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暮らし

「定年後、介護施設で働きたい!」熱意が空回りしてしまった60代男性の悲劇「未経験や年齢の壁」のリアル【社会福祉士解説】

 子育てが落ち着いた50代、仕事に区切りがつけた60代と、新たに仕事を始めたいと考える人も多いのではないだろうか。介護業界で働いてみたいと思ったとき、どんなことに注意すべきなのか。60代で新たに介護の仕事に挑戦し、しくじってしまったという男性の実例から、介護業界での働き方や「年齢の壁」について、社会福祉士の渋澤和世さんに解説いただいた。

この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん

渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。

60才から介護業界に飛び込んだ男性の声

 60才の男性、Aさんは定年を迎え、雇用延長を断って介護業界に転職をしました。

「親の介護が始まりそうなので知識と経験を得たい」というのが理由でしたが、2か所の施設で勤務したのち、介護業界はもうこりごり」と1年半で退職していしました。そこには、介護業界ならではの理由と、やる気を奪う決定的な言葉がありました。

 Aさんは、自身の親の介護に備えること、勉強も兼ねて人の役に立ちたいと、介護付き有料老人ホームの介護職員に転職しました。

 未経験ながら採用を勝ち取ったAさんは、介護業界で働くための最初のステップとなる資格である「初任者研修」を経て、次のステップとなる「実務者研修」へと進み、新たな職場でヤル気に満ちていました。しかし、その想いが空回りし始めます。

 会社員時代は、業務改善が当たり前でむしろ変化が求められる環境でした。今でこそ、介護業界もIT、AIなどと介護記録の電子化やロボットなども取り入れられてはきていますが、数年前までは介護記録は手書きのことも。

 在庫管理や発注業務もファックスを使っているなど、古いやり方にAさんは疑問を感じ、IT化を提案していきました。異業種から来た人間だからこその気づきもあったのだと思います。

 パソコンもエクセルの関数やマクロを使えば効率的なので会議で提案をしてみたのですが、ベテランのスタッフからは、「昔からこのやり方だから」「新しいことを覚える時間がありません」と却下。

 やがて「あの人は偉そうだから…」などの陰口も耳にするようになります。不定期でこなさなければならない夜勤にも慣れず、心と身体が持たずに1年で退職することになったそうです。

年下の上司にダメ出しをされ続け…

 Aさんは、その後デイサービスの事業所に転職しました。夜勤はなくなって体力的には働きやすくなったのですが、今度は職場の人間関係がうまくいかなくなってしまいました。自分より年下の上司から、「そんなこともできないんですか?」と日々言われ続けます。

「これまでの人生でそんな風に言われたのは初めてだ」とすっかり自信を失ってしまったAさんは、この施設も半年で退職することに…。

「自分は介護業界で働く人の価値観や人間性が合わないのかもしれない」と、次の職場を探す気持ちになれず、介護業界とは距離を置くことにしたそうです。未経験、60代の男性の介護業界への挑戦は、あえなく潰えてしまいました。

未経験60才、新たな職場でうまくやる方法はあったか?

 年齢を重ねた分、それまでの経験や知識を新たな職場で発揮したいと思うのは当然ですが、その職場なりの旧態依然のルールや価値観というものも存在します。そしてそれが理不尽だったとしても、なかなか変えられない場合もあります。

 Aさん自身も、これまで働いてきた価値観はいったん捨て、職場のルールに従いながら経験を積み、徐々に新しい方法を試していく。年下の上司の言葉には素直に応じ、仕事ができてきたら徐々に認めてもらう。そうしたステップが必要だったのかもしれません。

50代未経験で門前払い?

 筆者が50代前半のころ、社会福祉士の受検に向けて勉強中だったときのこと。介護の資格はホームヘルパー2級(現、初任者研修)を取得していましたが、介護福祉士の資格はまだ取得していませんでした。そんなとき、会社で早期退職の募集があり、福祉関連に関心があったので、介護求人サイトに登録をしてみました。

 未経験でどんな職場で賃金はどのくらいなのか、そもそも未経験でも仕事はあるものなのか、知りたいと思ったのです。しばらくすると、転職斡旋会社の担当を名乗るBさんから電話があったので、希望職種と場所、働き方を伝えました。

 その後もBさんから何度か電話がかかってきて、面接に進めようと焦っている様子。自身のノルマ達成のためなのか、筆者を思ってのことなのか、よくわからない口ぶりに変わっていたので、どうもおかしいなと感じていたのですが、あるとき「自宅から5分ほどの場所にあるデイサービスが募集をしています」とBさんは言います。すぐには返答できず「少し考えさせてください」と電話を切りました。

 するとしばらくしてBさんからまた電話がかかってきて、「先方からお断りされました」と。よくよく聞いてみると、デイサービスの事業所から「未経験、50代は対象外」だったことがわかりました。

 一方的にすすめられ、そして未経験、年齢のみで断られるとは愕然としました。そのような職場も転職斡旋業者もこちらから願い下げでしたが、「年齢の壁」を感じたのも事実です。

***

 介護業界は人材不足ではあるものの、未経験の壁、年齢の壁が存在し、その壁は意外と高いのではないかと感じます。経験者を採用した方が教育の手間も省け即戦力になるので、採用側が重視するのも理解できます。

 一方で、筆者が取材をした介護施設の採用担当者は、未経験でも家事や育児、介護経験のあるシニア世代は即戦力として活躍できる場合も多いと言います。

 どんな条件でも人手が多ければいいというものではありませんが、人は何事も未経験から始まり勉強や経験を積んでいくもの。シニアの雇用活性化が進む中、募集する側も応募する側にも意識変化も必要なのかもしれません。

コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • 〇〇◆◆▽▽

    昔から「男性」「未経験」「50歳以上」のトリプルは門前払いだったのですが、最近は人手不足なので採用されます。介護業界は男性女性を問わず変化を嫌う小姑が多いため、教えたとおりにしない、違ったことをする、経験年数での序列による発言権を守らない、人間はさまざまなハラスメントが待っています。医者を頂点とするピラミッドは健在なので、ヘルパーは最下部でありさらに分化された階層があります。一般企業で役職もこなしたプライドの高い男性は、頭を下げてヘルパーをすることが難しかったりするので、責任者として勤務するも何も知らないために逆に部下に無視されたりすることもあり、やたら理想論の啓蒙に拘ったりして現場では浮いてしまうことも多いです。かといって、法的知識や経験が豊富なわけでもありませんし、自己の中でワークバランスをとることができず、失意の中で別業界へ再度転職する人は何歳でも多いです。

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