毒蝮三太夫が伝授。ラジオ中継で培った困った発言の受け止め方【第12回 絶妙な返し】
高齢者との会話には、唐突に死についての話題が飛び出すなど、「これはどう返せば……」と言葉に詰まってしまう状況が訪れる。相手を大切にしたい、やさしく接したいと思っているからこその戸惑いだが、そんなピンチをどう無難に乗り越えればいいのか。“ジジババ”コミュニケーションの達人である毒蝮さんに、技と心がまえを教わろう。(聞き手・石原壮一郎)
「生きていれば、また俺と会えるよ」
年寄りってさ、子どもや孫の前で、いきなり「もう俺も長くないから」とか「早くお迎えが来てほしいわ」なんて言い出すことがあるじゃない。こっちとしてはギクッとするよな。「そうだね、早く来るといいねえ」なんて言えないしさ。
ラジオの中継現場でも、そんなこと言い出すジジイやババアが時々いるんだよ。俺の場合はみんなをしんみりさせてもしょうがないから、「遠慮しないで、いつ行ってもいいよ」なんて言っちゃうけど、そのあとで必ず、フォローを入れてる。
「生きてれば、そのうちまた俺と会えるんだから」
「生きてるから、こうして俺と会えたわけだろ」
なんてね。今の時期だったら「生きてればまた満開の桜も見られるし、夏には東京オリンピックだって見られるんだから」でもいい。孫だったら「来月また来るから元気でいてね」なんてのがいいんじゃねえか。「私の成人式は見てくれないと困るんだから」って何年か先の目標を言ってあげても、きっと喜ぶよ。
そういえばある病院の先生は、認知症が進んでいる相手には、あんまり遠い目標じゃなくて、明日とか明後日とか、身近なことを話してあげたほうがいいって言ってた。「明日は散歩に行こう」とかね。そのへんの加減が難しいな。
でもね、年寄りは若い世代よりも死が身近にあるから、「もう長くない」なんて言い出しても、そんなに深刻に受け止めなくてもいいんだよ。口ぐせみたいなもんだ。それと、たぶん「かまってほしい」って気持ちもあるんじゃないかな。
男と付き合ってる女が、相手の気を引こうとして、ほかの男のことを言ったりするじゃない。あれと同じだ。そうかばあちゃん寂しいんだな、かわいいなと思って、「まだまだ元気でいてもらわないと」ぐらい言ったっていいじゃねえか。「そんなこと言っている人は、長生きするんだよ」って言い方でも、嬉しいもんさ。
あんまりしょっちゅう言い出す場合は、日頃の接し方を見直してみたほうがいいかもしれない。誰も話を聞いてやらないとか、いつも部屋にポツンと置き去りにしてるとか、邪険にしてるのが態度に出ちゃってるとか、そういうことがあるかもな。
ほら、恋人同士だって、相手が近ごろ冷たいなって感じたら、あの手この手で振り向かせようとするじゃない。これを読んでくれてる人たちは、そんなことしてもらった覚えなんて、どうせもう何十年もないだろ。ま、俺は生まれてこの方覚えがないけどな。疑似体験だと思って楽しめばいいよ。
年寄りにズケズケ言われたら、「そうだねえ…」って話を濁すのも手
あと反応に困ると言えば、若い夫婦に対する「子どもはまだか」とか「早く2人目を作れ」なんていう大きなお世話のアドバイスだよな。それぞれ夫婦の事情や考え方があるんだから、いろいろ言われたらうっとうしいしカチンとくる。
もちろん、ズケズケと聞いてしまう年寄りが無神経なんだけど、ムキになって怒るのもどうかと思うね。たまに会って、必死で共通の話題を探してくれたのかもしれないしさ。価値観が違うのは、生きてきた時代が違うんだからしょうがない。「そうだねえ、こればっかりはねえ」って話を濁しておけば、年寄りはある程度は満足すると思うよ。
年寄りとはわかり合えない部分もけっこうあるけど、いいんだよそれで。議論してるわけじゃないんだから。武者小路実篤も言ってたけど、「年寄りは年寄り、我は我なり。されど仲良き」でいこうじゃねえか。ちょっと違ったかな。
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではまむしさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治
第1回 ありがたい存在
第2回 ヨイショ
第3回 みんな図書館
第4回 戦争体験
第5回 高齢者との付き合い方
第6回 日野原重明さんに教えてもらった大切なこと
第7回 親との正月
第8回 寅さんと俺
第9回 妻へのハガキ
第10回 妻とのなれそめ
第11回 かける言葉