「子供と同居で疲弊」「なじめぬ環境で認知症に」老後の移住失敗実例に学ぶ“終の棲家”の選び方
日本財団が行った「人生の最期の迎え方に関する全国調査」(2021年)によると、「最期を迎えたい」場所の1位となったのが「自宅」(58.8%)。逆に「避けたい」場所の1位が「子の家」42.1%、次いで「介護施設」34.4%という結果だった。
それだけ自宅への思いを強く持つ人が多いことになる。はたから見れば恵まれていると思う老後の自宅生活。だが、思いもよらない不安に直面することもある。埼玉県から温泉で知られる関東の別荘地に移住した吉岡真紀さん(60才・仮名)は、当初、近隣住民とバーベキューをしたり、レストラン巡りをするなど楽しく過ごしていた。ところが…。
「避暑やスキーで盛り上がる夏と冬以外はご近所中が無人になります。そのため、別荘を狙った空き巣被害が多く、窓ガラスが割れる音を聞いたこともあります。近くに心霊スポットがあるのか、夜中に柄の悪い若者がウロウロすることも多く、近所で放火騒ぎもありました。次はわが家が狙われるのではないかと思うと、不安でしょうがないんです」
そのうえ新型コロナの影響で近所のスーパーが閉店してしまい、30kmほど離れた市街地まで車で行ってまとめ買いをしなければならなくなってしまった。
都会で暮らす人は、老後の田舎暮らしを夢見やすい。だが、町内会の行事が多いなど地域のつながりが都会と比べてかなり濃厚で、人づきあいが苦手な人にとってはストレスになる。地方は水道代やガス代などが高いほか、バス路線の本数減や廃止が進む。医療面でも病院統廃合が進むなど、シビアな面も少なくない。たまには旧友を迎えてのんびり過ごしたいと思っても、交通の便が悪ければ、なかなか実現しない。
移住を決断するその前に、入念な下調べが必要そうだ。
ダウンサイジングで夫婦の距離がとれない
子供が巣立ったら広すぎる郊外の自宅を売却し、都心近くのこぢんまりしたマンションに転居するという手もよく耳にする。だが、それにも落とし穴がある。
千葉県の菊田順子さん(67才・仮名)は唇を噛む。
「3階建ての自宅を売り、駅に近い2LDKのマンションに引っ越しました。最初は掃除が楽だと喜んでいたのですが、しばらくすると夫の顔を見るのもうんざりするように。“あれ、この人ってこんなクセあったっけ?”と相手の嫌な部分が見えたり、お互いに行動を見られている気がしてイライラして、夫婦げんかが増えました。
家が狭くなった分、夫婦の“適度な距離”がとれなくなったんですかね。いまではそれぞれの部屋で過ごすようになり、ただの同居人のような感じです。離婚した方が楽かも」
夫婦仲よく、末永く住もうと思っての転居だったのに、離婚話まで出ては本末転倒だ。