400万回以上読まれる介護ブロガーが教える 本当に役立つ「親が倒れたら」
34歳で初めての介護を経験、亡き祖母と父を介護し、現在は岩手・盛岡に住む母を遠距離介護中の介護作家でブロガーの工藤広伸さん。実体験を綴ったリアルな介護ブログ(https://40kaigo.net/)は400万回以上読まれる人気で、当サイトの連載『息子の遠距離介護サバイバル術」も好評だ。
そんな工藤さんがこのほど、新著『ムリなくできる親の介護 使える制度は使う、頼れる人に頼る、便利なツールは試す!』(日本実業出版社)を上梓。同書でも紹介している、親が倒れたときに頼れる場所、そして親が倒れる前に準備しておくべきお金の事情について教えてもらった。
「介護カフェ」選び方のポイントとは
大王製紙が調査した「『介護と年齢』に関する意識・実態調査」(2017年)によると、実際に在宅介護をはじめた年齢は「50.9歳」。61%の人が、介護がはじまると想定していた年齢よりも早かったと答えている。
工藤さんは、その平均よりもはるかに早く、34歳のときに父が脳梗塞で倒れ初めての介護に直面し会社を退職。離婚も考え、全てを失うような気持ちになったというが、「頼るべき場所、人、制度をわかっている今なら、冷静に対処できます」と振り返る。
親が突然倒れたら、最初に頼るべきは、『地域包括支援センター』だ。包括では、保健師、主任ケアマネージャー、社会福祉士などがそれぞれの専門性を生かして業務にあたっている。まずは包括に相談するのが基本だが、その前に利用を勧めるのが『介護カフェ』だという。
「介護カフェは、介護経験者から直に話を聞くことができるため効率がいいのです。自分で介護について学ぶよりも、介護経験者から直接聞いたほうが早いですよね。おすすめの病院や介護施設、マネージャーや、役所で得られない“マイナス面”に関する情報、失敗談など活きた情報も得られます。介護カフェは、介護している人が悩みを相談しにいく場所でありながら、息抜きもでき、孤独になりやすい介護環境から抜け出すこともできる場なのです」(工藤さん、以下「」同)
介護カフェを探すには、近くの包括や社会福祉協議会で情報を入手したり、インターネットやSNSを積極的に活用することを工藤さんは勧める。また、上手に介護カフェを選ぶには、コツがあるとも。
「まず、参加者の世代や性別を調べ、自分との相性を探ります。次に大事なのは、カフェを仕切る『ファシリテーター』の能力を見極めることです。参加者全てに平等に発言する機会を与えてくれる人がいるカフェを選ぶといいですね。介護カフェには、講師を呼んで話を聞く『教室形式』、介護者がそれぞれに体験を語り合う『座談会形式』、テーマや形式もなくただ介護仲間が集まる『フリー形式』と主に3つあるので、自分が参加しやすい場を選ぶといいですね。介護カフェは、包括や役所の窓口よりも強力な仲間を見つけられる可能性が高いので、ぜひ活用してください」
親が倒れる前に、財産を把握しておく
家計経済研究所が2016年に公表した調査結果によると、在宅介護でかかる1か月平均の費用は5万円。また、2017年に生命保険文化センターが発表した調査によると、介護期間の平均は4年11か月。このふたつをかけあわせ、在宅介護にかかる総費用は295万円と推算できる。
お金がある場合とない場合では、介護の中身も自分も人生も大きく変わってくる。いざという時に慌てぬよう、親の財産がどれくらいあるのかをオープンにしてもらうことはとても大切だ。
「親の財産を知りたくても聞くことができない場合、郵便物でどの銀行や証券会社、保険会社と取引があるのか把握はできます。最悪、問い合わせ先の電話番号をもとに確認していけばなんとかなります。ただ、急な入院や施設入所など、突然お金が必要になるのが介護。バタバタした時期に、精神的ショックを抱えながらダイレクトメールを探したり保険会社に問い合わせる作業は相当疲れますから、家族を終活セミナーに参加させたりして、事前に自分からアプローチをして、家族の財産を早めに把握しておきましょう」
気をつけるべきは、家族が認知症になり、いざ認知症の人の財産を使って介護をしようと思ってもできない現実に、多くの人が直面することだ。あわてて銀行口座からお金を引き出そうとしても、口座が凍結してしまい、家庭裁判所で「成年後見制度」の申し立てを行う必要がある。
「この成年後見制度の手続きは、とても煩雑で時間もかかり、弁護士や司法書士にお願いするとなると20万円もの費用がかかる場合もあります。最近は、家族が後見人に選任されることが減り、家庭裁判所によって選任された弁護士や司法書士、行政書士などに毎月2~3万円の報酬を払うことになってしまいます」
この成年後見制度のデメリットを解消すべく、最近注目を集めているのが『家族信託』だという。
「財産の持ち主は親のままに、受託者として家族を任命し、財産を管理することができます。成年後見制度のように裁判所の管理下に置かれることもありませんし、専門職への多額の支払いも発生しません。もし親に認知症の予兆を感じたら、家族の判断能力があるうちに、この信託契約を結ぶことがポイントです」
本書にはそのほか、認知症介護で気をつけること、プロに任せてラクになるサービス、固定電話を使った見守りや「ドライブレコーダー」を使った高齢ドライバーの運転見守りといった活用できるツールの数々、仕事をしながら離れていても介護をする方法、幸せな看取り方など、介護に役立つ知恵が盛りだくさん。突然の介護に直面した人も、介護はまだの人にも役立つ一冊だ。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)