年金受給者の確定申告|確定申告不要制度はあるが、申告しないと損する7つのケース
年金受給者は年金の金額や収入によっては確定申告をしなくてよい「確定申告不要制度」があるが、実は確定申告することで払いすぎた税金が返ってくるケースがあるので覚えておきたい。どんな場合に確定申告すべきなのか、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんが解説する。
年金の確定申告不要制度とは?
1月は公的年金の源泉徴収票が届く。インターネットによるe-taxなら郵送などによる確定申告より1か月ほど早く、1月6日から開始され、還付金もその分早く受け取れるので、確定申告をする場合は、早めがおすすめだ。
年金受給者は、高齢者の負担を減らす目的から「確定申告不要制度」が適用される。確定申告が不要となるのは、公的年金額が年間400万円以下、かつ公的年金以外の所得が20万円以下の場合だ。
しかし、「保険料を支払っている」「医療費がたくさんかかった」という人は、確定申告をすることにより税金が返ってくる可能性がある。
※政府広報オンライン「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201212/1.html#koteki
年金から税金は源泉徴収されている
国から支給される年金(公的年金)とは、国民年金、厚生年金、共済年金、企業から支払われる年金等を指し、確定拠出年金であるiDeCo、DCなども含まれる。
これらの公的年金は、受け取り時に公的年金等控除などの控除額を差し引いた金額から、5.105%(※)分を所得税として納める必要がある。これを源泉徴収という。
※令和19年末までは復興特別所得税0.105%が含まれている。
→働くほど減る「老齢年金」法改正で年金が減る人、減らない人の違いは?
そもそも年金の確定申告は必要?
1月に届く「公的年金等の源泉徴収票」を確認してみよう。
(1)の所得が400万円以下、
(2)「源泉徴収税額」部分に記入されている金額が0円の場合
は、確定申告は不要となる。ここに金額の表示がある場合、確定申告により収めすぎた税金の還付を受けられる可能性がある。
しかし、確定申告により税金の還付を受けられることがあるので要チェックだ。以下を確認してみよう。
確定申告しないと損するのはどんな人?
年金控除や配偶者控除など、あらかじめ控除されているもの以外に、確定申告することで払いすぎた税金が戻ってくる可能性がある。控除の対象となるのは、以下のようなケースだ。
1.家をローンで購入・リフォームした人
家を購入またはリフォーム時、住宅ローンを借りたときに「住宅借入金等特別控除」「特定増改築等住宅借入金等特別控除」により所得税・住民税を直接減らすことができる。会社員等の給与所得者は初年度のみ確定申告が必要だが、年金受給者は毎年確定申告が必要だ。
2.夫や妻との死別など家族構成が変わった人
源泉徴収票に記載されている扶養家族をもとに、源泉徴収額が決められている。票の記載と違う場合や、扶養家族に変更があった場合には確定申告が必要です。
3.災害や盗難にあった人
災害、盗難などで資産に損害を受けた場合には、「雑損控除」という所得控除を受けられる。ただし、保険金で補てんされる分や、詐欺や恐喝による損害は控除の対象にならない。
1.損失額-総所得金額×10%
2.損失額のうち災害関連支出(取壊し、除去費用など)-5%
いずれか多い方を選択し、所得税から控除できない場合には3年間繰り越すことも可能だ。
または、災害減免法による所得税軽減制度もある。災害による損失が時価の2分の1以上かつ所得金額が1000万円以下の場合に所得が500万円以下なら所得税全額免除される。併用はできないため、どちらか有利な方を選択。
4.ふるさと納税をした人
年金受給者でも所得に応じた上限額までのふるさと納税なら、自己負担額2000円を除いた金額が税額控除される。ただし、上限を超えた寄付は超えた分が全額自己負担になってしまう。また、他の医療費控除などの所得控除との兼ね合いで上限額が減り自己負担となってしまうこともあるため注意が必要だ。『さとふる』サイト※では、年金受給者のシミュレーションが可能だ。
※参考/所得が年金の方、自営業者の方のふるさと納税控除上限額について | ふるさと納税サイト「さとふる」 (satofull.jp)
https://www.satofull.jp/static/limit.php
5.民間の生命保険等の保険料を支払った人
生命保険、医療保険に加入し、保険料を支払っている場合は、控除対象となる。民間の保険は、契約日により「旧契約」と「新契約」があり、それぞれ控除額が変わる。保険料控除については、年末までに届く保険料払込証明書をもとに計算されるので大切に保管しておこう。
また、保険の種類によって適用対象になる保険料控除が異なる。控除の対象となる保険は、以下のようなものがある。
・一般生命保険料:死亡保険、定期保険、終身保険、学資保険、養老保険、収入保障保険
・介護・医療保険料:医療保険、医療終身保険、がん保険、介護保険
・個人年金保険料:個人年金保険※
※「税制適格特約」の条件を満たした場合。それ以外は生命保険料控除となる。
→人生100年時代の介護とお金|認知症介護はいくらかかる? 必要な保険とは?
6.医療費をたくさん支払った人
医療費控除は、自己負担した医療費が一定金額を超えると、超えた分を所得から控除できる。
・医療費控除の対象となる金額(最高200万円まで)
=医療費−保険などで補てんされた金額−10万円
もしくは総所得が200万円未満の方は総所得の5%
医療費はあくまでも自己負担となった金額で、医療保険などで補てんされた金額や、医療費で還付されたものは控除対象に加算できない。
→介護費の確定申告と医療費控除|紙おむつ・はり治療は申告できる?
7.一般用医薬品の購入費が1万2000円を超えた人
・セルフメディケーション税制を利用。
生計が1つになっている(扶養している必要はなし)配偶者や親族のために、薬局等で販売されている一般用医薬品等の購入で支払った金額が1万2000円を超える部分(8万8000円が限度)を所得から控除できる。医療費控除の対象金額に医療費が達しないときなどに利用するのがおすすめで、医療費控除と併用することはできない。
セルフメディケーション税制とは?
以下の条件を満たし、医薬品費に1万2000円を超えている場合に利用できる。
1.健康診断等の健康への一定の取組を行っていること
・健康診査
・予防接種(インフルエンザワクチンも含む)
・特定健康診査、特定保健指導
・がん検診
2.薬局などでの市販医薬品の購入
セルフメディケーション税制対象の医薬品は、スイッチOTC医薬品といい、もともと病院などで処方される医薬品として使われていた成分を薬局などで販売できる一般医薬品として転換されたもので、風邪薬、胃腸薬、解熱鎮痛剤などがある。対象医薬品には「セルフメディケーション税制対象」マークがパッケージに記載されている。また、薬局で受け取るレシートには、対象医薬品の名前の頭に◎や★などのマークが記載されているのが目印だ。
※参考/No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】|国税庁 (nta.go.jp)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
年金生活者とはいえ、保険料や医療費などさまざまな支払いをしているなら、確定申告によって払いすぎた税金を取り戻せるかも…。これを機に管轄の税務署に確認してみてはいかがだろうか。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。
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