布施博が明かす壮絶介護 妻・井上和子は認知症の父のために1日おきで泊まり込み「ぼくが一番やらなきゃいけないのは、妻に負担をかけないこと」家事を徹底サポート
数々のトレンディドラマで人気を博し、自身が主宰する劇団で長年活躍を続けてきた俳優の布施博さん(67歳)。実母の認知症介護を経験したことでも知られる布施さんだが、現在は妻で女優の井上和子さん(54歳)とともに、井上さんの実父の認知症介護をサポートしている。実の親の介護との違いや、夫婦で乗り越えている介護のエピソードを聞いた。【全3回の第2回】
母の死をきっかけに、父に幻視の症状…壮絶な日々に
――お父様の介護は、どのようなタイミングで始まったのでしょうか。
井上さん:父は元々電車の運転手をしていて、車やバイクがすごく好きでした。元気な頃は、主人とバイクの話で盛り上がったりしていたんです。そんな父の様子が変わり始めたのは、7、8年くらい前でしょうか。ちょっとした物忘れから始まり、母が「お昼は和ちゃんが来てからね」と言った5分後には、「昼飯どうしようか」と言い出すようになって。それに付き合うのが大変だと、母はよくこぼしていました。
急に悪化し始めたのは、2021年に母が他界してからです。父は、母が亡くなったことすらも覚えていないような状態になってしまいました。
――お父様は現在、どのような症状が出ているのでしょうか。
井上さん:今は私と姉の2人で、1日おきに実家に泊まり込んで介護をしています。父はレビー小体型認知症のような症状があって、幻覚が見えるようです。緑内障から全盲になってしまったのですが、急に「あそこに男の子がいる」と言い出して。私たちが話を合わせると、父が「飴でも食べるか」と言い出して、急にその男の子の口調になって「ありがとう」と飴をもらう演技をしたりするんです。
かと思えば、急に敬語になって「今日は私のためにお集まりいただき、ありがとうございます」と挨拶を始めたりして。多重人格のようになってしまうので、私たち家族もその世界観に合わせて演技をしないと収まらないんです。
車に乗せて病院へ連れて行くときに、アイドリングして待っていると「早く出発させろ」と怒り出すことも。家にいるのに「家に帰りたい」と言い張るときは、車に乗せて何時間か走ってから家に戻って「着いたよ」と言うこともあります。
「腫れものに触る」義父への接し方。実母の介護とは違う難しさ
――布施さんご自身も、以前、実のお母様の認知症介護を経験されていますが、実の親と義理の親の介護で違いは感じますか?
布施さん:うちのお袋のときとは、大変さの種類が違いますね。お袋は2018年に他界しましたが、最後まで下の世話はあんまりしなかったんですよ。風呂やトイレは自分で行けたので。
だけどお義父さんの場合は、もう大変ですね。オムツをしているのに、寝ている最中でも自分で全部取ってしまうんです。どこでもトイレだと思ってしまう。この間も和子が嘆いていましたが、排泄物を踏んづけてしまったりして、それを片付けるだけじゃなくて、臭いも取らなきゃいけない。1日中、寝る間もなくその対応に追われるわけです。
――義理の親の介護となると、精神的な負担や接し方にも違いはありますか?
布施さん:それは、あって当然ですよ。実の親子じゃないから、やっぱり気を遣う部分はものすごくあります。正直に言うと、最初は接し方が分からなくて、腫れものに触るような感じでした。だから直接的な介助というよりは、彼女の実家にスロープや手すりをつけたり、必要なものを買いに行ったり、そんな手伝いの方が多いですね。
介護はチームプレー。疲弊する妻を支える「何もさせない」家事サポート
――お姉様と1日おきに泊まり込みで介護をされている井上さんにとって、布施さんのサポートはどのように助けになっていますか?
井上さん:私が泊まり込みの日には、主人が家事を全部してくれるので、本当に助かっています。
布施さん:和子や義姉がどうしても手が離せないときは、お義父さんの様子を見たり、食事の世話をしたりはします。でも、ぼくが一番やらなきゃいけないと思っているのは、和子に負担をかけないこと。例えば、彼女が夜中の2時や3時に介護から帰ってきた時に、「洗濯しなきゃ」「ご飯作らなきゃ」と思わせるのは酷じゃないですか。
井上さん:私が無理して起きていると、逆に怒られるんですよ。「早く寝ろ!」って(笑い)。
布施さん:そっちの方が心配ですよ。介護を終えて深夜2時頃に帰ってきて、寝るのが3~4時、そして7時に起きる生活です。3、4時間しか寝ていないのに、ぼくのご飯を作るために起きてきたりすると、申し訳ないと思うわけです。彼女が疲れているときは「ああして、こうして」と言ってくれないと、逆に困るんです。彼女の存在そのものが、ぼくにとっての大きな支えになっていますから。
夫婦であれ、親族であれ、親の介護をする時には、相手に対する気遣いがないと絶対に成り立ちません。ああだこうだと不満ばかり言っていたら破綻してしまいます。チームプレーでやっていかないと、介護は難しいですよ。
――最後に、これから介護に直面する方や、現在介護をしている方へ向けて、メッセージをお願いします。
布施さん:今、ものすごい数の方々が介護をしていますが、多分、すべての家庭で状況がまったく違うと思うんです。だから「こうすればいい」という正解はどこにもない。その人、その家庭によって、病状も、関係性も全部違う。そのときどきの判断で適切にやっていくしかないんです。だからこそ、正解を求めすぎず、振り回されずに、家族や周囲とチームプレーで乗り越えていくことが大切なんだとぼくは思っています。
◆俳優・布施博
ふせ・ひろし/1958年7月10日、東京都生まれ。1984年、ドラマ『昨日、悲別で』で俳優デビュー。以降『君が嘘をついた』『ずっとあなたが好きだった』など、トレンディドラマを中心に数多くの作品に出演して人気を博す。1994年には自ら劇団「東京ロックンパラダイス」をプロデュースし、後進の育成にも尽力。実母の介護を経験し、現在は義父の介護をする妻を支えている。
◆女優・井上和子
いのうえ・かずこ/1972年4月10日、東京都生まれ。劇団あすなろ、いずみたくミュージカルアカデミーを経て、布施博主宰の劇団「東京ロックンパラダイス」に所属し、数多くの脚本も手掛けていた。2012年4月に布施と結婚。布施の母を二人三脚で介護し、最期を見届けた。現在は要介護5である自身の父の介護を行っている。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香
