「記憶力がすごいマムシさん、頭脳明晰の秘訣を教えて」89歳の毒蝮三太夫が勧める頭を鍛える習慣|「マムちゃんの毒入り相談室」第74回
仕方のないことだが、親はどんどん老いていく。近ごろ忘れっぽくなった父親にがっかりしている60歳の女性。同年代のマムシさんの記憶力のすごさや変わらない頭脳明晰っぷりに感心し、その秘訣を尋ねる。「ホメてくれるのは嬉しいけど、誰かと比べて嘆くのは気の毒だ」と言いつつ、お勧めの“習慣”や娘にできることを提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「マムシさんは頭脳明晰なのに父は忘れっぽくて悲しい」
もうすぐ「終戦の日」だ。昔、永六輔さんに教えてもらったんだけど、「8月は、6日、9日、15日」という五・七・五がある。平和な時代に生きているからこそ、この3つの日のことを忘れちゃいけない。
今年は80年の節目ってこともあって、6日の広島と9日の長崎の平和祈念式典は、いつも以上にグッと胸に来るものがあったな。8月15日も、あの悲惨な戦争の犠牲になった多くの人たちを悼んで、平和への感謝と祈りをしっかり捧げようじゃないか。
オレも数少なくなった戦争体験者として、機会あるごとに戦争の悲惨さや理不尽さを語り継いでいくつもりだ。それが元気に生かしてもらっている自分の使命だと思ってる。
今回は、オレと同年代のお父さんを持つ60歳のパートの女性からの相談だ。
「いつも毒蝮さんのYouTubeチャンネル『マムちゃんねる』を拝見しています。ゲストの方とのトークに笑ったり感心したり。とくにもう何十年も前のエピソードは知らなかったことばかりで、とても楽しいです。それにしても毒蝮さんのお話には、固有名詞や具体的な状況がよどみなく出てきて、記憶力がすごいですね。見習いたいです。
マムシさんとほぼ同い歳の私の父と比べるのも恥ずかしいですが、あまりに違うので、そのお元気の秘訣をぜひ教えてください。父も昔話はよくして、戦時中のことなど昨日のことのように話すのですが、最近のことはすぐに忘れてしまうようです。
認知症ではないと思うのですが、先日も父の誕生日食事会で、昨年行ったお店の話をしたらすっかり忘れていてがっかりしました。昨年の誕生会では、涙を流すほど喜んでくれたのに! 父親も年を取たんだなとあらためて感じて、娘としては悲しかったです。
かくいう私も忘れっぽさは年々増していて、人のことは言えません。いつまでも頭脳明晰でいるために日頃から心がけていることはありますか?」
回答:「忘れっぽくなるのは仕方ない。お父さんに昔話をたくさん聞いてあげるのは脳の刺激になるらしいよ」
いやいやいや、嬉しいこと言ってくれるね。「マムちゃんねる」も、見てくれていてありがとう。オレとほぼ同い年のお父さんも、戦争を体験しているわけだ。その話もちゃんと聞いてあげてるんだから、いい娘さんだよ。
こう言っちゃ失礼かもしれないけど、年齢を重ねたお父さんが忘れっぽくなったのは、まあ仕方ないよ。人間は老いには逆らえない。オレのことをホメてくれるのは嬉しいけど、誰かと比べて「どうしてウチの親は」と嘆いたら気の毒だ。
俺はずっとこういう仕事をしてるから、昔のことを人前で話す機会も多いし、いろんな人に会って話を聞いてきた。その分、固有名詞やエピソードも頭にたくさん入っているかもしれない。関係ないかもしれないけど、もともと歴史が好きだったしね。
だけど、オレはオレ、お父さんはお父さんだよ。あなたがお父さん思いだってことは、文面から伝わってくる。お父さんが心配で、いつまでも元気でいて欲しいと思うから、こうして相談してくれてるわけだよな。今でも誕生日の食事会に一緒に行けるんだから、たいしたもんだ。まずは、ありのままのお父さんをホメてあげようじゃないか。
認知症予防っていうか、頭を鍛えるのにお勧めなのは「写経」だな。オレもコロナ禍のときに始めて、ほぼ毎日やってる。机に向かって集中して、般若心経を一文字ずつ書いていくと、不思議と心が落ち着く。ま、長くやっていても3枚に1枚ぐらいは失敗しちゃうんだけどね。いくつになっても煩悩が多いのかもしれないな。ハハハ。
ま、オレには写経が合ってたけど、若い頃に好きだった映画を観たり、まだ食べたことがないものを食べに行ったり、古い友だちと話したりするのもいいだろうね。前にも言ったけど、頭の働きを維持するためには、日々「3つのベル」を鳴らすことを心がけてほしい。つまり「しゃべる、食べる、調べる」だ。
娘として、やってあげられることもある。それは、お父さんに昔の話をたくさん聞いてあげることだ。戦争中のことでもいいし、子どもの頃に何をして遊んだとかもいいね。お母さんがご存命なのかどうかは書いてないからわからないけど、お母さんとのなれそめや若い頃どんなところでデートしたなんて話も聞いてみたらどうかな。
昔のことを思い出しながら話をするのは、脳にいい刺激をあたえるらしい。縁起でもないけど、親を亡くした人が「もっと話を聞いておけばよかった」って、よく言ってるよね。「話したいときに親はなし」だ。お互いにとって、幸せな時間になると思うよ。
会話っていうのは、餅つきと同じで、ひとりじゃできない。「つき手」と「返し手」が必要だ。お父さんと娘とで力を合わせて、おいしい餅をたくさんついてくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。