「買い物や料理をしない」「1人の趣味に没頭する」 認知症になる人・ならない人を分ける「14のNG習慣」を医師が指摘
人生100年時代と言われて久しいが、正しく老後生活に備えなければ「長生き地獄」へまっしぐらとなる。誰も教えてくれなかった長寿リスクに向き合い、「長生き天国」に辿り着くために、賢者が認知症を防ぐ最善策を指南する。
教えてくれた人
眞鍋雄太さん/医師、神奈川歯科大学認知症・高齢者総合内科教授
65才以上の約3人に1人が認知機能に関わる症状を抱えている
長生きによってまず直面するのが「体の衰え」だ。これをどう防ぐかで、幸福度に大きな差がつく。なかでも生活の質に大きな影響を与えるのが「認知症」である。
「認知症を発症すると、その後の人生の余暇を楽しむのはもちろん、自分の自由意思で生きることさえ難しくなります。生きていても人生の張り合いを感じにくくなる。幸せな長寿生活を送るには、認知症にならないことが大切なのです」
そう話すのは神奈川歯科大学認知症・高齢者総合内科教授の眞鍋雄太医師。『もの忘れ外来』や『あなたも名医!かかりつけ医のための「攻める」認知症ガイド』などの著書を持ち、世界初の早期アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の治験にも携わる日本有数の認知症専門医である。
「そもそも認知症とは単一の病名ではありません。さまざまな病気によって脳の神経細胞の働きが徐々に変化し、認知機能(記憶・判断力など)が低下して社会生活に支障が生じている状態の総称です。
もの忘れがひどくなったというだけでは認知症とは言えません。挨拶を交わす程度のご近所さん、とくにファンではない芸能人の名前が思い出せないのは、たんなる加齢によるもの忘れの場合がほとんど。一方、家族や親友、長年ファンだった有名人の名前を忘れたり、お昼の献立ではなく昼食を食べたこと自体を忘れてしまうのは認知症だと推察されます」(眞鍋医師。以下「」内同じ)
厚生労働省の研究班が65才以上の高齢者を対象に行なった調査(2022年の推計値)によれば、認知症の人の割合は約12%、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)の人は約16%。合わせると3人に1人が認知機能に関わる症状がある。
だが、逆に言えば、半数以上の人が認知症にならずに天寿をまっとうしているということだ。
「遺伝的要因もありますが、認知症は日々の生活習慣で予防できることがわかってきています。いまからそうした習慣を始めることが非常に大切なのです」
次から認知症になる人とならない人を分けるNG習慣を具体的に見ていく。
生活習慣が認知症の発症や進行に深く影響している
認知症になりやすい生活習慣のひとつが睡眠だ。
「睡眠時間が1日5時間未満の人や8時間以上の人は認知症リスクが上昇するという研究のほか、7時間前後の人はリスクが最も低いといった報告があります。
理由として考えられるのは、睡眠中に脳内に蓄積するアミロイドβなどの老廃物です。睡眠が短すぎても長すぎてもアミロイドβが蓄積されやすくなると推察されています。また、睡眠不足は脳内で活性酸素が過剰に産生されやすくなり、これも認知症の一因になると見られています」
活性酸素は血管を老化(動脈硬化)させ、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなることがわかっている。
だが、そのリスクは食生活によって減らすことが可能だという。
「アジ、サバ、イワシなどの青魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)には、脳の神経細胞を活性酸素による酸化から保護する働きがあるとされています。加熱によって減少することが報告されているので、刺身で食べるほうが効果的です。
一方、霜降りの牛肉や豚肉など脂質の多いものを摂取しすぎると、血管の老化が進行し、脳の血管や神経細胞にダメージを与えるとされています」
抗酸化作用が強いビタミンCも認知症予防の味方になるという。
「食事からのビタミンC摂取量が多いとアルツハイマー病のリスクが低下するとの報告があります。ビタミンCを豊富に含んでいる緑黄色野菜を積極的に摂りましょう。ビタミンCは水に溶けやすく熱に弱いため、生かラップして電子レンジなどで蒸して食べるといいでしょう」
ケーキや焼き菓子など甘いおやつが好きな人は要注意。糖質の過剰摂取は食後の血糖値を乱高下させて血管を傷つけ、動脈硬化の進行を早めるリスクがあるからだ。
「間食にはビタミンEを多く含むアーモンドなどのナッツ類がおすすめ。ビタミンEにも強い抗酸化作用があり、認知症のリスクを低下させると言われています」
飲酒は量で明暗が分かれる。アルコールを分解する際に肝臓で活性酸素が産生されると同時に、脳の神経細胞を保護するビタミンB1も消費することから、多量の飲酒は認知症のリスクを高めるという研究がある。
「一方、少量の飲酒をする人は、まったくしない人と比べて認知症のリスクが低くなるという報告もあります。これは適量の飲酒によって血流がよくなり、脳に十分な酸素や栄養が行き渡ることで神経細胞が保護されるからだと考えられます」
厚労省による適度な飲酒量は純アルコールで1日平均約20g程度。ビールなら中瓶1本(500ml)、日本酒なら1合(180ml)に相当する。
「海外の研究によれば、適度な飲酒量は地域によって異なり、純アルコールで1日0~18.7g。日本人はアルコール分解能力が低い人が多いため、1日350mlの缶ビール1缶にとどめるほうがいい」
運動習慣も認知症リスクを左右する。なかでも気をつけたいのが「歩行距離」だ。
1日に400m(駅から徒歩5分相当)しか歩かない人は1日3200m歩く人に比べて認知症リスクが1.8倍になるとの研究がある。
「有酸素運動で血行がよくなるためだと考えられます。しかし、激しい有酸素運動は活性酸素を産生するので逆効果。“少し息が切れる”程度のウォーキングを習慣づけましょう」
1人の趣味より他者と会話で認知症を予防
趣味にも認知症予防に効果が期待できるものがある。
「詰将棋や詰碁といった1人で黙々とこなす趣味は、認知症の予防という観点ではあまりよろしくない。問題を自分1人で解いて終わりという自己完結型では脳に快適な刺激が伝わらないからです。そうして他人との交流が減ると、逆に認知症リスクが上がってしまう可能性もある。
いちばん脳にいいのは、第三者との会話や他人と共同して行なう作業。将棋や囲碁が趣味なら、詰将棋や詰碁ではなく、自治体の趣味サークルなどに参加し、会話をしながら楽しむほうが認知機能の改善につながります」
思い出せないことをすぐにインターネットで検索するのもNG。自分の力で思い出そうと努力することが脳への適度な負荷と快適な刺激になるという。
家庭では家族と買い物に行き、料理することを習慣づけたい。
「献立や予算を一緒に考え、工夫し、会話をすることが脳への刺激になります」
買い物は適度な運動にもなって一石二鳥だ。一方、旅行は1人旅でも効果があるという。
「目や耳、口から脳に送られる刺激が強いほど脳は活性化するとされています。旅先で知らないものを見聞きしたり、食事をするのも認知症予防につながります。逆に1人で家にこもりがちな人は、その期間が長ければ長いほど認知症のリスクが高まってしまう」
日頃の口癖にも注意が必要だ。
「特に『もう年だから』が口癖になっている人は危険。それが行動制限の引き金になり、認知症が進行するケースも少なくありません」
さらに生活習慣による持病も認知症リスクと深い関係があるという。
「糖尿病の患者はそうでない人に比べてアルツハイマー型認知症になるリスクが約4倍、高血圧の人では約2~4倍リスクがあることがわかっています。
また、歯周病がアルツハイマー型認知症のリスクを高めることを示唆する報告も少なくありません。これは歯周病菌が脳内にアミロイドβを蓄積しやすくするためだと考えられています」
歯の本数が少ない人ほど認知症リスクが高まるという報告もある。食後の歯磨きはもちろん、歯間ブラシやデンタルフロスも使ってきちんとした口腔ケアを心がけたい。
8時間睡眠、霜降り肉、詰将棋…。「認知症を招く14のNG生活習慣」
【1】睡眠時間が1日8時間以上
睡眠中はアルツハイマー病の原因とされる異常なタンパク質が産生されるが、睡眠不足だと蓄積されやすくなる。研究では睡眠が1日5時間未満や8時間以上だとリスクが上昇し、7時間前後だとリスクが低下する。
【2】歩く距離が1日400m以下
1日400mしか歩かない人は1日3.2km歩く人に比べて認知症のリスクが1.8倍になるとの報告がある。適度な有酸素運動は脳の血流もよくし、脳の神経細胞を保護・維持すると考えられている。
【3】緑黄色野菜の摂取量が少ない
研究では食事からのビタミンCの摂取量が多いとアルツハイマー病のリスクは低下。ブロッコリーなど緑黄色野菜に豊富なビタミンCは抗酸化作用が強いが、水に溶けやすく熱に弱いため調理法に注意。
【4】霜降り肉が好き
脂質を多く摂取するほど動脈硬化が進行し、脳の血管や神経細胞にダメージを与える。一方、青魚に豊富なDHAやEPAは脳の神経細胞を保護するとされているが、加熱により減少するので生食が効果的。
【5】甘いおやつが好き
過剰な糖質の摂取は食後の血糖値を乱高下させて血管を傷め、動脈硬化を早める。一方、アーモンドなどナッツ類に豊富なビタミンEは抗酸化作用が強く、認知症のリスクを低下させるとされている。
【6】晩酌が缶ビール1缶より多い
アルコールの多量摂取は認知症のリスクを高めるとされている。一方、缶ビール1缶以内の少量の飲酒はリスクを低下させるとの報告がある。適量の飲酒は血流をよくし、脳の神経細胞を保護・維持すると考えられている。
【7】自宅で1人趣味に没頭する
脳を活性化させるのに最もよいのは他人とのコミュニケーション。たとえば囲碁や将棋が趣味なら、詰碁や詰将棋など1人でやらず、自治体の趣味のサークルなどに参加し、会話しながらやると効果的。
【8】買い物や料理をしない
家族で一緒に考え、工夫し、会話しながらの共同作業で脳は活性化する。家族に買い物や料理を任せっきりの人は、一緒に献立を考え、食材を吟味し、五感を使って料理すれば予防効果が期待できる。
【9】糖尿病を罹患している
糖尿病の人はそうでない人に比べてアルツハイマー病のリスクが約4倍とされている。インスリンを分解する酵素は脳の異常なタンパク質も分解するが、血糖値が高いとインスリン分解だけに使われる。
【10】血圧が高め
高血圧の人はアルツハイマー病のリスクが2~4倍とされている。血圧が高いと、脳内の異常なタンパク質を血管に排出する力が低下。また、高血圧の状態が続くと、脳血管性認知症のリスクも高まる。
【11】歯間ブラシを使っていない
歯周病菌は脳内に異常なタンパク質を蓄積しやすくさせるとされている。歯磨きだけでなく、歯間ブラシなどを使って歯と歯の間の歯垢を除去するなどの口腔ケアが結果的に認知症のリスクを下げる。
【12】ネット検索をよく利用する
とくにファンではない芸能人や有名人などの名前を忘れた場合、安易にネットの検索に頼らず、思い出そうと努力をすることが、脳にある程度の心地よい負荷をかけることになり、脳を活性化させる。
【13】「年だから」が口癖になっている
「もう年だから」が口癖の人は、それが行動制限の引き金となって認知症が進行することが少なくない。一方、高齢者でも年齢を気にせずに行動する姿勢が結果的に認知症を予防することにつながる。
【14】専門医の受診をためらう
2023年末からアルツハイマー病による軽度認知障害や軽度認知症の患者に対し、新薬による進行を抑える治療が開始。家族から指摘されたら、放っておかず、専門医を受診して早期発見することが大切。
