要介護4の父を在宅介護中の吉田潮さん、介護食づくりは楽しいが排泄介助で痛感した「人間は1本の管である」
ドラマ評論家でコラムニストの吉田潮さんは、施設で暮らしていた要介護4の父(84才)を実家に迎え入れた。姉でイラストレーターの地獄カレーさん、認知症を抱える母とともに、在宅介護が始まったのだが、医療ケアや排泄ケアなど初めてのことに直面し――。【全3回/第3回】
教えてくれた人/吉田潮さん
吉田潮(よしだ・うしお)ライター・イラストレーター・コラムニスト。
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業。健康誌や女性誌の編集を経て、2001年よりフリーランスライターに。週刊新潮、東京新聞、小学館kufura、NHKステラnet,、プレジデントオンラインなどで、主にテレビドラマのコラムを連載・寄稿。NHK「ドキュメント72時間」の番組紹介イラストコラム「読む72時間」(X)や、「聴く72時間」(Spotify)を担当。著書『くさらないイケメン図鑑』、『産まないことは
父の在宅介護、初めてのことに戸惑いも
姉は一度決断したことは揺らぎません。長らく施設で暮らしていた父でしたが、弱っていく父を間近で見ていて「家で看取る」ときっぱり。姉は介護施設で働いた経験があり、寝たきりの人を見るのは初めてではないし、多少の経験がありました。たけど、私はほぼ初めてのことばかりで…。
認知症が進み、皮膚の難病をきっかけに体が弱り、要介護4となった父。ほぼ寝たきりの父の在宅介護では、流動食づくり、排泄介助、たん吸引も必要です。
父は皮膚が弱く、左手に拘縮もあるので、それを毎日ほぐしたり、丁寧に洗ったり、初めてのことばかりで最初は戸惑いましたが、訪問介護士さんや看護師さんに、丁寧に教えてもらいながら、少しずつできることが増えていきました。
介護食づくりは意外と楽しい
口で食べられなくなったら延命措置はしない、と家族で合意して在宅看取りを決めたので、口からなんとか食べてもらうための食事づくり、これは結構楽しんでやっています。
私も姉も食べるのが大好きだし、父もそう。私たちと同じものを食べてもらうので、父にはミキサーで流動食にして、とろみをつけたりしています。
母も協力してくれる父の食事介助では、「今日なんだと思う? ハンバーグだよ」とか、父に話しかけながらスプーンで口に運びます。すると父は、うなずくような時もあるし、大きく口を開けてくれる。
そうそう、父は甘党なんですよ。先日、冷やし焼き芋とバームクーヘンを混ぜてミキサーにかけて、「焼き芋バームクーヘンだよ~」と言って、食べさせてあげると、すごく柔らかい表情になりました。
誰だって好きなものを食べると、ほっこりした表情になりますよね。ほぼ寝たきりで会話ができなくなってしまった父ですが、おいしいものを食べたときはいい表情になる。そういう父の姿を見ると、「ああやっぱり食べるのが好きなんだな」となんだか嬉しくなります。
排泄介助で感じた「人間は1本の管である」
食事をすれば排泄があるのが人間です。父は高齢ですが体が大きいのもあり、排泄物もなかなかの量。朝起きた瞬間、「ん?やってる?」って布団をめくってみると、便がバーっと広がっていることも。
綺麗に掃除して、体を拭いて肌に薬も塗って、よし終了と思った瞬間、きれいになって気持ち良くなったから、またドバドドバッと…。噓でしょ、と。
流動食を食べているからなのか、緩めの便がトータルで800mlほど。こういう場合の排泄介助には1時間以上かかってしまいます。食べたら、出る。「人間は1本の管なのだ」と、父を見て思いました。
たん吸引は「最初はとても怖かった」
父の在宅介護で一番怖かったのは、たん吸引※です。たんを吸引するためのチューブを口の中に入れるとき、うまくいかないと出血するリスクがあります。
看護師さんに教えてもらいながら、最初はおっかなびっくりやっていまけど、1か月くらいで慣れました。
父は食べることが好きだからか、チューブを口に近づけると、食べ物だと思うのかパーンって口開けてくれるんです。だからやりやすい(笑い)。
たん吸引は、基本的に起床時・就寝前・就寝中、食事の前と後に行うので、3〜4時間に1回の頻度です。やってあげると、やっぱり気持ちよさそうなんですよね。
※たん吸引(かく痰)は医療行為なので、医師や看護師、研修を受けた介護福祉士しか行なえない。在宅介護では特例として医師や看護師の指導の元、家族が行うことが認められている。
訪問スタッフのケアに支えられて…
在宅介護は始まって最初の2週間は、訪問看護師さんが毎日来てくれました。傷口の手当てや、浣腸、服薬などといった細やかなケアの方法を私たちに見せて教えてくれました。そのほかにも、医師の往診、訪問介護スタッフによる訪問入浴、薬剤師さんも訪問して薬について指導してくれます。ケアマネジャーさんの采配で、プロにお願いできるサービスはすべて活用しています。
あるとき、夜に熱が38度2分まで上がったことがありました。焦ったけど、24時間いつでも連絡をしていい契約なので、訪問看護師さんに電話をして、対処の仕方を教えてもらいました。体のどの部分を冷やせばいいのか、解熱剤が口から飲めるか、飲めない場合は座薬を入れることなど、細かく丁寧に教えてくれました。訪問医や看護師さんは、電話対応だけでなく、必要に応じて駆けつけてくれます。
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施設から入院を経て、在宅介護に切り替えてから約●か月(ご確認です)。最初は大変だった介護も、だいぶ慣れてきてスムーズに進むようになってきました。
父は施設や病院にいた時より顔色が良くなって笑顔も増えました。父と実家で過ごす時間があとどのくらい続くのかはわかりませんが、在宅介護の選択をしたことは、間違っていなかったと思っています。
写真提供/吉田潮さん 取材・文/吉河未布