60才過ぎたおひとりさまが家を借りにくい理由 高齢者の”賃貸住宅”問題をFPが解説
伴侶に先立たれてひとり暮らしになったり、病院が近い便利な場所や、家族の近くに家を借りたりしたいと考える高齢者も多いのではないだろうか。しかし、60才を過ぎると賃貸住宅は借りにくくなることがあるという。調査データをふまえ、高齢者が家を借りにくくなる理由についてファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんが解説。賃貸住宅を借りやすくするための制度「住宅セーフティネット法」も合わせて紹介する。
高齢のおひとりさまは賃貸住宅が借りにくい?
内閣府の調査※1によると、65才以上の高齢者のいる世帯の住宅状況は、持ち家率が82.1%と高い。
一方、65才以上の単身世帯になると、持ち家率は66.2%に下がり、公営・民営の賃貸住宅に住んでいる人の割合は33.3%となっている。
また、現在は持ち家であっても、いずれは子供たちの家の近くや利便性の高い場所で賃貸住宅に住み替えることを考えている人もいるだろう。
※1内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)」より
1.孤独死の懸念がある
高齢になると賃貸住宅が借りにくくなる理由について、調査に基づいて考えてみたい。
国土交通省の調査※2によると、大家の約6割が高齢者に対して拒否感を抱いており、入居制限については「単身の高齢者(60才以上)は不可」としている大家が11.9%に上っている。
大家側が高齢者に賃貸住宅を貸したくないと考える理由として、考えられるのが孤独死だ。
実際、高齢者のひとり暮らし世帯の増加や高齢化にともない、孤独死は増加傾向にある。前述の内閣府の調査※1によれば、東京23区内における65才以上のひとり暮らしの自宅で死亡した“孤独死”と考えられる事例は、平成21年の2194件から平成30年には3882件と年々増加している。
部屋で住民が孤独死した場合、警察の現場検証を受けたり、部屋の汚れや遺品の整理が必要になったり、家賃が未回収になったりする可能性もあるため、大家側も高齢者への賃貸を敬遠しがちだ。
高齢者への賃貸に大家さんの8割が拒否感
従前は拒否感があったが現在はない…3%
従前と変わらず拒否感はない…20%
従前より拒否感が強くなっている…9%
従前と変わらず拒否感が強い…20%
拒否感はあるものの従前より弱くなっている…48%
2.保証会社の審査が通りにくい
高齢者が賃貸住宅を借りるとき、家賃保証会社の審査が通りにくいのも理由のひとつだ。
賃貸住宅を借りるときには、家賃滞納等のときに家賃を代わりに支払ってくれる連帯保証人を立てる必要があり、一般的には家族を連帯保証人にするケースが多い。家族に頼むことができない場合などには、連帯保証人を立てずに、家賃債務保証会社を利用することになる。
家賃債務保証会社とは、家賃を大家さんに保証する会社のこと。保証料を一定間隔で支払うことで家賃の滞納等があったとき、保証会社が代わりに家賃を支払うことになる。
保証会社側は滞納が起こるリスクを最小限にするために「審査」が行われる。前述の調査※2によると「年代別の審査状況」の年齢が上がるほど、審査が通りにくくなる傾向だ。60代、70代は「審査落ちが多い」「審査落ちが散見」される割合が3割以上となっている。
※2国土交通省「居住に課題を抱える人(住宅確保要配慮者)に対する居住支援について」「住宅確保要配慮者に対する賃貸人の入居制限の状況」
高齢のおひとりさま向け「住宅セーフティネット法」
大家側が高齢者の入居に拒否感があるとはいえ、高齢者の単身世帯は増加傾向にある。高齢だからと賃貸住宅が必要な人が入居を拒まれてしまうのは問題だ。
そこで注目なのが「住宅セーフティネット法」だ。
正式名称は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」となっており、高齢者のおひとりさまなど賃貸住宅を借りにくい人たちのために支援をする制度だ。
具体的には主に以下の4つの支援がある。
【1】入居を拒まない住宅の登録制度
ウェブサイト「セーフティネット住宅情報提供システム」で、大家側は高齢者の住宅を拒まない住宅を登録することで、入居希望の人がスムーズにそのような住宅を以下のシステムから見つけることができる。
https://www.safetynet-jutaku.jp/
【2】登録住宅の改修を補助
入居を拒まない住宅に登録すると改修費を補助してくれる制度があり、登録住宅の増加が促進される。
【3】入居者負担軽減
登録住宅に入居すると、家賃と家賃債務保証料の補助を受けられる場合がある。
【4】居住支援
見守りなどの生活支援や入居者の家賃債務保証などの支援を行う。
また、高齢の入居者が死亡したとき、賃貸契約の解除や遺品処分などを第三者にあらかじめ委任しておくための契約書のひな形を作り、孤独死であっても退去手続きをしやすくすることで、大家側も高齢者へ貸すときの拒否感をなくす取り組みなども行われている。
高齢者が借りやすい賃貸物件を扱う不動産会社も
民間の不動産会社においても、高齢入居者増加にともない、高齢者が借りやすい仕組み作りを行っている。
・不動産会社MARKS
通常借りられにくい事故物件を情報開示の上転貸し、入居後は見守りサービスも請け負う。
・ニッショー
初期費用3万3000円と毎月6600円を支払うことで、毎日の安否確認、セコムのセキュリティサポートなどを受けられる。
こういった見守りサポートを受けることで住民の孤独死を防ぎ、大家側も安心して貸すことができるため、物件選びの幅が広がるというわけだ。
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高齢になってから家を借りるには、さまざまなハードルがある。支援制度などもあるが、老後の住まいについて早い段階から考えておくのがよさそうだ。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。