介護職の賃金はなぜ安い?介護現場の給料や働き方の課題を社会福祉士が考察
昨年の介護報酬改定により介護職員の処遇改善が実施された。介護職の賃金は年々上昇傾向ではあるものの依然として「給料が安い」と感じているかた多いのではないだろうか。介護施設の相談員としても活動する社会福祉士の渋澤和世さんが、介護業界の働き方や賃金相場について考察し、その対策を探った。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
「介護職の賃金は安い」実際どうなの?
介護業界は「給料が安い」「仕事がきつい」「人が定着しない」といったネガティブなイメージを抱いているかたもいらっしゃるかもしれません。
筆者が社会福祉士の実習でお世話になった介護施設(後述)は、待遇も職場環境もよかったのですが、介護施設によっては職員同士の人間関係が悪く、休みも取りづらい、サービス残業が蔓延しているなどの理由から離職率が高いケースも。「給料に納得がいかない」という声も多く聞かれます。そこで今回は介護職の賃金や働き方について考えてみたいと思います。
介護職員の賃金相場はどのくらい?
厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇等調査結果」によると、介護職員の平均月収は約31.8万円。手取り額は税金や社会保険料を差し引くと、月給の7、8割くらいなので22万円〜25万円くらいです。
正社員であれば、賞与が年間で50万円くらいあるので、年収にして430万円となります。一見すると年収400万円以上なら悪くないと思いがちですが、この数字が当てはまる人は平均年齢44.7才、平均勤続年数8.7年、実労働時間164.5時間となっています。つまり、8年経験を積んで年収400万円台ということです。
また、パートなどの非常勤の平均時給は1,130円です。令和6年10月1日から東京都の最低賃金は1,163円、全国平均が1,055円と考えると、最低賃金に限りなく近いともいえます。
参考/厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/22/dl/r04kekka.pdf
厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
介護施設で働く人たちの職種別・給与額
介護福祉施設に勤務している職種として、介護職員では介護福祉士、実務者研修、介護職員初任者研修、保有資格なしと分かれます。調査結果では、平均年齢、勤務年数にバラツキがありますが、同年齢、同勤続年数で比較すると、介護福祉士、実務者研修、介護職員初任者研修、保有資格なしの順の給与体系となるのが一般的です。
勤続年数で比較しても、介護福祉士と保有資格なしでは、6万円の差があります。介護職員を続けるのであれば、介護の資格を取得することが給与アップの近道です。
■資格別・平均年齢・勤続年数による給与額
資格|平均年齢|平均勤続年数|平均給与額
介護福祉士|45.2|9.5|331,690
実務者研修|43.9|6.5|302,500
介護職員初任者研修|46.4 |8|302,910
保有資格なし|39.6|9.3|270,530
介護職員以外の職種では、看護職員(看護師)、生活相談員(社会福祉士等)、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士又は機能訓練指導員、介護支援専門員(ケアマネジャー)、管理栄養士・栄養士、調理員、事務職員などが一般的です。
■職種別・平均年齢・勤続年数による給与額
職種|平均年齢|平均勤続年数|平均給与額
介護職員|44.7|8.7|318,230
看護職員|51.5|9.7|372,970
生活相談員・支援相談員|45.6|10.5|342,810
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士又は機能訓練指導員|40.4|8.1|355,060
介護支援専門員|50.1|12.3|362,700
管理栄養士・栄養士|40.8|9.9|316,820
調理員|47.4|9.2|262,540
事務職員|47.8|10.9|308,430
この調査結果からも、看護職員(看護師)や生活相談員(社会福祉士)、理学療法士、作業療法士、介護支援専門員(ケアマネジャー)のほうが給与は高めです。これは、介護職員は保有資格がなく未経験でも仕事が始められることも要因になっているかもしれません。
給与をアップさせる働き方とは?
介護職員として長く働くならば、介護福祉士の資格をとるのが王道です。3年の実務経験と実務者研修で、介護福祉士の国家試験を受ける資格を得ることができます。さらに経験を積むとケアマネジャーを目指すことも可能です。
資格があると基本給が考慮されたり資格手当がついたりするので確実に給料アップを狙え、さらに給料が高い別の職場に転職もしやすくなります。
ほかにも、音楽療法士、園芸療法士などもリハビリに活用でき、これらの資格保持者を優先して採用する法人もみられます。資格を武器に給与が高い法人に挑戦するのもよいかもしれません。
実習先の介護施設は職員の満足度が高かった
筆者は社会福祉士の実習で東京都の特別養護老人ホーム(以下、特養)にお世話になりました。そこは、特養のほかショートステイ・デイサービス・地域包括支援センターも隣接しており、すべての施設で介護サービスの経験をしました。
実習生には、それぞれ指導員がつきます。中には新卒から介護業界の人もいましたが、異業種からの転職、技術者や事務職経験者が多いことに驚きました。「異業種からなぜ介護業界へ?」と思っていたら、何人かの人が「知人からこの法人をすすめられた」と言っていたのが印象的でした。
そして全員に共通していたのは、「ここの職場は給料も高いし、有休や夏季休暇などもとりやすくて働きやすい」と言っていました。こうした口コミは職場を選ぶのには大切かもしれません。
また、この法人の求人募集を見てみると、介護職員(正社員)25万~28万、非正規(パート)で時給1,500~1,700円となっていました(2025年3月現在)。さらに、教育体制もしっかりしていて、採用されれば初任者研修は会社の費用で取得できる制度もあります。
筆者が出会った施設はいい職場環境でしたが、実際には、こうした優良法人ばかりではないのが実情かもしれません。