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『古畑任三郎』リメイクの噂で木村拓哉新キャストの期待も。田村正和につながるものは?【水曜だけど日曜劇場研究】

 TBS「日曜劇場」の歴史をさかのぼって紐解くシリーズ第11回。「日曜劇場」主演回数1位の俳優・田村正和を考察するにあたり、第9回では、日曜劇場ではないが、田村のターニングポイントであろう『古畑任三郎』の成り立ちに触れた。すると、タイミングよく『古畑任三郎』続編製作の噂がネットを賑わせた。新古畑は誰なのか。候補に「日曜劇場」主演回数2位の木村拓哉もあがった。田村正和から木村拓哉へ。その流れを「日曜劇場」に寄せて、ドラマ考察で知られるライター近藤正高氏が深く追っていく。

→小説で復活が話題『古畑任三郎』は田村正和と日曜劇場にも意外な影響!?

 日曜劇場研究だけど古畑任三郎研究?

 当連載では、前回まで『日曜劇場』における田村正和について振り返ってきた。折しも先週、『古畑任三郎』のドラマの続編がつくられるかもしれないという噂が流れ、もし本当に実現するなら、すでに高齢で再登板が難しそうな田村に代わって誰がやるのかという話題でSNSは持ちきりとなった。もっとも、『古畑任三郎』は、当連載のテーマである「日曜劇場」のドラマではないので、これ以上とりあげると“これじゃ「水曜だけど日曜劇場研究」じゃなくて「日曜劇場研究だけど古畑任三郎研究」だ”などと言われてしまうかもしれない。それでもせっかくの機会なので、今回はまずこの話題に乗ってみようと思う。

 じつは作者の三谷幸喜は、古畑の役を当初、玉置浩二で考えていたという。三谷いわく《もっと悪魔みたいな、真っ黒い服装で無表情で淡々と事件を解いていく、そういうイメージだった。/でもそのイメージを膨らませているうちに田村正和さんがピッタリだなと思うようになった》。だが、最初に田村にオファーした時には、従来の刑事ものと思われたらしく、断られてしまう。そこで三谷は、何とか田村に演じてもらうべく、スタイリッシュでおしゃれな刑事にしようと、田村を想定した台本を書き、《古畑は今までの刑事ドラマとは違って、ピストルも持たないしアクションシーンもない。論理的に事件を解決する刑事です》と説明したという。台本を読んだ田村はその意図を理解し、一転して引き受けてくれたのだった(三谷幸喜・松野大介『三谷幸喜 創作を語る』講談社)。

 いま思い返せば、古畑の登場は画期的だった。それまでアクションシーンが目玉となることが多かった日本の刑事ドラマの流れを変えたといってもいい。おそらく古畑がいなければ、『踊る大捜査線』(フジテレビ系、1997年)でサラリーマンから刑事に転職した織田裕二演じる青島俊作も、『ケイゾク』(TBS系、1999年)における生活力はまるでないが天才的な頭脳を持ち、過去の迷宮入り事件を解決していく中谷美紀演じる柴田純も生まれなかっただろう。テレビ朝日系で2000年より続く人気シリーズ『相棒』で水谷豊演じる杉下右京にいたっては、独特のしゃべり方といい、浮世離れしたキャラクターといい、また演じ手の代名詞となるほどハマり役となったことといい、古畑の直系と位置づけられそうだ。

織田裕二『IQ246』の試行錯誤

 田村にとっても、水谷豊にとっても、これら刑事役がイメージチェンジにつながったところがある。水谷など、もはやCMなどでも右京さんを引きずっているのではないかとさえ思わせる。ただ、こうしたイメージチェンジがいつも成功するとはかぎらない。そこで思い出されるのは、2016年に「日曜劇場」で放送された織田裕二主演の『IQ246〜華麗なる事件簿〜』だ。同作で織田が演じたのは、刑事ではなく、天才的頭脳を持つ貴族の末裔だった。法門寺沙羅駆(ほうもんじ・しゃらく)というその男は、暇に飽かして警察の事件捜査に首をつっこみ、事件を解決してしまう。そして最後は犯人に向かって「この犯罪、醜悪至極なり!」と言い放つのが毎回のお約束となっていた。

 その奇矯なキャラクターは、まさに古畑や右京に連なるもので、演じる織田としてもかなり冒険だっただろう。しかし、最後までどこか違和感がぬぐえなかったことは否めない。なかにはあのキャラクターをすんなり受け入れ、毎回楽しんでいた視聴者も少なからずいたのかもしれないが、どうも筆者には、織田が無理して演じているように思えてならなかった。それというのも、古畑や右京の場合、それぞれ田村や水谷のなかにあるものからキャラクターがつくられていったのに対し、法門寺にはそういうことがほとんどなされなかったからではないか。もちろん織田としては、キャラクターに自分を近づけるべく精一杯の努力はしたはずだし、実際にドラマを観ていてもそれはうかがえた。ただ、そうした演じ手の努力に比して、脚本や演出の側から、キャラクターを織田に近づけようという歩み寄り方がどうも足りなかったように思われてならない。それこそが、法門寺に対し私が最後まで違和感をぬぐえなかった最大の理由だ。

まず木村拓哉を思い浮かべた

 こうして考えるにつけ、俳優のイメージを揺るがしかねないほど変わり者のキャラクターを、違和感なく仕立てるには、いかに演じ手に合わせて脚本を書いたり演出したりするかにかかっているのだと気づかされる。ここから、古畑が田村正和への当て書きから生まれたキャラクターである以上、それ以外の演じ手によって復活させるのは無理である——と主張することも可能だろう。筆者もどちらかといえばこの考えに近い。だが一方で、なるべく田村と似た資質を持った俳優を立てて、キャラクターもなるべくその俳優に寄せて新たな古畑像を創り出せたのなら、ドラマを継承していくことは可能なのではないか、とも思う。その場合、誰が適役なのか? そこで筆者がまず思い浮かべたのは、今回噂がのぼった際にSNSでもちらほら名前のあがっていた木村拓哉だった。

 この連載で以前指摘したように、“何を演じても木村拓哉になる”という点で、彼は田村と同じくスターの資質を持ち合わせていると思う。かつて『SMAP×SMAP』で、木村が古畑のパロディを見事に演じていたのも思い出される。実際に木村が古畑を引き継ぐとして、田村のモノマネができることは必須条件ではないだろうし、それがかえって仇(あだ)となることもあるだろう。それでも、パロディを下地に新たなキャラクターが創造できたのなら、十分に期待は持てる。

→SMAPの全員が主演していた日曜劇場|主演本数歴代2位はキムタク、1位は?

 木村が田村そっくりにパロディができたのは、同じころに当人とドラマで共演する機会に恵まれたからでもあるのだろう。そのドラマ『協奏曲』は1996年、TBS系の「金曜ドラマ」の枠で放送された。同作では、脚本を池端俊策(最近ではNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』で知られる)、プロデューサーを八木康夫と磯山晶が務めた。八木・磯山コンビといえば、「日曜劇場」で田村主演の『カミさんの悪口』『カミさんの悪口2』『カミさんなんかこわくない』を担当している(ただし、『カミさんの悪口』では磯山はプロデューサー補、『カミさんなんかこわくない』は磯山が単独でプロデューサーを務めており、厳密にいえば2人がともにプロデューサーを務めたのは『カミさんの悪口2』のみ)。八木はこれ以前、ダウンタウンの浜田雅功主演の『人生は上々だ』で木村を起用していた。したがって、同じTBSの「日曜劇場」で木村が主演を張るなら、八木プロデューサーのもとでということもありえたはずだ。だが、実際にはそうはならなかったのが、面白いところではある。

『ビューティフルライフ』の伝説

 以前書いたとおり、木村は「日曜劇場」で田村に次ぎ歴代2位の主演回数(7回)を誇る。その第1作は、よく知られるように、常盤貴子とのダブル主演となった『ビューティフルライフ』(2000年)である。脚本は、フジテレビですでに『あすなろ白書』(1993年)、『ロングバケーション』(1996年)と木村出演のドラマをヒットさせていた北川悦吏子。企画したのはTBSのプロデューサーだった貴島誠一郎(代表作に『ずっとあなたが好きだった』『愛していると言ってくれ』など)で、同じく多くのヒット作があるディレクターの生田慈朗(代表作に『3年B組金八先生』『男女7人夏物語』など)が演出・プロデューサーとして参加するなど、TBSの精鋭のスタッフが結集した。ちなみに本作でプロデューサーを務めた生田と植田博樹は、すでにこの2年前、1998年に木村主演でスペシャルドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』を手がけている。

 すでに彼が出ればヒット間違いなしというほどの人気俳優となっていた木村が、局の看板である「日曜劇場」に主演、それも放送開始が2000年1月と新ミレニアムの幕開けと重なっただけに、TBS側は力が入ったことだろう。それは見事に成果を収め、平均視聴率は32.3%、最高視聴率は41.3%(最終回)にまで達した。最高視聴率こそ、その後『半沢直樹』の42.2%に抜かれたものの、平均視聴率は現在にいたるまで「日曜劇場」歴代最高である。

 とはいえ、それまで大半の作品がサラリーマンが主人公だった「日曜劇場」において、木村演じる美容師と常盤演じる足の不自由な図書館司書によるラブストーリーは、従来の視聴者層からすれば、いささか唐突な感があったに違いない。果たして「日曜劇場」の歴史において『ビューティフルライフ』はいかに位置づけるべきなのか、その点を踏まえながら、次回以降、考察していくことにしたい。

『古畑任三郎』は配信サービス「FOD」で視聴可能(有料)
『IQ246〜華麗なる事件簿〜』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
『ビューティフルライフ』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)

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文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●名作ドラマ『夫婦。』のセリフが時を超えて心に響く理由

●田村正和はモテ男の象徴!?出演ドラマから紐解くそのスター性

●深夜の金字塔『孤独のグルメ』目の前にある料理をおいしくいただくだけなのに観てしまう理由

●また観たい名作ドラマ」『とんぼ』で長渕剛が格闘する「クソったれな世の中」はマシになった?

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