「成年後見」と「家族信託」の違い 図表でわかりやすく解説
いつまでも親に元気でいてほしい―子供がそう願うのは自然なことだが、現実は決して甘くない。「認知症700万人時代」が到来するといわれるなか、老親が自ら判断する能力を失ってしまったときへの”備え”は必須だ。
何もしていない家族は「お金の大問題」に直面することになる。預貯金や不動産、株などの資産が動かせなくなることの影響は甚大だ。問題に対応するための〝新制度〟も設けられるようになったが、使い方、選び方を間違えると、かえって困難に陥ることもある。
「あなたの家族」に最適な備えは何か。
→400万回以上読まれる介護ブロガーが教える 本当に役立つ「親が倒れたら」
認知症になると「本人」も預金をおろせない
親が亡くなったとき、銀行口座が凍結されることはよく知られているが、親が「認知症」になったときも、銀行預金から証券取引、年金が振り込まれる口座まで凍結され、介護にかかる費用や医療費、生活費さえ引き出せなくなることはほとんど知られていない。
都内に住む62歳の会社員A氏は一人暮らしの母親の認知症が進み、介護施設(グループホーム)に入れることにした。月に10万円ほどかかる費用は母親が受給している亡父の遺族年金でやりくりできる計算だった。
入所させるにあたって母親の預金をおろしておこうと実家で通帳や印鑑、キャッシュカードを一揃い見つけたものの、暗証番号がわからない。
そこで、A氏は銀行の窓口に行き、母親の通帳と印鑑で払い戻し手続きをしたところ、「本人が一緒に来るか、委任状を持ってきてください」といわれた。しかし、母親は認知症が進んで委任状が書ける状態ではない。事情を話したところ、
「認知症だとお母さんの口座から預金をおろせない」
と逆に口座を凍結されてしまった。
金融機関は個人財産の保護のため、口座の名義人が認知症と判断されると、家族が勝手に引き出せないようにするのだ。本人が窓口にきても断わられるケースもある。
A氏は途方に暮れた。母親の預金を引き出せないため、介護施設に払う毎月の居住費、食費から実家の維持費まで自分の家計から負担しなければならなくなったからだ。自分ももうすぐ年金生活に入ることを考えると、とても立て替え続けられるとは思えない。
『親が認知症になる前に知っておきたいお金の話』の著書がある家族信託コンサルタントの横手彰太氏が語る。
「78歳の認知症患者を10年間介護するのに一般的には3600万円の費用がかかるといわれています。しかし、親が認知症になると家族であっても口座からの引き出しや親名義の不動産の売買、保険の解約返戻金の受け取りなどができなくなる。親の財産は塩漬けになり、介護費用で子供の生活が圧迫されてしまうわけです」
高齢の親を持つ世代にはいつ降りかかってもおかしくない事態だ。
→認知症が疑われ「銀行口座が凍結」すると本人も子供も引き出せない
口座凍結対象の「認知症患者の金融資産」は143兆円
厚労省の推計では認知症患者は25年に700万人を超え、65歳以上の「5人に1人」まで増える。A氏の母親のように口座凍結対象の「認知症患者の金融資産」の総額はすでに143兆円(17年末)に達したと試算されている。
親には資産があるのに、子供は親の介護にその資産を使えず、生活苦に直面する―そんな本末転倒な悲劇を避けるために知っておきたいのが「成年後見」と「家族信託」という2つの制度だ。いずれも親の判断力がしっかりしているうちに、将来、認知症になったときの資産管理を信頼する家族などに委ねると決めておくことができる制度だが、一長一短がある。
大まかにいえば、「成年後見」制度は裁判所から認められた後見人(家族など)が親の資産を管理する制度で、「財産の保全」を目的としているため、使途を厳しく管理され、制約が大きい。
一方、「家族信託」は親が自分の財産の一部を家族に信託し、運用・管理してもらうもの。信託契約の内容次第で家族(受託者)は運用に広い裁量権を持つが、扱える資産に制限がある。
そのどちらを選ぶべきかは家族構成、資産の内容、資産を何に使うかなどのシチュエーションによって違ってくる。
違いを以下の図で見てみよう。