高齢だから歯周病で歯を失うは誤解!ハーバード大で予防医学を学んだ医師が推奨する<歯の健康を守る生活習慣>
歯を失う原因として最も多いとされる「歯周病」。自覚症状がほとんどないまま進行し、重症化すると歯を失うリスクも。加齢によるものと考えがちだが、実は生活習慣が大きく関係しているという。その予防法について、専門家に話を聞いた。
教えてくれた人
室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、大岡洋さん/歯科医・大岡歯科医院院長
歯の老化を早める習慣/遅らせる習慣
さまざまな老化現象を“克服”する研究が世界中で進んでいる。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは言う。
「近年は世界的に老化研究の進歩が目覚ましい。2020年以降は抗老化(エイジングケア)から一歩進み、動物実験などによって“若返り”の可能性が科学的に証明され始めています。米ハーバード大医学大学院教授で、長寿と加齢研究の世界的権威であるデイビッド・シンクレア氏の提唱した『老化は治療や予防が可能な病である』との考え方が広まりつつあるのです」
今年2月に英オックスフォード大の研究チームが「老化を左右するのは遺伝よりも生活習慣」とする研究報告を学術誌に発表した。
「約50万人のデータを解析したところ、遺伝要因が寿命に与えた影響が2%未満だったのに対し、生活習慣を含む環境要因は17%でした。体に良い習慣を日常生活に取り入れることで長生きの可能性が高まるというシンプルながら重要な指摘です」(室井さん)
「歯の老化を早める習慣/遅らせる習慣」について専門医が紹介する。
歯周病で歯を失うのは年齢のせいではない
歯の健康を損ない、入れ歯を利用する人は多い。むし歯など原因は様々だが、歯を失う原因で最も多いのが「歯周病」だ。
ハーバード大学大学院で、日本人歯科医として初めて予防医学の学位を取得した大岡歯科医院の大岡洋院長が指摘する。
「『年を取れば歯周病になり歯を失うのは仕方がない』と考えるのは大きな誤解です。実は歯肉(歯茎)は生涯にわたり老化しない稀有な組織。皮膚の約3倍の速さで細胞が入れ替わるほど高い再生能力を持っており、年齢に差はありません。そもそも酸が歯を溶かし神経を侵食するむし歯と、細菌による毒素が歯肉に炎症を起こし、歯を支える骨まで溶かす歯周病は別の病気です。
がんと同様、末期まで症状が出ず進行するため、自分が歯周病だと認識していないことが多い。歯周病菌が歯肉から全身の血管に移動することで動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞など突然死のリスクがあることもわかっています」(以下、「」内は大岡院長)
1日3回5分より 就寝前に15分のブラッシング
歯周病予防には歯茎の健康が欠かせない。そのための絶対条件が「口内を清潔に保つこと」だ。
「歯の表面をツルツルに磨くイメージの“歯磨き”ではなく、歯と歯肉の境目を“ブラッシング”する意識を持つことが重要です。汚れを取り除くだけでなく、“歯肉のマッサージ”を意識することで血行が促進され、歯肉が引き締まります」
その際、ブラッシングの回数や時間の長さにこだわるよりも集中して行なうことが大事だという。
「一日3回5分ずつのブラッシングより、就寝前の15分に集約しましょう。細菌が最も増殖するのは抗菌作用がある唾液が減少する就寝中なので、就寝前に口内の汚れを取り除くのが最も効果的だからです。ブラッシング中は鏡を見て、長年染みついたクセに戻っていないかを確認しながら行なうのが望ましいでしょう。長年の習慣でパターン化された手の動きを修正することができます」
歯ブラシは「やわらかい」より「ふつう」を
歯ブラシの選び方も重要だ。
「大事なのがブラシの硬さです。『ふつう』を選んでください。出血を怖がって『やわらかめ』を選ぶ人が多いのですが、コシがないので歯肉をマッサージする効果が得られず、汚れも落とせない。毛先が細かい『超極細毛』も同じくコシがなく、毛先で歯肉を傷つけてしまうので避けたほうがいい」
ブラッシングの際は歯磨き粉に頼りすぎてはいけないと大岡院長は言う。
「歯磨き粉の泡立ちやミントの風味で爽快感があると『キレイになった』と錯覚しがち。あくまでブラッシングの補助と考えてください」
「歯周病」を早める習慣・遅らせる習慣リスト
<老化を早める習慣>
・やわらかめや極細毛の歯ブラシを使う
コシがなく汚れが落ちず、歯肉をマッサージする効果が得られない
・歯磨き粉に頼りすぎる
爽快感から磨いた気になってしまう。あくまで補助的なものと考える
<老化を遅らせる習慣>
・ガムを噛む
細菌の自浄作用を持つ唾液の分泌を促す
・鏡を見ながら歯磨きをする
手や口の感覚に頼らず、歯のどこにブラシが当たっているかを確認しながら磨くと効果が上がる
※週刊ポスト2025年7月11日号
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