脊柱管狭窄症と腰椎すべり症の痛みを改善する【ひざ抱え体操】【軽めの腹筋体操】を専門医が解説「ラジオ体操は避けるべき」
70代の10人に1人が患っているとされる脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)。名前の認知度は高いものの、「どんな仕組みで痛みやしびれが起こるのか」「どう対処すれば悪化を防げるのか」を正しく理解している人は少ない。そこで症状の見分け方から改善のためにやるべきこと・避けるべきことなど、専門医にわかりやすく解説してもらった。
教えてくれた人
黒澤尚さん/整形外科医
順天堂大学医学部整形外科学名誉教授。社会医療法人社団順江会江東病院理事長。専門は、腰・ひざなどの関節痛、スポーツ外傷、関節鏡手術、変形性ひざ関節症、運動療法など。1980年代後半から、ひざ痛が改善できる「黒澤式ひざ体操」を提唱。著書は『これで改善!女性の変形性ひざ関節症』(PHP研究所)、『ひざ痛-変形性膝関節症-自力でよくなる! ひざの名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。
痛みが出る部位や症状によって適切な処置がある
推定患者数580万人、70代の10人に1人が患っていると言われる脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)だが、認知度が高いわりに適切な処置は知られていない。
「椎間板が潰れて脊柱管側にはみ出すことや、椎骨をつなぐ黄色靭帯が分厚くなってトンネル内にせり出すことにより、脊柱管内部の神経が圧迫されて症状が出るのが脊柱管狭窄症です」(黒澤医師)
その際、どの神経が圧迫されるかで痛みが出る部位や症状が異なる。
「背骨の横の穴から出て下半身に繋がる神経の根元が圧迫される『神経根型』は、お尻から左右どちらかの足にかけてピリピリとした痛みを感じます。より深刻なのは脊柱管そのものが圧迫されて脊柱管内の神経の束(馬尾)が圧迫される『馬尾型』で、肛門と性器の間にある会陰部や両足など下半身の様々な部位に症状が出ます。両足裏にジンジンと痺れが出たり、足の裏に何かが張り付いたような感覚異常が生じます」(同前)
両タイプとも少し歩くと足の痛みや痺れで歩けなくなり、休むと楽になる「間欠性跛行」が生じるのが特徴だ。
「間欠性跛行は症状が進行して重症になると5分と歩けなくなる人もいます。そうなると、外出の機会が奪われて寝たきりのリスクもある」(同前)
馬尾型が重症になると排尿・排便障害が生じることがある。
「最初は会陰部に冷感を強く感じたり、逆に灼熱感や火照りを感じたりします。さらに悪化すると会陰部の感覚がなくなり、排尿や排便障害、男性機能障害が生じることもある。ただ馬尾型は痛みの感覚が出にくいので、お漏らしをしても脊柱管狭窄症によるものと気づかないケースがあります」(同前)
安静にしすぎるのは危険
脊柱管狭窄症を改善するには、「やるといいこと」と「やってはいけないこと」を見極める必要がある。黒澤医師は重度でなければ体を軽く動かす運動療法だけで症状は改善すると言う。
「痛みがあるとまったく体を動かさない人がいますが、安静にしすぎるのはむしろ危険。痛みのない範囲で無理なく体を動かすようにしましょう。初期の症状ならこれだけで治ることが多い」
ひざ抱え体操
運動療法として試したいのが「ひざ抱え体操」だ。やり方は、椅子に浅く座り足を伸ばした体勢で片ひざを胸に近づけ15秒キープ。左右交互に行ない、最後に両ひざを同時に抱えて15秒キープする。
「近年の国内外の研究でゆっくりしたリズミカルな運動には抗炎症作用があることが判明しており、ひざ抱え体操はゆっくり行なうといっそう効果的です。腰を丸める運動なので脊柱管が広がって楽になり、ゆっくり息を吐きながら行なうことで副交感神経が優位になって筋肉の緊張が解け、血行を改善する効果もあります」(同前)
運動は効果的だが、ラジオ体操は避けるべきだと黒澤医師。
「特に腰を反らす動作は脊柱管を圧迫して症状が出やすくなる。痛みがあるなら洗濯物を干す動作も避けたい」
脊柱管狭窄症の初期は運動療法が効果的だが、症状が進んだら薬物療法が選択肢となる。
「神経根型にはロキソニンなど非ステロイド消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用し、改善しなければ神経障害性疼痛薬のプレガバリンを短期で用います。馬尾型は痺れを改善するビタミンE・B12製剤やプレガバリンなどを組み合わせて、間欠性跛行の患者には血管拡張薬のリマプロストを用います」(同前)
脊柱管狭窄症の「前段階」である腰椎すべり症
脊柱管狭窄症の「前段階」になるケースが多いのが、腰椎が前後にずれて神経を圧迫する腰椎すべり症だ。
「骨がずれてグラグラと不安定になることで腰自体に痛みが生じます。これは立ち上がりや寝返りなど動作の開始時に強く出ることが多い。骨がずれると脊柱管が歪んで狭くなり、お尻から太ももにかけての痛みや痺れ、間欠性跛行といった脊柱管狭窄症と同じような症状が生じます」
腰椎すべり症の症状を改善するには、腹筋を鍛えることが重要になる。これにより腰椎のズレを調整する効果が期待できるのだという。
軽めの腹筋体操
「腹筋は腰を支えて腰椎を真っ直ぐにする役割があります。椅子に座り、座面を両手で持ち、足を5センチほど上げて5秒数える腹筋運動を10回やるといい。腹筋を鍛えて体幹を強くすることは腰椎すべり症の改善だけでなく、脊柱管狭窄症の再発を防ぐことにもつながります。腹筋がある程度あれば痛みが出なくなるケースも多い」(同前)
戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝医師は「立ち小便の姿勢」を勧める。
「立って排尿する際、骨盤を前方に軽く倒して安定させるため、前屈みになって腰にかかる負担が軽減されます。また、立ってすることでお尻の筋肉が微妙に収縮することも小さな筋トレになり、骨盤の安定性を高めて腰椎すべり症を予防します」
※週刊ポスト2026年1月16・23日号
