久しぶりに会う実家の親とどう話す?毒蝮三太夫が指南【第7回 親との正月】
もうすぐお正月。実家に帰省して久しぶりに会った親とは「無駄な話をしろ」と毒蝮さんは言う。スタートして50年を超えたラジオの生中継番組では、今週も「ジジイ、ババア」と愛ある毒舌が炸裂し、会場に集まった高齢者が大喜びしている。高齢者の機微を深く知る毒蝮さんの言葉から、親子の望ましいコミュニケーションのあり方を探ってみよう。(聞き手・石原壮一郎)
実家への手土産は“面白い話”を
2019年も、あと少しで終わっちまうな。今年は、何度も大きな台風が来た。被害を受けた地域の人たちにとっては、つらい年の瀬になったなあ。大丈夫だった地域の人も、人ごとだと思っちゃいけない。被害を受けた地域の人たちは、何ともなかった自分たちの分まで苦労を背負ってくれたんだ。「助け合い」が大事っていうのは、そういうことなんだよ。
でもって来週には、もう正月がやってくる。正月には実家に帰って、久しぶりに親の顔を見るっていう人も多いだろう。親もきっと楽しみにしてるよ。だけど、実際に顔を合わせると、どんなことを話していいかわからないんだよな。親が何度も聞いた話をはじめて「前も聞いたよ!」なんて言っちゃったりね。
親子の会話なんて、中身がなくていいんだよ。同じ場所にいてお互いに顔を見て、話をすることが大事なんだ。最初から「無駄な話をしに行く」と思えば、気が楽になるし腹も立たないんじゃないかな。同じ話を何度も聞いてやるのも、たまに会う子どもの務めだよ。
そういえば、ある年寄りがこんなこと言ってたな。「人の家に行くときは、面白い話をひとつ持っていくのが何よりの手土産だ」って。実家だってそうだ。手土産は手土産で、菓子折りのひとつも持っていったら親も嬉しいだろうけど、面白い話も持っていきたいね。
そんなたいそうな話じゃなくていいんだよ。ゴルフでブービー賞をもらったとか、このあいだ見たテレビ番組が面白かったとか、近所にうまい店ができたとか。それだって無駄といえば無駄な話だけど、「そうかい。そりゃよかった」と言うほうも言われるほうも、ちょっと嬉しい気持ちになれる。それが会話の良さってもんだ。
「正月は親に必ずねぎらいの言葉を言うべし」
それと、当たり前だけど、親はどんどん歳を取って弱っていく。親が元気なうちはこっちが心配される側だったから、その癖が抜けないというか、テレ臭さが先に立って「いつまでも元気でいてね」「長生きしてくれないと困るよ」なんてセリフが、なかなか言えない。まあ、俺もそうだった。
でも、どんどん言ったほうがいい。親子の関係でも、気持ちは言葉にしなきゃダメ。「言わぬが花」や「目は口ほどにものを言うとか」は、もう古い。来年は言えないかもしれないんだから。面白い話を持っていけなくても、ねぎらいの言葉があれば大丈夫。「正月は親に必ずねぎらいの言葉を言うべし」って、国会で決めてほしいね。
場合によっては、親が認知症が始まってるなんてこともある。そうなると、何を話していいのか余計に難しいよな。ある人に教えてもらったんだけど、記憶には誰もが知ってる出来事を記憶する「一般記憶」と、その人にしかわからない「エピソード記憶」があるらしい。昨日何を食べたかとか、どこへ行ったかなんてのはエピソード記憶だな。
こっちは知らないけど本人は知ってる話を聞くと、きっと得意気に話してくれる。幼い頃にどこに連れて行ってくれたとか、こんな子どもだったとか、そういうことを話させてやるといいんじゃないかな。「そうだったのかー」なんて感心すれば、ますます張り切っちゃうよ。薬飲んだり医者行ったりするより、よっぽどいい治療になるんじゃないの。
ねぎらいの言葉にせよ昔の話にせよ、まずは「今日は寒いね」「このたくあんうまいね」なんて無駄な話から徐々に入っていく。最初から「よし、親孝行につながる会話をするぞ」って身構えたんじゃ、いかにも取って付けたみたいになるし、親だって警戒しちゃうよ。正月はたっぷり無駄な話をして、親との大事な時間を満喫してほしいね。
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治