「脊柱管狭窄症」の痛みを緩和!高齢者も注目の治療って?
「さする」と痛みが取れる原理を応用した脊髄電気刺激療法
脊髄電気刺激療法のヒントとなっているのは「ゲートコントロール仮説」という考え方です。身体の一部に痛みがある時、私たちは知らず知らずのうちに「さする」という行為をし、それによって痛みが和らぐことを経験しています。そのことを科学的に説明するための仮説です。
この仮説の研究が重ねられ、体の中の脊髄経路や末梢神経に電気刺激を与えることで痛みを取り除くことができること、さらに刺激を止めた後でも、痛みの緩和が続くことが確認できたのです。この痛み抑制の原理を応用して、脊髄付近に電極を埋め込んで刺激を与え、痛みを緩和する方法が脊髄電気刺激療法というわけです。
トライアル期間があるので、安心して治療にチャレンジできる
この治療が注目されている理由は以下のポイントです。
●体への負担が少ない
一般的な脊柱菅狭窄症の手術であれば、筋肉を剥がし、骨を削り、血管や靭帯を切る大掛かりなものになりますが、脊髄電気刺激療法は専用の針で背中から脊柱管の中にある硬膜外腔と呼ばれる空間に電極を埋め込むだけです。麻酔は局所のみ。不要になれば電極を取り去れば元の状態に戻すこともできます。
●他の疾患があってもチャレンジできる可能性がある
肝臓や消化器系に病気がある方や、薬品にアレルギーのある方で、鎮痛剤を服用できない方にとっては、減薬が叶うため大変有効な治療です。また、抗凝固薬や抗血小板薬を常用している方や、心臓のペースメーカーを使っていても、正しい知識を持った医師の元であれば、治療できる可能性が十分にあります。
●トライアル期間がある
治療の手順としては、まず電極を留置する手術を行い、1週間程度入院をして痛みが緩和されるかどうかのテストを行います。トライアル期間となるこの段階で鎮痛効果に満足できれば、体内にペースメーカーのような内蔵電池を植え込みます。満足できなければ、植え込みは行いません。
●手元のリモコンで刺激をコントロールできる
電気刺激は「トントントン」と叩かれているようなわずかな刺激です。患者さん自身が手元のリモコンを使って刺激をコントロールします。メーカーによっては、立つ、座る、寝る、動くなど姿勢によって、プログラミングされた刺激を自動的に切り替えるタイプもあり、リモコン操作の苦手な高齢の方にも評判です。
●保険適用の治療である
保険適用が認められている治療で、高額療養費制度を利用することができます。70歳以上の方であれば、所得に応じて1万5000円~8万円程度です。アメリカでは年間4万人もの方が、この治療を受けているほどスタンダードなものです。
9割以上の人が、痛み緩和の効果を実感している
慢性難治腰痛症を抱える人に脊髄電気刺激療法を行ったところ、約9割の方が痛みの緩和を実感できたと論文でも発表されています。また、外科手術で痛みが改善されなかった患者さん220人に脊髄電気刺激療法を行った結果、84%の方が痛み緩和に至ったという報告もあります(日本メドトロニック㈱による観察試験結果)。
痛みが軽減される要因には、脳への痛みブロックの他に、脊髄電気刺激療法によって血行が改善される点もあげられます。高齢になると筋肉が硬く縮み、その中を通る毛細血管やリンパ管が思うように流れることができなくなることで、疲労物質がその場所に蓄積されます。蓄積した疲労物質を何とか代謝しようと頑張ることが、痛みを引き起こす原因にもなっているのです。こうした血行不良の場所に電気の刺激が届くと血行が改善され、痛み緩和につながります。
ドクター選びは慎重に
ただし、この治療を成功させるには、経験豊富な医師にかかることが条件です。電極を留置するために針を刺入する場所は、脊髄のすぐ外側ですし、狭くなった脊柱管の中へ針を進めていくわけですから、術者が未熟であると非常に危険です。針を刺す角度、硬膜外腔に入った感触、癒着などの抵抗を感じ取り、ほぼ自在に針を操る必要があります。また、痛みが起きている部位や強さによって、電極を留置する位置を微妙に調整することもポイントです。
脊髄電気刺激療法を解説した書籍を発行案内
ペインクリニックの医師が脊髄電気刺激療法の高い効果について語るようになってきたためか、私の病院には連日、治療についての問合せが続いています。そこで、今回、脊柱管狭窄症と脊髄電気刺激療法について書籍を執筆させていただきました。興味のある方は、ぜひご一読ください。脊髄電気刺激療法のメリット、デメリットも包み隠さず記してあります。
河西稔
医学博士、日本ペインクリニック学会名誉会員、藤田保健衛生大学名誉教授、医療法人宏徳会安藤病院名誉院長、日本麻酔科学会指導医、漢方専門医、日本体育協会公認スポーツドクター。名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋大学、藤田保健衛生大学、カリフォルニア大学、カロリンスカ・インスティテュートでICU、麻酔科、ペインクリニックについて、先進的な治療を研修、指導実践してきた。現在は、安藤病院にペインクリニックセンターにて痛み治療に尽力している。
「取材・文/鹿住真弓
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