小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
ニュース

毒蝮三太夫が伝授。ラジオ中継で培った困った発言の受け止め方【第12回 絶妙な返し】

 高齢者との会話には、唐突に死についての話題が飛び出すなど、「これはどう返せば……」と言葉に詰まってしまう状況が訪れる。相手を大切にしたい、やさしく接したいと思っているからこその戸惑いだが、そんなピンチをどう無難に乗り越えればいいのか。“ジジババ”コミュニケーションの達人である毒蝮さんに、技と心がまえを教わろう。(聞き手・石原壮一郎)

→第11回を読む

「生きていれば、また俺と会えるよ」

 年寄りってさ、子どもや孫の前で、いきなり「もう俺も長くないから」とか「早くお迎えが来てほしいわ」なんて言い出すことがあるじゃない。こっちとしてはギクッとするよな。「そうだね、早く来るといいねえ」なんて言えないしさ。

 ラジオの中継現場でも、そんなこと言い出すジジイやババアが時々いるんだよ。俺の場合はみんなをしんみりさせてもしょうがないから、「遠慮しないで、いつ行ってもいいよ」なんて言っちゃうけど、そのあとで必ず、フォローを入れてる。

「生きてれば、そのうちまた俺と会えるんだから」
「生きてるから、こうして俺と会えたわけだろ」

 なんてね。今の時期だったら「生きてればまた満開の桜も見られるし、夏には東京オリンピックだって見られるんだから」でもいい。孫だったら「来月また来るから元気でいてね」なんてのがいいんじゃねえか。「私の成人式は見てくれないと困るんだから」って何年か先の目標を言ってあげても、きっと喜ぶよ。

 そういえばある病院の先生は、認知症が進んでいる相手には、あんまり遠い目標じゃなくて、明日とか明後日とか、身近なことを話してあげたほうがいいって言ってた。「明日は散歩に行こう」とかね。そのへんの加減が難しいな。

 でもね、年寄りは若い世代よりも死が身近にあるから、「もう長くない」なんて言い出しても、そんなに深刻に受け止めなくてもいいんだよ。口ぐせみたいなもんだ。それと、たぶん「かまってほしい」って気持ちもあるんじゃないかな。

 男と付き合ってる女が、相手の気を引こうとして、ほかの男のことを言ったりするじゃない。あれと同じだ。そうかばあちゃん寂しいんだな、かわいいなと思って、「まだまだ元気でいてもらわないと」ぐらい言ったっていいじゃねえか。「そんなこと言っている人は、長生きするんだよ」って言い方でも、嬉しいもんさ。

 あんまりしょっちゅう言い出す場合は、日頃の接し方を見直してみたほうがいいかもしれない。誰も話を聞いてやらないとか、いつも部屋にポツンと置き去りにしてるとか、邪険にしてるのが態度に出ちゃってるとか、そういうことがあるかもな。

 ほら、恋人同士だって、相手が近ごろ冷たいなって感じたら、あの手この手で振り向かせようとするじゃない。これを読んでくれてる人たちは、そんなことしてもらった覚えなんて、どうせもう何十年もないだろ。ま、俺は生まれてこの方覚えがないけどな。疑似体験だと思って楽しめばいいよ。

年寄りにズケズケ言われたら、「そうだねえ…」って話を濁すのも手

 あと反応に困ると言えば、若い夫婦に対する「子どもはまだか」とか「早く2人目を作れ」なんていう大きなお世話のアドバイスだよな。それぞれ夫婦の事情や考え方があるんだから、いろいろ言われたらうっとうしいしカチンとくる。

 もちろん、ズケズケと聞いてしまう年寄りが無神経なんだけど、ムキになって怒るのもどうかと思うね。たまに会って、必死で共通の話題を探してくれたのかもしれないしさ。価値観が違うのは、生きてきた時代が違うんだからしょうがない。「そうだねえ、こればっかりはねえ」って話を濁しておけば、年寄りはある程度は満足すると思うよ。

 年寄りとはわかり合えない部分もけっこうあるけど、いいんだよそれで。議論してるわけじゃないんだから。武者小路実篤も言ってたけど、「年寄りは年寄り、我は我なり。されど仲良き」でいこうじゃねえか。ちょっと違ったかな。

■今回の極意

→第11回を読む

毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう) 

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう) 

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではまむしさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

前の話を読む   ▶次の話を読む

このシリーズを読む

第1回 ありがたい存在
第2回 ヨイショ
第3回 みんな図書館
第4回 戦争体験
第5回 高齢者との付き合い方
第6回 日野原重明さんに教えてもらった大切なこと
第7回 親との正月
第8回 寅さんと俺
第9回 妻へのハガキ
第10回 妻とのなれそめ
第11回 かける言葉

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

最新介護ニュース
最新介護ニュース
介護にまつわる最新ストレートニュースをピックアップしてご紹介。国や自治体が制定、検討中の介護に関する制度や施策の最新情報はこちらでチェックできます!
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。