認知症が疑われ「銀行口座が凍結」すると本人も子供も引き出せない
内閣府の調査によると、認知症の人は全国に462万人、’25年には700万人にまで増加し、80才以上の高齢者なら2人に1人が認知症になるという。さらに、2030年には認知症患者が保有する金融資産は215兆円にも達する見込みだという。
親が、夫が、もしや自分も…「その時」に備えて今すぐ準備すべきお金のことはいろいろがあるが、予め知っておかないと、とんでもない事態を招くことがある。
認知症と診断された場合、通帳と印鑑があっても預金が引き出せないことも
軽度の認知症の母をもつ栃木県在住の主婦、大田裕子さん(仮名・55才)は、銀行でこんな体験をした。
「介護付き老人ホームを契約した母は、その費用を引き出しに銀行に行きました。しかし、肝心の口座の暗証番号を忘れてしまい、引き出せなかった。母の家族であることが証明できれば私でも代わりに引き出せるだろうと思い、通帳と印鑑のほかに、免許証とパスポートも持って手続きに行きました。
ところが、銀行窓口の担当者は『本人しか引き出せない』の一点張り。老人ホームの契約に間に合わず、困ってしまいました」
大田さんの母親は後日、メモ帳に記していた暗証番号を見つけて、再び銀行を訪れて無事に引き出すことができた。
しかし、レアケースではあるが、「本人でも引き出せない」ことがあるという。
相続に詳しい税理士の岡野雄志さんが話す。
「本人が認知症と診断されたり、親の判断能力が定まらなくなった場合、銀行は基本的には、通帳と印鑑があっても預金の引き出しには応じません。
認知症の高齢者を狙った犯罪を防止するための措置で、医師による診断や要介護認定に関係なく、本人の意思・判断能力が乏しいと判断した場合は、口座を凍結することもあります」
銀行窓口でうっかり「母の物忘れがひどくて、認知症かも」などと口にしてしまったら、即座に口座が凍結されてしまう可能性もあるということだ。
凍結を解除するには、家庭裁判所が選んだ、財産などを管理する「成年後見人」を付ければお金を引き出せる。しかし、おろしたお金は、本人が使ったことを説明できるようレシートなどを残す必要があり何かと面倒だ。また、毎月数万円の報酬を支払わなければならないケースもある。
預金口座の「代理カード」を発行しておく
そんな手間もお金も払えないという人は、預金口座の「代理人カード」を発行しておくといい。代理人カードは、口座の名義人と一緒に銀行の窓口に行き、申請すれば親の口座の預金を引き出せるようになる。
岡野さんが話す。 「代理人カードは、親の生活費などを引き出す分には有効です。生活費は贈与税が非課税なので、代理人カードで引き出しても問題ありません。
ただ代理人カードはあくまで『代理』なので、引き出したお金を口座の名義人以外が使うのはよくない。あまりに高額なお金を何度も引き出したり、他行や別口座へ送金していると、相続対策の一環と見なされて税務調査が入る可能性もあります」
その他、認知症の兆候が見られたら、本人でないと解約できないため、定期預金口座をすぐに解約しておくことも頭に入れておこう。
→親が認知症になる前にしておきたい!「家族間信託」6つのポイント
※女性セブン2019年1月31日号