老人ホームの夜勤で体験した怖い話3選|深夜の笑い声、空き部屋から呼び出し…
介護士の夜勤は、夜中の見回りや深夜に利用者からの呼び出しで予期せぬことが起こるという。多くの夜勤を経験してきた介護士ブロガーのたんたんさんこと深井竜次さんが遭遇した夜中に“鳥肌が立った”という怖いエピソードとは。
老人ホームの夜勤で体験した3つの怖い話
介護士ブロガーのたんたん(深井竜次)と申します。僕は5年間介護施設で介護士として経験したことを元に「介護士さんの幸せな働き方の実現」を目標としてブログを運営しています。
これまで介護士として経験した珍しい出来事とそのことから学んだことを記事にしてきました。
今回は、僕が3年ほど介護施設で夜勤専属で働いていた時の「実際にあった怖い話」というテーマで記事を書いていきたいと思います。介護で夜勤を生業にしていると、びっくすりする出来事に遭遇することがあります。3つの怖かった体験談をご紹介します。
深夜2時、暗闇の中で人影が…
ある日の深夜2時、僕の担当するフロアの入居者の佐田さん(89歳男性・要介護2・軽度認知症の症状あり)からナースコールで呼び出しがありました。
佐田さんの部屋は介護職員が待機している場所から一番奥の部屋です。どんなに急いでも30秒以上はかかってしまいます。僕は早歩きでかけつけました。
佐田さんから深夜に呼び出されるのは珍しかったので不安に思いながら、真っ暗な部屋の引き戸を開けてみると――。
いきなり目の前に大きな人影が現れました。
僕は驚いて「うわっ!」とのけぞってしまいました。しかし、よく見れば扉すれすれのところに佐田さんが歩行器につかまって立っていました。そして小さな声で「トイレお願いします」と僕を見つめていました。
夜中のトイレ介助のときは部屋のベッドで待たれている人がほとんどなのですが、一刻も早くトイレに行くためにドアの目の前で待機をされていたようです。佐田さんをトイレに誘導した後は、朝までぐっすり眠られていました。
夜勤中の施設で真夜中に響く笑い声…
僕が働いていた施設では、21時から2時間ごとに巡回をして入居者様の安否確認をすることになっていました。
午前3時、巡回をしていると奥の部屋から「ホホホホ〜」という女性の笑い声が聞こえてきました。
この部屋の入居者は、渋川さん(83歳女性・要介護度1)というお洒落な女性です。お茶の時間はいつもクッキーと紅茶を召し上がる上品な方でした。
「いつもおしとやかな渋川さんの部屋で、夜中の3時にいったい何が起きているのだろうか…」と思い、僕は恐る恐るドアをノックして部屋に入ってみることにしました。
ゆっくりとドアを開けるとそこに広がっていた光景は――。
4人の女性たちが深夜のティーパーティーが繰り広げられていました。
渋川さんと同じフロアでいつもおしゃべりしている仲良しの細田さん(76歳)、高坂さん(93歳)と加藤さん(89歳)の4人で紅茶と高級店のクッキーを食べながらお茶会をしていたのです。唖然とする僕に、
「深井さんも紅茶はいかが? 眠気覚ましになりますよ」と渋川さん。
僕は巡回を終えてから一杯の温かい紅茶をいただき、この日の夜勤を終えました。
誰もいないはずの部屋から2度の呼び出し
ある日の深夜1時頃、一緒に夜勤のシフトに入っていたスタッフが休憩中で、僕1人でフロアを見ていたとき、ナースコールがありました。
ステーションで発信元を確認してみると、現在利用者さまは病院に入院中で、誰もいないはずの部屋、101号室からでした。
不信に思ったものの「どうしました? 今行きますね」と伝えてみましたが、返事はありません。
急いで部屋に行ってみると――。
なぜか隣の部屋の入居者である102号室の横澤さん(85歳女性 要介護1)がベッドで寝ていました。
お話を伺ってみると、
「共用トイレに行って、そのまま部屋に帰ってきた」とのこと。
横澤さんは部屋を間違えたことに気が付いておらず、ナースコールをも押した覚えはなさそうでした。不思議に思いながらも横沢さんに起きていただき、ご自身の部屋に戻っていただきました。
しばらくしてスタッフルームに戻って職員と話をしていると、深夜3時ごろ、また101号室からナースコールがありました。
「横澤さんは自分の部屋で寝ていただいたし、おかしいなぁ~」と不信に思いながら、ふたたび部屋に向かいました。
ゆっくりと101号室の扉を開けると――。
そこには誰もいませんでした。
この夜勤の2日後、101号室の利用者さまが入院中の病院で亡くなったという知らせを聞き、鳥肌が立ちました。
夜勤の恐怖体験をしてみて思うこと
介護施設の夜勤をしていることを友人に話すと、「介護施設の夜は怖くないの?」と聞かれることも多いんです。僕は「全然怖くないよ。慣れたら大丈夫だよ」と返答していたのですが、3つ目の経験をしてからは少し考え方が変わりました。
介護施設は「終の住処」です。とくに看取りまで行う施設ではなおさら、施設に入ることを亡くなるまで納得していなかった方もおられますし、本当は自分の家で家族に見送られながら最期の時を過ごしたかった人もいたかもしれません。
そんな利用者さまの魂や強い想いが、不思議な現象を起こしていたとしたら――。
僕はそういう話は信じるタイプではないのですが、理屈では説明できないこともあるのです。
夜勤での怖い体験から、介護士としては「利用者さまが最期を迎えるとき、この施設に入って良かった」と思えるような仕事をしなければと改めて思ったのでした。
※登場人物の名前はすべて仮名。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として働いた経験を持つ。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』(https://www.tantandaisuki.com/)を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。
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