介護施設で働いてきた僕が一番衝撃を受けた深夜のできごとと罪悪感の正体
介護士ブロガーとしてその体験をブログで発信しているたんたんさんこと、深井竜次さん。介護施設で介護士として働いててきて、一番驚いたのが、利用者さんがくれたあるものだったという。あまりの衝撃に「介護士としての浅さ」を痛感し、罪悪感を覚えたとも。いったい何があったのだろうか?
介護士ブロガーのたんたんと申します。
僕は5年間介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンではこれまで僕が介護現場で経験したことや学びについて、「介護士さんをはじめ、介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って書いてきました。
今回は僕が介護施設で働いていたときに遭遇した、もっとも衝撃的なできごとについて書いてみたいと思います。
初めて働いた施設は驚きの連続だった
僕が最初に働いていた介護施設は、多くの認知症患者を受け入れていました。
その施設では、認知症の方への対応について多くのことを学びました。転職して他の施設で働いたときには、その経験を生かして仕事をすることができました。
認知症の利用者さんのケアをしていると、想像を超えるできごとが次々と起こります。
食事直後に、「ご飯まだかね?お腹が空きましたよ」と笑顔で毎回言われたり、赤ちゃんの人形を孫だと思ってかわいがっている姿、車いすで施設内を一日中走り回り、運動会のような様子に「体力あるなぁ」と感心したり…。
普段の生活ではなかなか体験することのない刺激的なことが毎日起こり、ハラハラしたり、微笑ましく思ったり、仕事に飽きるということがありませんでした。
そんな中でも、今回は、僕が一番驚いたできごとを紹介したいと思います。
排泄に関する話なので、お食事中の方は、食事を終えてから読んでいただけると嬉しいです。
認知症の利用者さんがくれたもの
――その日、僕は夜勤のシフトでした。
僕が働いていた施設の夜勤では、夜の22時に排泄介助をすることになっていました。その後は2時間おきに巡回をして利用者さまの安全の確認をします。
22時の排泄介助を終えて雑務をしていると、センサーマットに反応してコールが鳴りました。
センサーマットとは、立位が不安定で転倒する可能性がある利用者さんに使用するものです。センサー反応があったときは、できるだけ早く部屋に駆けつける必要がありました。
センサーが反応したのは、認知症の症状がある斉藤ヤエさん(仮名、90代女性)でした。
部屋に飛んで行くと、ヤエさんは笑顔でベッドに座っていました。ニコニコしながら、
「あんた、頑張っているからこれあげるね」と言って、左手を差し出しました。
「さっきまでベッドで寝ていたはずだけど、何か渡せるものがあったかな?」
手に何かを握りしめているようです。僕は左手を見つめ、「それはなんですか?」と聞いてみました。
するとヤエさんは、くしゃくしゃの笑顔で「おはぎを作ったのよ」と言いました。
「どこからおはぎが出てきたんだ!?」と、なんだか嫌な予感がしました。
しわが刻まれた白いその左手を開いてみると――。
小さく丸められた排泄物が出てきました。手のひらは排泄物で汚れています。
衝撃で言葉を失いかけましたが、僕はまず「ヤエさん、ありがとうございます!」と伝えてからそれを受け取りました。
そして、「もしよかったら、トイレに行きましょう」と、お誘いして洗面所へ向かい、排泄介助をしてから、一緒に手や爪を何度もブラシで洗いました。
ヤエさんは、不思議そうな顔をしていましたが、「ありがとう」と何度もおっしゃっていました。
「気持ちは嬉しいけれど、さすがにいただくわけはいきません。すみません」と、それを汚物室の排泄物用のゴミ箱に捨てました。
「すみません…」
そのとき僕は、なぜだか罪悪感を覚えたのでした。
衝撃のできごと、罪悪感の正体は…
この一件は、僕が初めて介護現場の仕事で経験した“弄便(ろうべん)”でした。
弄便とは、認知症の症状のひとつとされ、便を手で触ったり、壁などにすりつけたりする行動のことです。
実は、以前に保育士の仕事をしていたときには、園児の弄便は、経験したことがありましたが、介護現場での対応はこのときが初めてでした。
ヤエさんの行動には、なんの悪意もなく、認知症という病気がそうさせているわけで、もしかして、僕のケアの仕方によっては、弄便を未然に防ぐことができたのではないか? もっと早く何かできることはなかったのか…。
ヤエさんからいただいたものを破棄したときに感じた罪悪感の正体は、
「介護職のプロとして弄便の対処ができていなかったのではないか」ということでした。
このときの上司に相談してみると、ヤエさんの弄便への対処法として、以下のアドバイスをもらいました。
・夜中での弄便だったので、下剤などで排泄コントロールをして日中に排便できるようにしてみる。
・排便の周期を確認して日中や就寝前に排便を促す声かけをしてみる。
その後、ヤエさんの弄便は見られなくなりましたが、この経験は、僕が介護士としての“浅さ”みたいなものを痛感させられたできごとであり、利用者さまの弄便にどんな風にかかわっていくべきなのか、深く考えるきっかけになりました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として働いた経験を持つ。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』(https://www.tantandaisuki.com/)を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。
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