フレイルを招く危険な《低栄養》食生活の見直しポイントを東京都健康長寿医療センターの研究員が指南<食事で摂りたい10品目チェックリスト>
介護いらずの健康長寿を目指すには、しっかり栄養を摂って「フレイル」を予防することが大切。しかし高齢になると食が細ったり高血圧などで食事制限が必要になったり、栄養が不足による低栄養も心配。東京都健康長寿医療センターの研究員である管理栄養士の本川佳子さんに、対策を教えてもらった。
教えてくれた人
本川佳子さん/東京都健康長寿医療センター研究員・管理栄養士
管理栄養士。東京都健康長寿医療センター研究所 オーラルフレイル・栄養研究 専門副部長。東京農業大学大学院博士課程(食品栄養学)修了後、急性期病院勤務を経て在宅栄養管理を行う。2015年より現職。主な研究テーマは「フレイル予防を基軸とした栄養ケア」「口腔と栄養の連携」など。
フレイル予防に重要な「食事」
「フレイル(虚弱)状態を放置すると、病気や転倒によるケガなどによって要介護状態に繋がることも。死亡リスクも高まる可能性があります。しかし、適切な行動や対処をすることによって、フレイルの改善や進行を防ぐことはできます。フレイル予防の柱の1つが食事で、フレイルにならない、または遅らせるための食事の仕方があります」
こう話すのは、東京都健康長寿医療センターでフレイルや栄養について研究する管理栄養士の本川佳子さんだ。
フレイルにならないためには「食事の摂り方」にポイントがあるという。詳しく教えてもらった。
オーラルフレイルから低栄養に
「口腔機能の衰え(オーラルフレイル)に注意を払い、低栄養にならないための食事を心がけることが重要です。高齢者が低栄養になる原因の1つに「咀しゃく機能の低下」があります。
また、糖尿病などの持病があるかたや高血圧気味の高齢者の場合、自己流で食事制限をしているかたもいらっしゃるかもしれませんが、間違った食事制限によって低栄養を招くことも。
糖尿病や高血圧の場合、血糖値を上げないように食事のコントロールをしているかたもいらっしゃると思いますが、フレイル予防の観点から低栄養にも注意する必要があります。食事が偏るなど栄養がしっかり摂れていない状態、低栄養が続くと、とくに病気を抱えている人にとっては合併症のリスクが高まるだけでなく、病気やケガも治りにくくなります。
低栄養を放置しているとオーラルフレイルから本格的なフレイルへと進行してしまい、要介護状態を招くことにもなりかねないので、早めの対策が肝心です」(以下、本川さん)
→「お茶や汁物でむせる」「さきいかやたくあんが食べにくい」気になる《オーラルフレイル》の基本と対策を専門家が解説
食生活で注意すべき2つのポイント
「食生活のポイントは2つあります。1つ目は、さまざまな食品をバランス良く摂ること。
バランスの良い食事の目安として、主食となる米やパンのほか、肉類、魚介類、卵類、大豆・大豆製品、牛乳、緑黄色野菜、海藻類、いも類、果物類、油脂類の10品目が挙げられます。
毎食10品目すべて摂るのは難しいので、7品目以上を目標にして欲しいと思います。高齢者のかたはとくに、チェックリストを参考に改めて日々の食生活を見直していただければと思います」
1日に必要な10品目の食品をチェック
□肉類 □魚介類 □卵類 □大豆・大豆製品 □牛乳 □緑黄色野菜 □海藻類 □いも類 □果物類 □油脂類
たんぱく質不足にご用心
2つ目のポイントは、たんぱく質を十分に摂取することです。
たんぱく質は肉や魚、卵、乳製品、大豆製品などに豊富に含まれています。たんぱく質は筋肉の原料になるため、身体に欠かせない栄養素です。とはいえ、高齢になると食欲が落ちてしっかり食べられないというかたも。
また、咀しゃく・嚥下(えんげ)機能の衰えにより、食べにくくなっていることも考えられます。食べやすいものを選んでいるうちに、知らないうちに偏った食事で栄養不足に陥る可能性も。
1日の食事が2回以下のかたや、食事時間が不規則なかたは低栄養になる傾向があります。過去6か月間で体重が2、3㎏減少している場合はとくに注意が必要です。体重減少の原因が思い当たらない場合は、別の病気の可能性もあるため、医療機関に相談することをおすすめします」
低栄養を防ぐ食べ方の工夫
食事は“食べ方”のちょっとした工夫で低栄養の予防にもなるという。
「食が細くなってきている高齢者はとくに、ご飯やパンなど主食でお腹が一杯になってしまわないように、おかずから食べることがおすすめです。
一度にたくさんの食事を摂れない場合には、おやつ(補食)を取り入れてみましょう。果物やヨーグルトや豆乳、プリン、果物など、たんぱく質やビタミン類が豊富な食品を選ぶことも有効です。
市販のお惣菜でも不足がちな栄養を補うことができます。最近は、コンビニやスーパーなどでも1人前など少量のおかずが多く販売されているので活用してみるのもいいでしょう。サバやイワシなど魚の缶詰もたんぱく質を補えます。日々の食事に1品追加するだけでも、栄養のアップが見込めます」
・ご飯よりおかずを先に食べる
・おやつでも栄養素は補える
・コンビニの小さな惣菜や缶詰を活用
健康長寿を叶えるスーパーフードとは?
「よく元気に暮らす高齢者の中に、毎日お肉を食べているとか、青魚を欠かさないなど、特定の食品をよく食べているというお話を聞くことがあります。しかし、それだけを食べて健康長寿になれるスーパーフードは存在しません。現時点では、フレイル対策において特定の食品や栄養素がいいという科学的根拠(エビデンス)は得られてはいません。
健康長寿のための食事の秘訣は、『さまざまな食品をバランスよく食べる』ことに尽きるのです。当たり前にも思われるかもしれませんが、偏った食事になってしまっている高齢者のかたは意外といらっしゃいます」
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フレイル予防のために改めて日々の食事を見直して、栄養をしっかり摂って介護いらずの健康長寿を目指したい。
取材・文/立花加久