夫が亡くなったら起こる6つのこと ひとりで幸せに生きるための対策を専門家が指南
厚生労働省の「簡易生命表(令和2年)」によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64才で女性が87.74才。つまり女性は、伴侶を先に見送り、その後の人生をひとり、歩み続ける可能性が高いといえる。では、伴侶の死後、何が起き、どうしたら幸せに過ごせるのか――夫の死後、新たに幸せを見つけた先達たちに話を聞いた。
「夫死んでも妻元気」の時代ではない!
厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、1986年の65才以上の人がいる世帯の44.8%が三世代同居だったが、2019年には9.4%まで減少。代わって夫婦2人世帯が32.3%となった。つまり、“夫婦2人暮らし”が多いいま、平均寿命が長い女性は、ひとり残される確率が高い。
「ひと昔前までは、夫が亡くなっても妻はすぐに立ち直る、などといわれてきましたが、それは三世代同居が主流で、いまより平均寿命が短かったから。家族と同居しているので、夫がいなくても寂しくないうえ、自分が元気なうちに夫が亡くなれば、残りの人生を自由に生きられますから。
しかしいまは、男女ともに寿命が延びたため、自身も高齢で体が不自由になったときに、夫の死により、生活環境が激変することになります。また、大家族から1人減るのではなく、2人から1人減ったときの精神的なダメージも大きいといえます」
とは、シニア生活文化研究所代表理事で、死生学者の小谷みどりさんだ。
亡き伴侶のためでなく自分のために生きる
では、伴侶が亡くなると具体的に、どんなことが起こり何が負担になるのか――。
「2人から1人になるわけですから、孤独感にさいなまれることもあるかもしれません。周りの人に“かわいそうに”などと声をかけられることもあるでしょう。
とはいえ、“早く立ち直らなければ”と無理して自分を奮い立たせなくてもいいし、世間が考える“伴侶に先立たれたかわいそうな人”のイメージに合わせて、外出を控える必要もありません。
むしろ、意識して“今日の用事”と“今日行く場所”をつくって外に出た方がいい。毎日楽しく過ごしてもいい。再婚してもいい。いずれにせよ、伴侶の思い出とともにこれからも生きていくことには変わりがないからです。
大事なことは、自分のこれからの人生をいかに幸せに過ごすかです。死んだ人のために生きる必要はありません」(小谷さん・以下同)
そうやって気持ちを切り替え、行動するためには、伴侶が生きているうちからやっておくべきことがあるという。
「夫以外に頼れる人とのつながりを持つことが大切です。また、ライフスタイルが変わるのはストレスになるので、日課を決め、その通りに生活する習慣もつけましょう」
詳しくは、次からの専門家のアドバイスや体験談を参考にし、未来のために備えてほしい。
夫が亡くなったら起こる6つのこと
■感情が千々に乱れ体調を崩す人も
「伴侶と死別すると、悲しみ、怒り、罪悪感などにさいなまれ、頭痛やめまい、息切れなどの不調に悩まされます。また、現実感がない、仕事や家事に集中できない、涙が止まらない、眠れないといった人も。一方で何も感じない人もいるでしょうが、それでも、日常が激変するわけですから、緊張状態に置かれます。
死別の直後は重要な判断などせず、また、無理に元気になろう、無理に悲しもうなどともせず、自分と向き合う時間を持つといいと思います」(小谷さん・以下同)
■自分のための家事が面倒になる
「伴侶の死後、セルフネグレクト化する女性が実は多いんです。特に、それまで夫婦2人暮らしだった場合、ひとり暮らしになると、自分のためだけにする家事にやりがいが感じられず、食事や掃除が疎かになります。化粧や入浴も面倒となり、引きこもりがちになる人も」
■周りから過剰に気遣われる
伴侶の死後1~2年は、よくも悪くも周りから気遣われる日々が続く。
「ありがたいと感じる人はいいですが、かわいそうな妻を演じさせられる、楽しそうなことをしていると白い目で見られるなど、負担に感じる場合は、いちいち真摯に対応せず、受け流しましょう」
■経済的な変化
夫の死後、経済的に困窮する可能性はあるが、すぐに生活が成り立たなくなるわけでもないという。
「夫が生命保険に入っていればそれがもらえますし、夫名義の住宅ローンが残っていても、団体信用生命保険に入っていれば、返済が免除されます。また、高校を卒業する年齢までの子がいるなど、一定の要件を満たしていれば、遺族年金がもらえます」。
とはいえ、悲しみを紛らわしたり、自分の世界を狭めない意味でも、仕事を始めるのがおすすめだという。
■義理の親や親族との関係に悩む
「特に子供がいない場合、関係のよし悪しにかかわらず、夫の親族とどのようにつきあっていけばいいのか、戸惑う人は少なくありません。もし、義理の親族との関係を負担に感じるなら、死後離婚を検討するのも手。手続きは、居住地の市区町村に『姻族関係終了届』を出すだけで済みます。これで義父母の扶養義務、ひいては介護義務もなくなります。死後離婚をしても、遺族年金は受給できますし、亡夫からの遺産も相続できます」
■遺品の片付け
「無理に片付ける必要はありません。日常が変わり、それがストレスになっていますから、室内のレイアウトまで変えない方が心に負担をかけずに済みます」。
なかには、片付け中に不倫の証拠を見つけ、さらに傷つくケースも。日記や写真は見ないで処分したり、業者に頼むのも手。
夫が亡くなる前にすべきこと
■伴侶の交友関係を知っておく
伴侶が亡くなると、職場の人や友人などに葬儀などの日取りを知らせる必要がある。だが、交友関係がわからないと、誰に知らせるべきか悩むことに。スマホに連絡先データがあったとしても、ロックしている人も多いため、気軽に調べられないうえ、連絡先だけでは関係性がわからない。
「私自身、葬儀まではやることが多く時間がない中、誰に伝えるかに悩まされました。伴侶には生前、誰に自分の死を知らせたいか、連絡先と関係性を聞いておくことをおすすめします」。
■ゆるくつながれる人間関係をつくる
伴侶の死後、ひとり暮らしになると、会話をする人はもちろん、自分の体調や変化などに気づいてくれる人がいなくなる。そうすると、社会から取り残され、孤独死のリスクも上がる。それを回避するためにも、日頃から人間関係のリスクヘッジをしておくことが大切だ。
「災害時や急な体調不良などのときだけでなく、日頃、世間話ができる相手がいるだけでも心強いものです。ボランティアや趣味、近所づきあいを含めて、あちこちにつながりを築いておきましょう」。
■将来の夢を決めておく
小谷さんは、夫が亡くなる前から貧しい国の子供たちのために何かをしたいという“夢”があった。そのため、現在はカンボジアで現地人の生活を保障するためのパン工房を経営しており、それが生きがいになっている。
「夫の死後、悲しみも癒えていないのに新しいことを始めるのはハードルが高いもの。でも、前からの夢を実現するために行動するのは、第二の人生を歩むときの原動力にもなり得ます」。
漠然とした夢でもいいので日頃から探しておこう。
■仕事など忙しく活動できる場をつくる
暇な時間があると悲しみや後悔にさいなまれがち。
「フルタイムで働いている人や、小さな子供がいるなど、妻以外の役割を持って忙しく立ち回っている人の方が、伴侶の死後、元気を取り戻しやすいといえます」。
妻の役割以外で活躍できる場を確保しておこう。
■ルーティン(日課)をつくる
伴侶との死別後は、家事の負担が減るなど、生活リズムが変わる。これが大きな精神的ダメージになる。そこで日頃から、自分だけの日課をつくっておくといいという。
「たとえば、朝は同じ時間に起きて散歩をするなど。伴侶の死後もその通りに過ごせば、生活の乱れを防げます」。
■「伴侶は明日死ぬかも」と思って生活する
夫を突然死で亡くした小谷さんは、その経験からこう語る。
「伴侶が今日亡くなる可能性も。そうなったとき後悔しないよう、けんかをしても、その日のうちに仲直りすることをおすすめします」。
いずれにせよ、伴侶はいつか必ず別れる相手。それを意識して接することが大切だ。
取材・文/桜田容子 イラスト/やまなかゆうこ
※女性セブン女性セブン2022年2月10日号
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