は、同期の渡真利(及川光博)、部下の田島(入江甚儀)、検査部のトミさんこと富岡(浅野和之)とともに書庫センターに赴き、「荻窪西支店」なる架空の支店名義の段ボール箱から箕部に関する資料を探そうとするも、箱はすべてどこかに持ち去られていた。
【判明その2】箕部のクレジットファイルの中身
荻窪西支店の段ボールからは前回、半沢と大和田(香川照之)が手を組んで箕部のクレジットファイルだけを入手した。ファイルはすでに紀本に返却されていたが、半沢は大和田を半ば脅して、その内容を白状させる。大和田がファイルからひそかに撮った画像からは、旧Tから箕部がマンション用土地購入の名目で20億円の融資を受け、それに紀本がかかわっていたことが確認された。さらにファイルに挟まれたメモには、暗号のようなアルファベットや数字が矢印とともに記されていた。どうやらそれは銀行から箕部や紀本たちへのカネの流れを示しているらしい。
【判明その3】タスクフォース乃原と紀本の意外な関係
渡真利が一方で進めていた調査により、タスクフォースの乃原(筒井道隆)は、紀本常務(段田安則)の小・中学校の後輩だとわかった。乃原の父親が経営していた町工場は、紀本の父が支店長を務める銀行から融資を受けられず倒産。以来、乃原は紀本および銀行に恨みを抱くようになる。彼は伊勢志摩のある会社の顧問弁護士をしていたころに、旧Tによる箕部への不正融資をすでに知っていた。紀本にもこれを盾に、タスクフォースがかねてより銀行に要求していた帝国航空への債権放棄を飲ませようとする。もっとも、たとえ銀行が債権放棄を受け入れずとも、乃原は自分が不正融資を暴露すれば告発者として名声を得られると踏んでいるようだが……。
【判明その4】富岡は中野渡の命令で動いていた!
書庫センターからごっそり消えた荻窪西支店の段ボールは、意外な場所から見つかった。何と、富岡が銀行の地下の隠し部屋に運び込んで保管していたのだ。半沢はその前に、富岡に疑いを抱き、彼について行きつけの小料理屋の女将・智美(井川遥)から聞き出していた。智美は旧T時代の中野渡の部下であり、副頭取の牧野(山本亨)の秘書も務めていた。その牧野が10年前に自殺した折、中野渡は赴任先のニューヨークから葬儀に駆けつけると、牧野の死の真相を探らせるべく智美に適任者を選ぶよう指示した。そこで抜擢されたのが富岡だったというわけである。
富岡がひそかに運び込んだ段ボールからは、大量の不正融資に関する書類が出てきたものの、ここでも箕部に関する資料の入った箱だけは見当たらなかった。
【判明その5】牧野副頭取の死の真相
そうこうしているうちに、半沢の動きは紀本に勘づかれ、隠し部屋に富岡と一緒にいるところを見つけられてしまう。万事休すというところで、ここで思わぬ助太刀が入る。黒崎が突然現れたかと思うと、紀本たち「棺の会」(牧野の元部下たちの集まり)のメンバーの隠し口座を持っていると証拠を突きつけたのだ。ついに紀本は観念し、牧野の死の真相を明かす。
牧野は箕部への融資に反対したものの、箕部は旧Tがほかに抱えていた不正融資の存在に気づき、それを盾に強引に融資を承諾させた。だが、牧野がいつ警察に口を割るかわからない。そこで箕部は牧野に賄賂の罪をかぶせるために、偽の口座情報をでっち上げて彼を罠にはめたのだ。紀本は、旧Tの大量の不正融資を表沙汰になるのを防ぐため、その罪を一人で背負ったと説明する。しかし半沢は「一人で背負われた? あなたたちが背負わせたんでしょう! 誰一人本当のことを言わず、保身に走り、責任から逃れ、一方で牧野さんにはこのままでは旧Tが崩壊すると圧力をかけた。あなたたちが牧野さんを殺したんだっ!!」と、紀本たちの責任を追及した。
【判明その6】ひそかに動いていた大和田、中野渡の予想外の行動…
このあと紀本は、箕部関連の資料は役員しか入れない地下の別の場所にあると、半沢たちを連れていく。だが、ここでもいつのまにか資料はなくなっていた。そのとき、同行していた福山(山田純大)が大和田に連絡を入れたと知った半沢は、急いで大和田のいる場所を突き止める。それは都内のホテルだった。じつは大和田も中野渡の命を受け、半沢や富岡には黙って旧Tについて調べあげ、一足先に書類を手に入れていたのだ。半沢がホテルに乗り込むと、中野渡が箕部を招き、すでに資料を渡したあとだった。
……と、第9話は、半沢の行動が紀本や箕部サイドにバレやしないかと、ハラハラドキドキさせる展開が続いた。伊勢志摩に赴いた際には、ちょうど箕部の側近の笠松(児嶋一哉)も伊勢志摩ステートを訪ねていて、銀行の副支店長が同社に財務資料を借りに来たと知るや、不審に思って支店に乗り込んだ。すんでのところで半沢たちは支店を脱出し、アンジャッシュのコントよろしくすれ違いに終わる。味方であるはずの富岡にも裏切りを臭わすような描写が出てきて、見ている者の緊張感を高めた。
一番釈然としないのは半沢
しかし、そうやって半沢たちが懸命に探し続けた箕部関連の資料は、頭取の判断で本人の手に渡ってしまった。中野渡からすれば、乃原に呼び出された際、帝国航空に対する債権放棄をあらためて拒否したのだから、代わりに箕部は不問に付すということなのだろうか? ただ、あらためて振り返るにつけ、その決断にいたるまでの中野渡の態度はどうも妙だ。旧T時代から調査を命じていた富岡に加え、謹慎中の半沢を泳がせ(彼の行動は頭取にも富岡か大和田を通じて報告が行っていたと考えるのが自然だろう)、さらには大和田も別に動かす。複数のルートからTの不正を調べさせておきながら、最終的にすべての証拠を当事者に渡してしまうのは、やはり釈然としない。
もちろん一番釈然としないのは半沢だろう。何しろ、これまで顧客第一主義を標榜する頭取に全幅の信頼を置いてきたにもかかわらず、いきなり手のひらを返されてしまったのだから。それでも最後の希望を託し、中野渡にいますぐ資料を公表するよう求め、それによって失うだろう銀行の信頼は自分たち銀行員が一丸となって必ず取り戻すと訴えたのだが、返ってきたのは、帝国航空の担当を外れてもらうとの通告であり、さらには出向までちらつかされる。
これに乗じて箕部が、半沢に土下座での謝罪を要求。蒼ざめた大和田は半沢を組み敷いてひざまずかせようとするのだが(イラスト参照)、結局、はねのけられてしまう。ここに半沢の怒りがついに爆発する。中野渡に向かって「あなたのしたことは、懸命に働く全銀行員への裏切りにほかならない。とうてい許すことなどできませんっ!!」と言い放ったかと思うと、続けて箕部に対し次のように吠えた。
「私を銀行員として抹殺したいならどうぞご自由に! だが、銀行の正義を信じるすべての銀行員のために、そしてこの国の正義を信じるすべての国民のために、あなたの悪事はきっちりと暴かせていただく。この借りは必ず返します。やられたらやり返す、倍……いえ、3人まとめて……千倍返しだぁっ!!」
気づけば、大和田も、そして中野渡も、ひとり箕部に立ち向かう半沢に感服するかのような表情を見せていた(大和田にいたっては涙まで流していた)。果たして彼らは半沢の言葉をどんな気持ちで聞いていたのだろうか。その答えはきっと今夜放送の最終回であきらかになるに違いない。筆者としては、先の生放送で福澤克雄監督より終盤での活躍がほのめかされていた笠松と、すでに箕部の不正を知っている乃原がどんな行動に出るのかも気になるところだ。
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文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
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