「子供と同居で疲弊」「なじめぬ環境で認知症に」老後の移住失敗実例に学ぶ“終の棲家”の選び方
日本人の平均寿命が80才を超え、「人生100年時代」に突入して久しい。長い老後を楽しく過ごすため、夢の地方移住や子供との同居など「終の棲家」について考える人も多いだろう。しかし、その選び方を間違えると地獄の日々を送ることになるかもしれない。失敗実例から考える老後の暮らし方を、専門家にアドバイスいただいた。
新しい環境になじめないストレスで認知症
都内在住の宮田早苗さん(58才・仮名)が眉間にしわを寄せて、胸の内を明かす。
「父の死後、長いこと青森でひとり暮らしをしていた76才の母を、私の東京のマンションに呼び寄せました。実家はエアコンもないし、お風呂もバランス釜。どこへ行くにも車が必要で雪かきの負担も大きい。軽トラで接触事故を起こしたのをきっかけに、きょうだいで話し合って実家を売却しました。東京に来た当初、母はあちこち買い物に行ったり、趣味のスーパー銭湯に行ったり都会を満喫。“東京は便利ね。お友達もできるかしら”とウキウキしていたんです」
ところが、順風満帆な生活はあっけなく2か月で終わった――。
「銭湯でよく見かける人に母から話しかけたものの“なまりがきつくて何を言っているかわからない”と言われて、友達ができない。また、些細なことですが、青森にいた頃は一緒に捨てていたゴミを、東京では分別しないといけない。そうしたちょっとした生活の変化が高齢者にはストレスだったようで、ふさぎこんでしまいました。そのうち出前を二重に頼んだり、食事の買い出しに行ったのに和菓子だけ買ってくるといったことが重なり、病院を受診したところ認知症と診断されました」(宮田さん)
結局、宮田さんの母親は青森のグループホームに入居したが、現在は娘のことも認識できない状態だという。
2025年には、いわゆる団塊の世代が75才以上の後期高齢者となり、日本は本格的な超高齢社会を迎える。元気なうちに「終の棲家」を考えることはいいことだ。しかし、選択を間違えれば、宮田さんの母親のように、環境になじめない可能性がある。
熟考を重ねた末に選択した住まいでも、トラブルに見舞われたり、満足できない場合も少なくない。失敗例からじっくり学んでいきたい。
息子の“裏切り”で孤独な都会暮らしに
静岡県在住の久保香さん(71才・仮名)は夫の死後、自宅の家庭菜園で野菜を育てるなど悠々自適な生活を送っていた。
しかし、40代の息子から「病気になったら大変だよ」「家を遺されても大変なので早めに処分して」と何度も言われるようになり、戸建てを処分して、東京の息子宅近くのアパートに引っ越した。
「“近いから孫を連れて遊びに行ける”“1週間に1度は行くから”と宣言していた息子夫婦も、数か月もするとぱったり来なくなった。電話しても“忙しいから”と切られ、久々に来たと思っても、数時間で帰ってしまう。向こうからしたら、そんなにしょっちゅう会うこともないと思うかもしれませんが、私は慣れない土地ですし、ご近所づきあいもないので寂しい。どこかへ出かけようと思っても、都会の道路を運転するのは怖いし、電車の乗り換えもよくわからない。結局、家に引きこもっています。息子は実家を売ったお金が欲しかっただけだと気づきましたが、後の祭りです」
このままでは会話する機会が減り、認知症リスクも上がりそうだと話す。