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健康

「一発で腰痛改善」を謳う施術サービスは要注意!「施術所任せ」の腰痛治療に隠れた5つの重大リスクを整形外科専門医が警鐘

 接骨院や整骨院、カイロプラクティック、整体など、腰痛の改善を謳う施術サービスが街中に溢れている。しかし、医学的根拠に乏しい説明や宣伝も散見され、最悪の場合病状が悪化する可能性もあるという。年間400件超の手術を行なう整形外科専門医が危ない「腰痛施術」について警鐘を鳴らす。

教えてくれた人

歌島大輔さん/整形外科専門医

「一発で痛みが消える」。劇的効果を謳う施術サービスには要注意

 街中には接骨院、整骨院、鍼灸院などの施術サービスが数多ある。なかにはカイロプラクティック、整体院など「国家資格なし」で開業できるものも多い。

 いずれも医療保険の適用外で腰痛などの“痛み”に対応することが多いが、なかには医学的根拠に乏しい説明や宣伝をするケースが見られるという。

「施術業界では『リンパを流して症状改善』『デトックス』などの言葉がよく使われますが、医学的根拠は皆無です。不明瞭な言葉で表わすのは、睡眠不足や運動不足、ストレスといった本質的な要因から目を逸らすことになり、結果として患者さんの利益を損なう恐れがあります」(歌島さん)

「ゴッドハンドによる施術」「一発で痛みが消える」といった劇的効果を謳う施術サービスが実際にある。「腰痛持ち」ならその言葉に惹かれてしまうかもしれないが、注意が必要だという。

「施術者の技術や受ける側の身体の状態によって成果が変わる以上、施術の劇的効果を誰にでも保証するような宣伝文句は、科学的実態と大きく乖離しています」

「施術のおかげで劇的によくなった」と実感するケースでも、それは「施術の力によるものではなく、生理学的な反応として説明できる」と年間400件超の手術を行ない、YouTubeやSNSなどで医療情報を発信する整形外科専門医・歌島大輔さんは言う。

 まず考えられるのが、施術による「筋肉のリラクゼーション」効果だ。

「筋肉が過度に緊張すると血流が悪くなり、発痛物質が溜まって筋肉が硬くなる“痛みの悪循環”に陥ります。マッサージなどで患部の血流を改善すると筋肉の緊張がほぐれますから、一時的に症状が緩和するのはごく当たり前のことです」

 施術が「脳」に作用し痛みが消える場合もある。

「『この先生はすごい』と強く信じ込むことで、エンドルフィンなどの鎮痛物質(いわゆる脳内麻薬)が放出され、痛みの信号がブロックされます。この『プラセボ効果』は気のせいではなく、生理学的な鎮痛反応です」

 強い痛みが去った後の「快感」を利用した脳の錯覚もあるという。

「“痛い施術”を受けた際、パッとその手が離れて痛みが取り除かれると、脳はその落差を『痛みが劇的に緩和した』と過剰に認識します。これを『オフセット鎮痛』と言い、いわゆる“いた気持ちいい”施術の直後に体が軽く感じられるのは、この脳のメカニズムによるものと言えるでしょう」

 さらに施術を受けた時が「自然治癒のタイミング」と重なっただけのケースも考えられるという。

  施術よりも「運動」「正しい姿勢」で改善するケースも

「一発で腰痛改善」を謳う施術サービスがある一方、「続けないと効果がない」と通院を促すところもある。こちらも医学的観点からは要注意だ。

「2017年に米国内科学会(ACP)が発表した臨床実践ガイドライン(※2)では、ぎっくり腰などの急性腰痛、痛みの継続が3か月未満の亜急性の腰痛は『自然軽快することが多いため、過剰な医療介入は避けるべき』とされています。

 慢性腰痛でも、受動的な施術より運動療法を中心とした自己管理が世界的に推奨されている。患者さんには通院を促すよりも、『運動』『正しい姿勢』『腰を守る工夫』など日常でできる自己管理を行なってもらい、腰への負担を減らすのが本来あるべきアプローチです」

 また、腰痛の原因を「骨盤・背骨のずれ」と説明する施術者もいるが、医学的見地からは誤りだという。

「人間の骨盤や背骨は強固な靭帯で固定されており、手技で簡単に矯正されたり、逆に簡単にずれたりするほど脆い構造ではありません。医学的に腰の骨がずれる状態があるとすれば、それは『腰椎すべり症』という疾患で、接骨院などの徒手整復で治るものではなく、外科的手術が必要です」

引用文献情報=(※2)Qaseem et al. 2017. Ann Intern Med

「関節ボキボキ」は危険

 関節をボキボキと鳴らす施術も散見されるが、歌島医師は「非常に危険」と警鐘を鳴らす。

「靭帯が骨のように硬くなる疾患(靭帯骨化症)がある場合、無理に腰を捻る施術を行なうと、脊髄麻痺などの重大な神経障害を引き起こすリスクがあります。レントゲンやCTで事前に確認せずに行なう施術は、大きな危険性を孕んでいます」

 このほかにも、医療機関を介さずに行なう腰への施術で起こりうる重大リスクとして、「がんの骨転移による脊髄圧迫の見逃し」「感染症の見逃し」などがある。

「街の施術所任せ」で起こり得る重大リスク5

【リスク1】重篤症状の見逃し

<理由>腰痛の原因が「がん(前立腺がんや肺がん等)」の骨転移による脊髄圧迫のケースがある。

【リスク2】感染症の悪化

<理由>初期症状で「ただの腰痛」と思っていても、「化膿性脊椎炎」など感染症に罹患している可能性がある。発見が遅れると敗血症から死に至ることがある。

【リスク3】圧迫骨折の悪化

<理由>骨粗鬆症などによる椎体骨折に気付かずマッサージなどの施術を受けると、骨の潰れが進行し姿勢が悪化、神経が圧迫され麻痺や歩行困難、寝たきりに繋がることがある。

【リスク4】肺塞栓症リスク(むくみ取りの施術)

<理由>むくみの原因が「深部静脈血栓」だった場合、強度のマッサージを施すことで血栓が飛び、肺塞栓症を起こして命に関わることがある。

【リスク5】神経障害(生涯残る麻痺)

<理由>腰の痛みが「ヘルニア」「脊柱管狭窄症」が進行しているサインかもしれない。医師の診断、適切な処置を受けず放置すれば、下半身麻痺や排尿障害が生じる恐れがある。

健康被害を減らすため問題に向き合う団体も

 施術所にまつわるこうした問題に対して、改善に動いている団体もある。そのひとつが職能団体である日本カイロプラクターズ協会だ。

 同会の高柳師門・会長が本誌取材に文書でこう回答した。

「日本ではカイロプラクターの国家資格がなく、資格がなくても開業が可能であるため、WHO(世界保健機関)指針に基づく教育や試験を経ていない施術者も存在しており、利用者の安全確保という観点から大きな課題となっています。利用者が健康被害を受けることのないよう、適切な教育および臨床能力の重要性を訴えています。

 また、国内においても適切な教育を受けられる環境を整備するために、大学におけるカイロプラクティックに関する専門学科の設置についても検討しています。さらに、傘下の日本カイロプラクティック科学学会では、学術大会を通じて施術の有用性や安全性に関する情報収集を行っております」

 同協会は現在、関係団体や政府と連携しているとし、「誇大広告抑制のための倫理規定の明確化」、「将来的な制度設計について意見交換」、「国会議員、厚生労働省、ならびに国民に対して正確な情報提供と啓発活動」を進めていくと回答した。

 歌島医師が言う。

「私は必ずしも施術サービスを否定するわけではなく、整形外科が絶対に正しいと言うつもりはありません。ただ、一部の業者による宣伝文句や根拠不明の説明が横行することで、身体的不利益を被る人が少なくないことを危惧しています。腰痛などの痛みの根本的な解決、つまり“治療”のためには、医療機関での診断を主軸に据えることを強くお勧めします」

「腰痛改善」の施術は正しい知識を持って利用したい。

※週刊ポスト2026年2月27日・3月6日号

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