介護士は食事の介助に”エプロン”を使うべきか…僕が介護現場で学んだひとつの答え
介護士ブロガーのたんたんさんこと深井竜次さんが、介護施設で働いていたとき、上司に言われて深く考えさせられたというある出来事――「食事介助でエプロンは本当に必要なのだろうか?」。介護の現場における”あたりまえ”を疑うことについて、たんたんさんが考察する。
介護士ブロガーのたんたんと申します。
5年間介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って記事を書いてきました。
今回は僕が新人時代だったときに上司に言われて深く考えさせられたことについて書いていきたいと思います。
入社して3か月で受けた「利用者体験」
僕は新卒で保育士として現場で働いていたのですが、1年も経たずに鬱になってしまって退職してしまいました。
当時付き合っていた彼女の紹介で飛び込んだのが介護業界でした。
しかし僕は介護の仕事は未経験で未資格で右も左も分からない状態。そんな僕を採用してくれた施設には今でも感謝しています。
今回の話のきっかけになったのは、入社して3か月で受けた「利用者体験」です。
利用者体験は、その名の通り、自分が1日利用者として生活をすること。利用者側の気持ちを理解した上で質の高いケアができるようになることを目的として行っているものです。
当時働いていた施設での利用者体験は、勤務日に1日、利用者と同じような生活をすることになっていました。
具体的には、
・1日中車いすに座って生活する
・食事は他の介護職員から介助してもらう(食事形態も利用者様と同じ)
・移動をする際には介護職員から介助してもらう
実際に利用者体験をして感じたのは、
「車いすで過ごす時間がとても長く感じ、食事も行動も思い通りにならないなんて。自分で自分のことができるとうことが、いかに幸せなことか。みなさん、こんなに大変な思いをしているんだ…」
ということです。
この経験は、自分のケアの質を高めることにつながりました。入社して早い時期に利用者体験したことは、僕にとってとても良い学びになりました。
一連の利用者体験の後、上司と面談があり、そこで話したことが今でも強く印象に残っているので、以下に記したいと思います。
利用者体験の後に上司に言われた言葉
上司「1日利用者体験をしてどうだった?」
僕「利用者さんはこんなに不便な生活をしていたんだということを、実際に経験して強く感じました。
利用者さんからしたら介護職員の存在はとても大きく、施設の生活は介護士のケアによって大きく変わってくるのですね」
上司「介護の仕事を長く続けていると、その感覚を忘れてしまうこともある。だから、介護現場で働くなら、定期的に利用者体験はしておくといいよ。
食事中にエプロン着けて介助をしてもらったとき、どんな気持ちだった?」
僕「なんだか気恥ずかしかったですね」
上司「そうなんだよ、エプロンを着けるのはちょっと恥ずかしいものだよね。
介護職員からすると、あたりまえのことかもしれないけど、『エプロンなんて子供がするものなのに、なんで自分がしないといけないんだ』と思う人もいるかもしれない。
ひとつひとつのケアについて、『自分がされたらどう感じるか?』と考えることが大切なんだよ」
――このときの上司とのやりとりが僕の心に強く刺さり、介護をする上で「自分だったらどう思うのか」という視点を持つようになりました。
そんなわけで、食事介助のエプロンについて、もう少し掘り下げてみたいと思います。
食事中のエプロンに対して思うこと
僕は「食事中にエプロンをするのはちょっと恥ずかしい」と思ったので、その後、食事介助でも利用者にエプロンをできるだけ着けてもらわないようにしていました。
食事をこぼしてしまう不安があるときには、タオルを用意しました。
エプロンを使うのは、食事で利用者の服が汚れないようにすることが主な目的です。しかし、実は介護する側の食事介助の技術によって、こぼれないようにすることもできるのです。
利用者がエプロンをしなくても食事介助がうまく行くには?
・食事介助を急がない
・1回に口に運ぶ食事の量を減らす
・相手がしっかり飲み込むのを確認してから次の食事を口に運ぶ
どれもあたりまえなことではあるのですが、ひとつひとつのケアを丁寧にすることで、食事をこぼしてしまうことが減り、エプロンをしなくても食事ができると僕は思っています。
しかし、介護職員側が食事に時間をかけられない環境では、つい食事介助を急いでしまうもの。食事をこぼして服が汚れてしまったり、本人が望んでいないのにエプロンを着けたり…。結果的に介助の質が低下していまいます。
介護施設での食事は、利用者にとって楽しみな時間のはず。せっかくなら、ゆっくり楽しんで食べてもらいたいものです。僕はエプロンを着ける食事介助と、タオルでこぼした食事を拭くといった食事介助では、時間的に大きな差はないと思います。
自分がされたら嫌なことはしない
忙しいからと食事介助を急いで利用者に不快な思いをさせてしまうような事態は避けたいものです。これは、食事介助だけでなく、排泄や入浴介助でも同じことが言えると思います。
介護施設では人手不足という問題もありますが、介護職員のスキル次第で改善できることはまだまだあると思っています。
「自分がされたら嫌なことは利用者にはしない」と考えて行動することは、忙しくて余裕がないとつい忘れがちになってしまうもの。
かといって利用者の気持ちばかり優先させて、仕事が滞ってしまうのも考えもの。介護職は、気持ちと行動のバランス感覚が問われる、奥が深い仕事だと思います。
「介護には正解がない」と言われますが、「間違い」は必ず存在します。仕事の中で、その「間違い」をいかになくしていくかが、介護士の腕の見せどころなのではないか…。
食事介助におけるエプロンというひとつの事例を挙げましたが、すべての介護シーンにおいて、「この方法でいいのか?」「相手はどう思うか?」を自分に問いかけていくことが、双方にとって良い介護につながるのではないかと思っています。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として働いた経験を持つ。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』(https://www.tantandaisuki.com/)を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。
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