『俺の家の話』6話|「下の世話をしたって親は親だし、子は子」だから時々悲しくなる
長瀬智也主演、宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』(TBS毎週金曜夜10時から)は、介護がテーマのホームドラマ。能楽師の父親(西田敏行)の介護のために実家に帰ってきたプロレスラーの息子(長瀬智也)が、父の思いを汲んで25年前の家族ハワイ旅行をもう一度! とはならず、スパリゾートハワイアンズに一家でやってきた。旅先で騒動が起こらないわけもなく……。ドラマを愛するライター・大山くまおが6話までを解説します。
歌あり恋あり感動ありの傑作エピソード
宮藤官九郎脚本、長瀬智也主演の『俺の家の話』は、「介護」と「相続」という重いテーマを「プロレス」と「能」を通して語るホームドラマ。先週放送された第6話は、歌あり恋あり笑いあり感動ありの傑作エピソードだった。
観山家の長男・寿一(長瀬)の思いつきでスパリゾートハワイアンズに家族旅行に出かけた父・寿三郎(西田敏行)、長女・舞(江口のりこ)、芸養子改め異母弟の寿限無(桐谷健太)、弟の踊介(永山絢斗)、寿一の息子の秀生(羽村仁成)、舞の息子の大州(道枝駿佑)御一行。
しかし、寿三郎は旅の途中、過去に付き合っていた女性に会いに行きたいという。要するに浮気した相手を訪ね歩くんだから、子どもたちの心境はめちゃくちゃ複雑。この旅行の間は寿三郎の好きにさせてやろうと決めた寿一は辛抱強く付き合うのだが……。
人生を整理するための旅
寿三郎いわく「浮き名を流した男の謝罪行脚の旅」。最初に訪ねたのがオーガニック農場を営むちはる(田中みな実)。10年前のイタリア公演のときは世界的な高級リゾートとして知られるアマルフィのホテルに一緒に泊まったらしい。しかし、ちはるが既婚者だと知った寿三郎はすぐに撤収。車中で「インスタントオーガニック百姓が」と悪態をつく。ひどい。
次に訪ねたのが、カラオケ喫茶を営む元芸者の豆千代(池津祥子)。豆千代の夫は服役中で子どもと認知症の母を介護していた。寿三郎は豆千代に「ごめんなさい」と詫びる。
「ジュネ(寿三郎の呼び名)はね、あなたをね、幸せにすることができませんでした」
さらに寿三郎は福島の温泉旅館の女将、川千まゆみ(紫吹淳)を訪ねようとする。寿三郎は妻と死別した後、まゆみとの再婚を真剣に考えていたが、そのままになっていた。寿一は女性たちにはそれぞれの生活があるからもう訪ねるのはやめようと説得するが、寿三郎は頑として譲らない。
「今さら親父とどうこうなんて、そんな……」
「もうもうもう、それ以上言うな! もう、秘すれば花だよ、もう」
「なんでそんな焦ってるんだよ」
「そりゃ焦るよ! だってなぁ、もう最後なんだぞ。もうこれから会う人、もう会えないんだぞ」
寿一と寿三郎の会話は噛み合っていない。寿三郎は女性とよりを戻したくて訪ねているわけでもないし、焦っているわけでもない。寿三郎がしているのは人生の振り返りである。過去をそのまま放置して死んでいくのではなく、訪ね歩くことで心の中で決着をつけていく。いわば人生の卒業旅行だ。そうすることで執着にケリをつけることができる。だから、寿三郎は残り時間が少なくて焦っているのだ。
不貞の相手を訪ね歩くのだから、ろくでもないといえばそれまでなのだが、それだって人生である。このドラマはそれを断罪するのではなく、だからといって完全に肯定するわけでもなく、ケアマネジャー兼トラベルヘルパーの末広涼一(荒川良々)のような絶妙な距離感で寄り添ってみせる。それは寿三郎とまゆみの会話によく表れている。
「忘れてほしくなかった。死んだらおしまいなんて悲しすぎるでしょう。あの人はひどい男だった……って、好きな人には何度も何度も思い出してもらいたかったから」
「忘れるもんですか。私が忘れても、お子さんたちが思い出すでしょう。これだけ迷惑かけたんだから」
寿三郎の身勝手な言葉は、まゆみに届いているかどうかわからない。だが、それでいいのである。
さくらがおねだりした「山賊抱っこ」
ヘルパーのさくら(戸田恵梨香)は寿一……というか、プロレスラーのスーパー世阿弥マシンに夢中になっていた。寿三郎と踊介からのLINEにはまったく反応しないのに、寿一から来たら躍り上がって喜ぶほど。しかし、寿一から来るのは「ごはんと家族ばっかり」。しびれを切らしたさくらはスーパーひたちに乗ってスパリゾートハワイアンズまでやってくる。
その直前、ついに寿一が愚痴っぽくてワガママ放題の寿三郎にキレていた。
「来るんじゃなかったは、こっちのセリフだよ、クソジジイ!」
さすがプロレスラー。あまりのド迫力にグレていたはずの寿限無がなだめに回るほど。
「お前が言うか、クソジジイ! もう嫌! もう無理! あんたが来たいっつうから連れてきてやったんじゃねえかよ!」
「来たいなんて一言も言ってねえよ! 行ってももいいよとは言ったけどな!」
さすが人間国宝。寿三郎も負けずに言い返すが、恐竜のように怒り狂う寿一は出ていってしまう。そこに突如現れたのがさくらだった。驚く寿一だが、さくらに話を聞いてもらう。
「頭ではわかってるんです。でも、どうしても期待しちゃう。これだけやってやってんのに、ありがとうの一言もねえのかよって。あげくの果てに、来たいとは言ってないって。子どもじゃあるまいし……。いつになったらさくらさんみたいに、割り切って下の世話ができるようになんのか」
どんなに世話をしても「ありがとう」の一言も言ってもらえない。おまけに子どものようなワガママを言われたりする。親の介護をする子にとって、共通の悩みなんじゃないだろうか。それに対するさくらの答えはこうだった。
「割り切っちゃったら親子じゃないですよ」
「どんなに自分を殺して割り切っても、親は親だし、子は子なんです。下の世話をしたぐらいじゃひっくり返りません。だから時々どうしようもなく悲しくなるんです」
親は親だし、子は子。第1話で寿一は「息子だから! 息子だからできねぇんだよ……。ちっくしょう」と漏らしていたが、その感想は正しかったわけだ。時々やってくる大きな悲しみを背負いながら、それでも続けていくのが介護なのだ。大切なのは、こうして時々話を聞いてくれる人なのかもしれない。
話を聞いた後は、さくらがお願いをする番。誕生日のさくらは寿一に「山賊抱っこ」をおねだりする。「抱いて」のセリフがセクシーかつ可愛らしい。抱え上げられたときのたまらなく嬉しそうな顔も良い。
爆発!「潤 沢」オンステージ
寿一には家族旅行の目的があった。それは唯一の家族旅行だったハワイ旅行以上の家族写真を撮ること。だけど、観山家は複雑な問題をあちこちに抱えていた。だけど、旅の夜、それぞれが少しずつほどけていく。
異母兄弟の寿限無は、生意気にタメ口をきく年下の踊介に本音をぶつけてビビらせる。舞は能をやめたい息子の大州の逃げ道を作ってやって一緒に笑う。寿三郎は優しい祖父思いの秀生を抱き寄せて、孫の愛情をあらためて実感する。
翌日、スパリゾートハワイアンのステージでは「潤 沢」がイベントを行おうとしていた。「潤 沢」は「純烈」が行かないスーパー銭湯をめぐって中高年女性に大人気の男性グループ。寿三郎が訪ねた豆千代もまゆみも「潤 沢」に夢中だった。
リーダーのたかっし(阿部サダヲ)は、舞が思わず「何このどうでもよさ。何この多幸感」と感心するほどのサービス満点のステージで中高年女性たちを魅了する。大河ドラマに主演しても盟友クドカンの頼みとあらば、こんな役を嬉々と演じる阿部サダヲが素晴らしい。
そうこうしているうちに、寿一、寿限無、踊介の3人は豪雪で来られなくなったメンバーの代わりにステージに立つことになる。新曲のタイトルは「秘すれば花」。作詞:なかにし札(ふだ)、作曲:筒美洋平。ふざけるときはどこまでもふざけているのがクドカンドラマだ。ご丁寧に歌詞の字幕つきで見事なショーを繰り広げる4人。「秘すれば花」は不倫を隠す男と女のようでありつつ、マスク(コロナとプロレスのダブルミーニングのよう)で隠せない承認欲求まで盛り込んだ見事な歌詞で、その上、メロディーが異様にキャッチー。
これだけでも多幸感がすごいのに、さらに寿三郎がマイクを握る。曲目は「マイ・ウェイ」。男が一生を振り返る歌だ。歌詞は布施明バージョンだった。
寿三郎を演じる西田敏行は、同じく宮藤脚本、長瀬主演のドラマ『タイガー&ドラゴン』でもマイクを握って歌を披露したことがあるが(曲目は「フランシーヌの場合」)、今回も見事な喉を披露した。寿一たちは感動してステージの寿三郎に駆け寄る。家族の集合写真は、偶然にもハワイで撮った写真とまったく同じ構図になっていた(撮ったのは陰ながら家族旅行を助けてきた末広涼一)。
→『俺の家の話』の原点!傑作ドラマ『タイガー&ドラゴン』の影響力が続く理由
2枚の写真を見比べたさくらは「こっちのほうがいい」と微笑む。まるで最終回のような多幸感あふれる終わり方だったが、介護はそんなに甘いものじゃない。秀生の学習障害の問題も再びクローズアップされそうだ。7話以降も目が離せない。
『俺の家の話』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である