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毒蝮三太夫インタビュー 年寄りと付き合う極意は「対等な関係が大事」【第11回 かける言葉】

 よかれと思って言った言葉が、相手を傷つけることがある。介護状態にある高齢者や障がいを抱えている人に、どんな言葉をかければいいのか。そして、何を言ってはいけないのか。ラジオの生中継で多くの“ジジババ”に元気を与え、幅広い世代から熱い支持を得ている毒蝮さんに、気づかいが必要な状況でのコミュニケーションの極意を尋ねた。(聞き手・石原壮一郎)

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俺に気をつかってくれた特養のジジイ

 このあいだ仕事で特養(特別養護老人ホーム)に行ったんだよ。特養だから、わりと重い状態の年寄りばっかりが生活してる。俺が来るって言うんで、喜んでくれたんだろうね。ひとりのジジイが向こうから近づいてくるんだ。だけど、なかなか前に進まない。

 待っているあいだ、なんて挨拶すればいいのかずっと考えてたんだよね。「お元気ですか」とも言えないし、いきなり「大丈夫ですか」もヘンだし、なんて迷っているうちに近くに来ちゃった。しょうがないから「よう、調子はどうだい」って言ったんだ。

 そしたら、そのジジイがなかなかシャレてて、絞り出すような声で「絶好調だよ」だって。俺はものすごく嬉しかったし、ものすごく救われた。絶好調なわけはないけど、だからこそ言える冗談で、こっちに気をつかってくれたんだよね。介護される側だって、気をつかわれるばっかりじゃなくて、精一杯こっちをもてなしたいんだよ。

 別のときも、面白いジジイがいてさ。「マムシさん、俺は認知症なんだよ」っていうから「へー、見えないね」って返したら、「一歩歩くと何を言ったか忘れちゃう。二歩歩くと何を忘れたかも忘れちゃう。三歩歩くと何もかも忘れちゃう。“歩くハイマ―”なんだよ」だって。「俺は酒がやめられない“アルチュハイマー”」って言ってるジジイもいたな。

「対等な関係」という前提で接することが基本

 相手が年寄りだと、ついつい自分だけが気をつかって相手は受け身の存在みたいに思ってしまう。もちろんやさしさや思いやりは大事なんだけど、ひとつ間違えると、相手にも人格があることを忘れちゃうんだよね。年齢がいくつだろうと要介護状態だろうと、あくまで「対等な関係」という前提で接するのが基本なんだよ。

 年寄りだけじゃない。車いすの人や目が見えない人に「かわいそうに」なんて言うヤツがいるじゃない。あれはよくないね。あんな失礼な言葉はない。人間っていうのは、他人に上から見られるのがいちばん嫌なんだ。言ったほうは自覚はないかもしれないけど、「かわいそうに」って口にした瞬間、心のどこかで優越感を覚えてる。そんなつもりじゃないって言ったって、相手はそう取るだろうね。

 俺は、たとえばラジオの中継現場に目が見えない人が来てくれたら、「お前、見えないから、いろいろ不自由だろう」って言ってる。丁寧な口調で言うとしたら「いろいろご不自由も多いでしょうね」かな。上から目線で「かわいそうに」って憐れむのと、同じ目線で気持ちを寄り添わせるのとは大違いなんだ。

 だけど、このあいだ口が達者なヤツがいてさ、「見えないから不自由だろう」って言ったら、「不自由だけど、いいこともあるんだよ。マムシさんの顔を見なくて済む」って言いやがった。コノヤロウって思ったけど、仲間だと思ってくれてるからそういう冗談が出てくるし、こっちも一本取られて愉快な気持ちになれるんだよな。

 障がいを持っていることは、たしかに不自由だったり不便だったりすると思う。だけど、だから不幸だと決めつけるのは健常者の傲慢だよ。介護が必要な年寄りに対しても、同じことだ。勘違いの善意で「かわいそうだ」「不幸だ」っていう視線を向けるのは、当人たちにしてみれば鋭い刃を突き刺さされてるのと同じことなんだよな。

 別のときに、交通事故で両足の膝から下を切断した女性が中継現場に来てくれたことがあった。その人が言ってたな。「私は見てすぐわかる障がいを持ってるけど、見かけは五体満足な人でも障がいを持ってる人はいるわよ」って。どういうことかって聞いたら「言うことや考えていることが障がいだらけの人って、多いわよね」って嘆いてた。

 たしかに、そのとおりだよな。年寄りだとか若いとか、障がいがあるとかないとかなんてどうでもいい。その人の心の中がちゃんとしてることのほうが、ずっと大事なんだよ。

■今回の極意

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう) 

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう) 

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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第1回 ありがたい存在
第2回 ヨイショ
第3回 みんな図書館
第4回 戦争体験
第5回 高齢者との付き合い方
第6回 日野原重明さんに教えてもらった大切なこと
第7回 親との正月
第8回 寅さんと俺
第9回 妻へのハガキ
第10回 妻とのなれそめ

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