介護保険料を安くする裏技「世帯分離」のメリット・デメリット
介護保険法の改正により、今年は介護保険料の値上げが予定されている。家計をじわじわ圧迫する介護保険料アップに対し、「世帯分離」という方法で保険料を抑える裏技が…。「世帯分離」とはどういうものか、どんな人がお得になるのか? ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんが解説する。
【目次】
「世帯分離」のメリット…介護保険料が得する!
介護のために親と同居している人、高齢の父母と一緒に住んでいる。そんな人は、親が支払う介護保険料の負担を軽減するために「世帯分離」という方法がある。介護保険料が値上がりする中、該当する人は検討してみるといいだろう。
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「世帯分離」とは
「世帯分離」とは、同居をしたままで住民票の世帯を分けること。
高齢の親と現役世代の子が同居している場合、子が住民税課税されていても、親が年金収入などで所得が80万円以下なら、親だけの世帯に分離することで、親の世帯が非課税世帯となり、介護保険料を安くすることができる。
ちなみに、介護保険制度では、介護保険サービスの対象となる65歳以上の「第1号被保険者」と、40~64歳の「第2号被保険者」に分かれる。
「第1号被保険者」は、市区町村民税が課税されているかどうか、年金等の収入額などによって、介護保険料が段階的に上がる仕組みになっている。
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「世帯分離」で得するのはどんな人?
65歳以上の親と子の同居世帯の場合(東京・新宿区の基準で計算)で考えてみると、
【1】親の所得が80万円以下で世帯全員が住民税非課税の場合、
基準額(月額6200円)の0.25倍で、月額支払保険料は1550円、年額は1万8600円となる。
【2】親の所得が80万円以下で住民税非課税でも、世帯に住民税課税者がいる場合は、
基準額の0.8倍となり、月額支払保険料は4960円、年額は5万9520円となる。
このように、親の条件が同じでも、世帯の誰かが住民税課税者の場合は、月額3000円以上、年額では約4万円以上も保険料の支払額が増えてしまう。
【2】のケースで「世帯分離」をすると、親は非課税世帯となる。つまり、年額5万9520円だった介護保険料が、年額1万8600円で済み、大幅に介護保険料を下げられるというわけだ。
高額介護サービス費の負担額も軽減
介護費用や医療費が高額になったときに上限額を超えた分が還付される「高額介護サービス費」「高額医療費」も、世帯に住民税課税者がいるかどうかで自己負担額の上限が決まる。そのため、「世帯分離」をして親が非課税世帯となれば、介護費用や医療費の自己負担額が抑えられる。
「世帯分離」のデメリットに注意
「世帯分離」は、介護保険料を大幅に下げることができるが、デメリットもあるので注意したい。
子が会社員で親を扶養に入れていて、国民健康保険料や介護保険料の支払いが不要となっている場合は、「世帯分離」してしまうと、親の保険料の支払い負担が増える可能性も。
親を扶養している子が40歳未満(介護保険の非対象者)の場合、会社によっては扶養している親の分の介護保険料を支払う必要が生じるケースも。
ただし、65歳以上の年金受給者は、保険料が年金から天引きされる。さらに、75歳以上は、後期高齢者医療制度に切り替わり、保険料は同じく年金から天引き、被扶養者から外れることになる。
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親世帯の所得が低い場合は「世帯分離」がおすすめ
親世帯の所得水準が低い人は、介護保険料の負担を下げるのはもちろん、介護費や医療費が高額になる場合は、「世帯分離」をしたほうが得になるケースが多い。
また、「世帯分離」しても税制上の扶養の条件を満たしていれば、扶養控除は受けることができる。
なお、「世帯分離」をするには、市区町村に住民票の異動に関する届出を出すことで手続きができ、不都合が生じた場合は、世帯合併をして元に戻すことも可能だ。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。
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