本当は怖い<低栄養>3 栄養がとりにくい場合の対処法~プロが教える在宅介護のヒント
専門家の介入が有効な場合
食生活改善に取り組めない理由が以下のような場合は、ご家族だけでケアするのは困難かもしれません。
● 過去に受けた栄養指導を頑なに続けている場合
高齢になり、生活習慣病予防より低栄養のリスクのほうが高くなっていても、以前に受けた「生活習慣病予防の栄養指導」を頑なに守り、栄養制限やダイエットを続ける方も多くみられます。しかし本来、生活習慣病予防の栄養管理は10年、20年後の病気を予防するための栄養管理なので、高齢になったらシフトチェンジが必要なこともあります。
●年寄りだから粗食でいいと思い込んでいる場合
低栄養のリスクがあっても、高齢の方の中には「年寄りで、活動が少ないから粗食がいい」と思い込んでいる方が多くみられます。
これらの場合は、改めて専門家の診断を受けたほうがいいです。主治医にBMIや体重減少、指輪っかテストの結果などを伝え、その上で、改めて診断をあおぎ、本人に直接伝えてもらいましょう。
主治医の経過観察での診察では、低栄養が見逃される恐れも…
臓器別の専門医療の中では、低栄養やサルコペニアのリスクが見逃されてしまうこともあります。数か月に一度、洋服を着たまま、経過観察の診察を受けるだけだと、体重減少や筋肉量低下がわかりにくいためです。
そして、主治医の前ではつい優等生になって「何も問題はありません」と応えてしまう患者さんが多いということもあり、栄養不足は発見されにくいのです。
また、少食・粗食がいいといった偏見や、テレビで見た若い人向けの健康情報を自分にもあてはめて食生活改善をしない理由である場合も、ご家族が説得を試みるより、かかりつけ医や看護師、栄養士など医療・栄養の専門職から話すほうが、聞き入れられやすいことがあります。
中高年時代のメタボ対策を高齢になってからも続けている人が多い
みなさん、中高年時代にメタボリックシンドローム予防や生活習慣病予防の栄養管理が大切だと知り、気をつけますが、それが高齢になると適さないことはご存じでないのです。
私は普段、自宅で療養している方が介護保険で利用する居宅療養管理指導の訪問栄養指導を担当していますが、その多くは大変重症な栄養障害で、訪問の度、これほどになる前に予防・改善に取り組むことができていたら、生活の質が低下することはなかったと思い、大変残念で、口惜しく感じます。
介護保険を利用して、管理栄養士の訪問栄養指導を受けるには主治医の指示が必要です。ぜひ、そのような状態になる前に、高齢の方にふさわしい栄養管理に気をつけ、低栄養を予防していただきたいと思います。
安田淑子さん:管理栄養士。地域食支援グループ・ハッピーリーブス(東京都新宿区)副代表。1993年より高齢者の栄養管理・食支援に携わる。ハッピーリーブスは、歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士が協働で、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体。安田さんは主治医の指示書にもとづいて介護保険で行う「居宅療養管理指導」の訪問栄養ケアを担当。ほかに新宿ヒロクリニック外来での栄養相談などのほか、デイサービスでの昼食の栄養ケア、専門職向け食支援教育の講演、執筆など。著書に「介護スタッフのための 安心『食』のケア 口腔・嚥下・栄養」(共著、秀和システム刊)。
取材・文/下平貴子
→本当は怖い低栄養<1>なぜ元気な高齢者にも起こるのか?
→本当は怖い低栄養<2>早期発見・予防のコツ
専門家による在宅介護に役立つアドバイス!シリーズ「プロが教える在宅介護のヒント」を読む
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