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暮らし

93歳の父に声を荒げて猛省・・・介護情報を発信して10年、でも我がこととなると教科書通りにいかずにため息「感情と理性の狭間で右往左往する現実」

 93歳で一人暮らしをする父から「車に乗りながらだと怖くてペットボトルのお茶が飲めない」と、ドライブ中の思いがけない一言をきっかけに「嚥下機能の低下」に気づかされて以降、父の体調や食事の様子など日々の変化により気をつけるようになりました。今回は、父のためにと良かれと思ってする助言や用意に父が耳を貸さずにイライラした話です。介護の情報サイトに関わって10年。“介護を明るく、もっと前向きに”と発信してきているのに、いざ実の親の前では、感情をコントロールできずに声を荒げてしまい、感情と理性の狭間で右往左往する現状を告白します。

→前の回:「動く車内では怖くて飲めない」93歳、食欲旺盛で歯も丈夫な父の“嚥下機能の低下” 見落としてしまった盲点と娘の後悔」を読む

執筆:関和子

介護ポストセブン前編集長。現在はシニアエディターとして、介護が必要な人へ役立つ情報や、介護要らずに暮らす健康の知恵などを発信するために、介護当事者や専門家に取材し「介護をもっと明るく、前向きに捉えてほしい」との思いで記事作りに取り組む。要介護3の母(他界)の介護を経て、いまは要介護1の父を通いながらサポート中。高齢者住まいアドバイザー(内閣府認可)の資格を取得。

「なんで話を聞いてくれないの!」よかれと思った提案が怒鳴り声に

 父の嚥下機能の衰えを目の当たりにしてからは、少しでもむせにくい物は何かと調べ、飲み込みやすいゼリー飲料やとろみ剤、栄養不足を補う食品などを買い込んでは父の家に届けるようになりました。

 少し前のこと、新たに購入した食品を抱え、父の元へ行ったときの話です。これまでに私が届けた食品にはほとんど手がつけられていない様子に驚きました。「なんで食べてないの?」と聞く私に「計画的に利用しようと思っている」と父。

「よくむせる」「飲み込みに不安がある」と訴えてきたのは父だったのにもかかわらず、いざ、その対策案を私が提示すると「気をつけているから大丈夫」と言い張るのです。

 嚥下機能のことよりも、「声がかすれて出しづらい」「こんな声になってしまって恥ずかしい」「人が(自分の声を聞いて)変な顔をする」と声や発語への不安と愚痴ばかりを口にします。

 この当時、週に1回、言語聴覚士(ST)さんに訪問リハビリに来てもらっていましたが、父はそのSTさん(若い男性です)の指導を信頼しておらず、「まったく効果を感じない」「勧められたトレーニングをしたら首を痛めた」「自分の話を聞く気がない」などと文句ばかり。もちろんSTさんに問題があるわけではなく、父の思い込みや相性があるのだと思います。

 声がれは、昨年秋頃から症状が出てきて、耳鼻咽喉科を受診したところ、喉の筋肉がやせてきたのが原因との診断を受けていました。

 たしかに、その後も声がれが改善する気配がなかったので、喉を鍛えるのにいいという「吹き戻し」(ピロピロ笛とも呼ばれていますね)や嚥下にまつわるムック本、雑誌で紹介された運動の切り抜きなど、食べ物以外にも対策ツールも取りそろえては、父にやってみてと伝えてきました。これまで、仕事を通して培った情報を我が親のために役立てようと私も必死でした。

 しかし、父は「自分の声を治してくれる人に出会えていない」「自分にちゃんと向き合ってもらえていない」と、衰えていく自分の声や喉に不安を募らせてはいるものの、私が用意した対策ツールや食品が命を守るために大切だと理解してはくれません。

 父は、私が提案をするたびに、自分の努力不足を責められているように感じるのだと思います。もちろん、私は父の日頃の行動に問題があって、声がれや嚥下機能の低下を起こしているとは思っていません。年齢なりの変化が起こったことが理由だと思っていましたので、父を追い詰めているつもりは毛頭ないのです。

 嚥下機能が衰えた父に対して、私が何より恐れていたのは「誤嚥性肺炎」でした。肺炎を頻繁に起こすようになれば、やがて口からの摂取が難しくなるかもしれません。飲み込みやすさに配慮された飲料や市販の食品を活用し、また、サルコペニア(筋力低下)を防ぐためにも、たんぱく質が強化された高カロリーのゼリーやドリンクをおやつ代わりにして、栄養を摂ってほしい――。

「そのために、いま、いろいろと購入しては届けているんだよ」と訴える私に対し、父は「食事はちゃんと摂れている」「一人でも、(作り置きした)おかずを計画的に食べて、きちんとやっている」と、いかに自分が自立して暮らしているかの自慢話をするばかり。私が弱ってきた父を心配している様子にプライドが傷つけられたのか、私の言葉には、全く耳を貸そうとしません。

 母の死後、一人暮らしになった父は、料理もできるようになりましたし、身の回りの整理整頓など、頑張ってはいます。とはいえ、実際は要介護1の認定を受けているので、訪問介護(保険外も併用)のヘルパーさんに週2回入ってもらい、私と妹が週に何度も顔を出して料理を作り置きしています。通院も一人ではできず妹か私の付き添いが必要。リハビリメインのデイサービスに通い、訪問リハビリも受けるなどプロの方々の手もたくさん借りて生活しています。

 そういうことは棚の上げて、自分がいかにしっかりやっているかばかりを主張し、嚥下機能対策の私の提案を頑なに拒絶する父の様子に、私のイライラは限界に達してしまいました。

 もともと耳が遠い父との会話は大声になるのですが、この日はもう、感情が抑えきれずに怒鳴り声になっていました。

「なんで私の話を聞いてくれないの! お父さんがこの歳まで一人で暮らしているのが立派なのはわかっている。でも、立ち行かなくなってきていることを、私や妹がどうしようかとどれだけ思案して提案しているか、もっとわかってよ!」

「往復3時間かけて通っているのは、お父さんを心配しているからなんだからね!」

 などと恩着せがましい言葉もついつい口から飛び出しました。

 半分泣きそうになる私の姿も、父にはただ「娘が機嫌を悪くして、怒鳴っている」としか映っていないようでした。「自分は、頑張っている」ただその一点張りの父とは平行線のまま。その後、怒りを引きずったまま夕食の支度をしました。

 私の作ったとろみ付きの食事を「今日はあまりむせない」と言いながら食べる父に、「私が嚥下対策を工夫したからでしょ」と、また冷たい言葉を被せてしまったのです。

 父の家に滞在した数時間、私はほぼ、無言。洗濯や家の片付け、作り置き用の調理などを不機嫌な態度むき出しでて行いました。

 普段でも、週末にまとまった時間を取って父の家で過ごすのは結構大変です。あれもしなきゃ、これもしなきゃとバタバタなのですが、いつも父はそんな私相手にお構いなしに、趣味の絵のサークルの話や母の思い出話などが止まらないのですが、この日は声が出しづらいこともあるのか、しょんぼり、じっと新聞を読んでばかりでした。

 そして、私が帰る際、いつもなら必ず玄関まで見送りに来る父が、その日は出てきませんでした。

 8階に住居があるのですが、母が存命だったころは、いつも1階まで一緒に降りてきて、母の前では話せない愚痴などをこぼしながら見送ってくれた父。その後、見送る場所はエレベーターの前まで、玄関の外側、そして最近は玄関口と変化してきました。歩くのが大変になってきた父の弱り具合を、「見送る距離」が象徴しているなと思っていました。それが、今日はその玄関までも来なかった父。

 車を運転して帰る道すがら、93歳の老いた親に冷たい態度で厳しい言葉を発した自分に、激しい罪悪感が押し寄せました。まるで「弱いものいじめ」をしてしまった気持ちでした。

 4年前、母が突然転倒・骨折して入院、それから二度と家に戻れぬまま亡くなったときの記憶がよみがえります。父と別れるときは、「これが最後になるかもしれないから、いつも笑顔で」と心に決めていたはずなのに。老いて弱ってきた父を目の当たりにしながらも、結局、自分の気持ちをコントロールできず、イライラして感情をぶつけてしまう――。

 たぶん、家族以外の人に対してだったら、もっと優しい口調で説明したり勧めたりできたと思います。実の親となると、ついつい厳しい態度になってしまうのです。父の頑張りや不安を認めて、もっとこう言えばよかったなどと後悔し、自己嫌悪に包まれたまま、1時間半の運転をして帰路につくことになりました。

自分の機嫌は自分で取るしかない

 介護中のみならず、家族と関わる中では、わかっていても感情がコントロールできず自己嫌悪に陥るということは誰でもあると思います。

 そんなとき、どんな気分転換をしますか? 私は父の家には往復3時間かけて運転して通っていますが、現在、この3時間を楽しみの時間に変えてくれているのが「オーディオブック」の存在なんです。

 もともと大の読書好きである私にとって、一人きりで運転する往復3時間の車内は、スマホから繋いだ車のスピーカーから流れてくる小説の世界に没頭できる「至福の時間」に変わります(通い慣れたいつものルートなので、“聴きながら”運転ができています。安全第一です、念のため)。

 この日もオーディオブックを流し、小説のストーリーに耳を傾けると、そこには見知らぬ誰かの人生ストーリーがあり、ときに困難に立ち向かう主人公の姿に胸を打たれたり、意地悪な登場人物に腹を立てたり……。こういう現実とはまったく違うことに目を向けることで気分が切り替わり、気持ちが落ち着きます。この日も家に着くころには、平常心に戻ることができていました。

 どんなにイライラしても、落ち込んでも、結局自分の気持ちは自分しか立て直すことができないということは、長年の生活の中で学んできました。「おいしいスイーツを食べる」「“推し”を見つけて応援する」など、自分だけの楽しみ時間をいかに作り出せるかなんですよね。

父が歩み寄ってくれた「気持ちが通じたかも」

 そして、あの怒りの訪問から3日後のこと。再び父の家を訪れた私は、我が目を疑いました。あれほど拒絶され、手をつけていなかったゼリー飲料や栄養補助食品が、ずいぶんと減っていたのです。

「お前の言う通りに食べてみたら、おいしかったし、すごく食べやすかったよ」

 父は少し照れくさそうに、そう話してくれました。栄養がしっかり行きわたったせいか、その日の父はいつもより元気でしっかりしているように見えました。

 あの日、私の大人げない怒鳴り声の裏にあった「心配する気持ち」は、時間差でしたが父の心に届いていたようです。父はその場ではプライドが邪魔をして反発してしまったのでしょうが、娘が帰った後、父なりに考えて歩み寄ってくれたのかもしれません。

 介護の情報サイトに関わる仕事を10年も続け、日頃から「介護は一人で抱えないで」「便利なグッズやプロの力に頼りましょう」と世間に発信し続けている私ですが、いざ我がこと、我が親のこととなると、教科書通りにはいかないと痛切に実感しました。

 介護を頑張っている方々にしたら、私の悩みなどちっぽけなものだと思います。完璧な介護なんて、どこにもありません。イライラして、怒鳴って、激しく後悔して、それでも数日後に、また歩み寄れた。こういう繰り返しでやっていくしかないと自分に言い聞かせたエピソードです。

 しかし、父の体調の変化は、思いがけぬ展開を迎えることになるのです。それはまた改めて。

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