本当は怖い低栄養<1>なぜ元気な高齢者にも起こるのか?~プロが教える在宅介護のヒント
専門家に在宅介護のヒントを教えてもらうシリーズ、今回は管理栄養士の安田淑子さんに、元気な高齢者にも起こる「低栄養」の予防とケアについてアドバイスしてもらう。
第1回は、食べ物が豊富なこの時代に高齢者に多くみられるという「低栄養」とはどのような状態か、また、なぜ起こるのか、お話を聞いた。
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在宅療養者の7割に低栄養の疑いが
「低栄養」と聞いても、多くの人は「自分や、家族には関係ない」と思うかもしれません。特別な病気がなく、毎日、ご飯が食べられていれば、栄養に問題があるとは考えにくいものです。
しかし、最新の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省、平成27年)によると、65歳以上で16.7%、80歳以上では2~3割が低栄養傾向とされています。
また、自宅で訪問診療、訪問介護、訪問リハビリテーションなどを受けている65歳以上の在宅療養者の場合はもっと多いことが調査でわかっています。全体の7割を超える人が、低栄養または低栄養のおそれがあるという調査結果が出ているのです。
低栄養は「フレイル」「サルコペニア」「ロコモ」の原因にも
低栄養とは、健康なからだを維持するための栄養が足りない状態で、高齢者の場合、とくに「エネルギー(カロリー)」と「たんぱく質」が不足する場合が多くみられます。
高齢者が低栄養になると体重減少のほか、脱水、貧血、気力低下などを伴って「フレイル」という状態を進行させる要因になります。
フレイルとは、年齢を重ねることによってからだの恒常性を保つはたらきが低下して、ストレス耐性や免疫力が低下し、病気にかかりやすくなることで、全身の健康や生活に影響します。中でもフレイルの一端で起こる「サルコペニア」という進行性の筋肉量減少や筋力低下には低栄養が大きく関係します。
また、高齢者には「ロコモティブシンドローム」という運動器の障害を起こす人も多いです。これは外出や家事をするなどの生活能力を低下させ、要介護度が上がる原因になる障害で、このロコモティブシンドロームにも栄養不足は悪影響を与えます。
そのため低栄養によって肺炎、骨折、認知症など、さまざまな病気のリスクが高まること、病気になった場合の予後(治療効果の出方や回復までの経過)が悪いことがわかり、高齢者を対象にした老年医学の分野ではとくに栄養管理が見直されています。
太っているのに「低栄養」の場合も! 若くても要注意
低栄養は太っている人にも起きていることがあります。脂肪がついているため体重は重いけれど、筋肉や骨、内臓は十分な栄養がとれていないケースもあるのです。
体重減少がなくても、体脂肪が多く、筋肉量が減っていれば、低栄養やフレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームが隠れている可能性があります。
そして、低栄養は高齢者に限ったことではなく、若い人や、中高年にも起きます。
先に、在宅療養者に低栄養の人や、低栄養のおそれがある人が多いことを述べましたが、実は、介護をしているご家族も、家事や仕事と介護の両立などで余裕がなく、自身の食事がおろそかになり、低栄養を起こすことがあります。
例えばカップ麺やおにぎりなど手軽に食べられるものばかりに偏った食生活が続くなどすると低栄養になり、心身の疲労と併せて介護をしているご家族の健康を蝕む原因になってしまいます。