終の棲家を考える|何より大事な「立地」選び、外せない5つの条件
終の棲家を住宅ジャーナリストの中島早苗さんと考えるシリーズ。今回は、「住む場所」についてです。長年、数々の住宅を取材してきた経験に基づき、シニア期の家選びについて中島さんがアドバスします。
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家選び、一番の決め手とは
住む家を選ぶ時に一番大事な決め手は何だと思いますか?
私はズバリ、「立地」だと思います。
あなたがこの先、家の引っ越しを考えるとしたら、候補にしている場所について調べ、現地に足を運び、十分にリサーチしてから決めることをお勧めします。
住宅という器は建て替えができますし、マンションでも住戸内のリフォームができますが、立地は後から変えようがありません。立地によって、あなたの生活の質や資産が大きく左右されると言っても過言ではないため、どこに住むかはとても大事なのです。
では、特にシニア期の住まいとして、どんな立地を選ぶのが理想的なのか。
私がこれまで取材した多くの住宅や、自分自身の引っ越し、マンション購入経験などから考える「譲れないポイント」は以下の5点です。
1. 水害や地震に強い土地
2. 資産価値が下がりにくい場所
3. 治安がよい地域
4. 駅から徒歩10分以内、公共交通の便がよい場所
5. 徒歩圏内にスーパーや病院が多い地域
理由を順番に説明しましょう。
水害や地震に強い土地を選ぶ
まず1の、災害に強いという点。台風や豪雨災害の多い日本では毎年、川の氾濫や土砂崩れによって多くの人命や建物、資産などが失われてきましたが、近年その被害が激甚化・頻発化しています。
「国土交通白書2021」https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1112000.htmlによれば、例えば2019年の水害被害額は全国で約2 兆1,800 億円。これは2年前2017年の約4倍で、1年間の津波以外の水害被害額としては、統計開始以来最大となっています。
川の水が堤防から溢れたり堤防が決壊したりした場合に起こる洪水は「外水氾濫」と呼ばれます。それに対し、低地や平坦な土地に降った雨が処理能力を超え、排水用の水路や小河川が水位を増して溢れ出し、街が浸水する洪水を「内水氾濫」と呼び、都市部でも注意が必要です。内水氾濫が生じやすい場所は、平地の中のより低い場所や、市街地化の進んだ谷底低地、地盤沈下域やゼロメートル地帯、干拓地などです。
これから住む場所を選ぶなら、できればこのような氾濫が起きる可能性が高い地域は避けたいものです。リサーチはそれほど難しくありません。住みたい候補地のハザードマップ、海抜、過去に氾濫が起きたかどうか、可能なら古い地図などを、事前に調べましょう。
古くに決められた地名も参考になります。国土地理院の「地名と水害」のコラムhttps://www.gsi.go.jp/CHIRIKYOUIKU/kawa_2-7.htmlには、川や湿地などを表す地名の例が紹介されています。
水に関連する地名の場合、そこはかつて川や湿地だったり、氾濫平野だったりすることが少なくありません。このような地域は大雨で水が溜まりやすい、また、地震による揺れや液状化の危険性が高いかもしれないことを念頭に置いて、住む場所選びの参考にしてください。
資産価値が下がりにくい場所を選ぶ
次に2の、資産価値が下がりにくいという点。
これは私自身が住む場所選びをした時に、最も注意した部分でもあります。
最初に30代独身でマンションを購入する際に一番心配したのは、「住宅ローンが払えなくなったらどうしよう」という点でした。
しかし、会社員だった当時、勉強会に参加するなどして学んだことは、「手放さなければならなくなった時に、貸したり売ったりしやすく、資産価値が下がりにくい物件を選べば大丈夫」。それで30代半ばにして、初めてマンションオーナーになりました。
では、資産価値が下がりにくいかどうか、何を基準にすればよいでしょうか。
例えば自分のマンションを貸すことになった時に、募集をかければすぐに賃借人が集まるような、借り手の多い人気のエリアを選びます。具体的には通勤や通学に便利な沿線の駅から徒歩10分以内など。そして、購入しようとしている物件に近い条件の物件の賃貸料と、中古の売値を、ネットの住宅情報などで調べます。賃貸料が、月々支払う住宅ローンの額より高く、将来売る場合でも自分が買った価格との差が小さければ安心です。
「資産価値が下がりにくい」物件は、上記1、3、4、5の条件を満たしている物件とも言えます。リスクの少ない立地を探すためには、ハザードマップなどを調べるだけでなく、候補地を自分で歩いてみることが重要です。同じ区内や最寄り駅の周辺でも、坂道の上下や南側、北側などによって、雰囲気や風の吹き方も違います。
資産価値が目減りしにくい立地を選んでおけば、シニア期でもよりよい住み替えができます。
治安がよい地域を選ぶ
3の、「治安がよい」について。
「割れ窓理論」という言葉をご存じでしょうか。窓ガラスを割れたままにしておくと、その建物は十分に管理されていないと思われ、やがてゴミが捨てられ、地域の犯罪が増えていくという環境犯罪学の理論で、アメリカの犯罪学者、ジョージ・ケリングが考案しました。窓ガラス1枚の綻びが、地域全体の環境を象徴しているかもしれません。歩いてみて、ゴミが散らかったままにされているなど、何となく荒んだ感じがする街よりも、道端や家の前に花が植えられている街を選ぶ。街歩きを重ねていると、そんな直感力、見る目が養われていきます。
駅から徒歩10分以内、公共交通の便がよい場所を選ぶ
4と5の、交通や生活の便のよさについて。
これは特にシニア期には、欠かせない条件になると思います。
シニアになって運転免許証を返納しなければならなくなった時に、徒歩圏内に必要な施設があるというのは有難いことです。最寄り駅から徒歩10分以内なら、資産価値が下がるリスクも低いでしょう。
徒歩圏内にスーパーや病院が多い地域を選ぶ
私が多くの住宅を取材して学び、選んだのは、高台で地盤が固い立地、新興住宅地ではなく古くからある街でした。近くに公園や、季節毎のお祭りが続く寺社、美味しい居酒屋さんなどがあって、住むのが楽しい地域でもあります。リサーチのための街歩きでは、「におい」も参考にしました。何となく嫌なにおいがするな、と思う場所は風が滞っていたり、車の交通量と排出ガスが多い場所だったりで、空気の質があまりよくなかった気がします。
シニア期こそ快適に、理想的に暮らすために。どこに住むか、どんな立地を選ぶかは、最も大事なポイントだと思います。あなたはどんな街に住みたいですか。ハザードマップや街歩きを味方に、終の棲家にもなり得る場所を、じっくりと探してみてはいかがでしょうか。
文/中島早苗(なかじま・さなえ)
住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。